サンタさん
文化祭もテストも終わって、もうすぐ冬休みが来る。
「冬休みだぞ依吹っちー!」
無事補習を回避した小夏は、飛び跳ねながら私に向かってきた。
「そうだね。楽しみ。小夏はどこか旅行行ったりするの?」
「ないから依吹っちと一緒に過ごすぞ!」
「こなっちゃん、冬休みの課題がある事忘れてないよね」
白葉ちゃんは小夏の頭にワークを乗せて、呆れたようにしていた。
小夏は小夏で一気にテンションが下がっていた。
「そ、それはそれだ。依吹っち、冬休み終盤は一緒に過ごそうな」
小夏が私に向けて何度もウインクをしていると、白葉ちゃんがワークの背で軽く小夏の頭を叩いた。
「いぶっちゃんに甘え過ぎない。こなっちゃんの宿題はあたしが徹底的に管理してあげる」
「うぇ〜ん、依吹っち助けてくれ〜。白葉っちがいじめてくる〜」
小夏は私に抱きついて、白葉ちゃんから隠れるように体を縮こめている。
「今回は白葉ちゃんにお願いしようかな」
「そ、そんな〜。殺生な〜」
「私もついているから大丈夫だよ」
小夏の頭を撫でながらそう答えると、白葉ちゃんがため息を溢した。
「まったく、いぶっちゃんもこなっちゃん甘やかしすぎだよ」
「ついつい小夏の期待に応えたくなっちゃって。あまり人に頼られることってなかったから」
「それにしてもだよ」
「まあまあいいじゃないか! あたしはそんな依吹っちが好きだぞ〜」
「私も小夏の事好きだよ」
小夏は嬉しそうに私の顔を見て笑顔を浮かべた。
「じゃあデートするぞ! クリスマスデート! イルミネーション見に行くぞ、依吹っち! 白葉っち!」
「あたしも?」
「白葉っち彼氏と別れたんだから付き合えー!」
「おかげさまでクリスマスはフリーですよ。いぶっちゃんもクリスマス平気?」
「うん。特に予定はないから」
「じゃあイブとクリスマス両方埋めてやるぞ!」
小夏がスマホを握って両手を高々と上げる。
「大丈夫だけど、イブは少し早めに解散だと嬉しい」
「何かあるの?」
「あたしよりも大事な事か⁉︎」
「家族でパーティーするの。それに、サンタさん来るからいつもより早めに寝ないとだし」
そう言うと、白葉ちゃんと小夏、二人の表情が妙に固まった。先に口を開いたのは白葉ちゃんで、その言葉には困惑の色が伺えた。
「サンタさんって、その、赤い服着たおじいさん? トナカイ乗ってる」
「そうだよ。ちゃんと毎年、サンタさんに手紙書いてるよ」
白葉ちゃんは何か言おうとしたのか、口を開いたものの、空気を吸っただけで閉じてしまった。
「依吹っち、まだサンタさん信じてるのか?」
「えっ?」
次の瞬間、白葉ちゃんが勢いよく小夏の口を塞いだ。
「いやー冗談きついよこなっちゃん〜。サンタさんいるに決まってるじゃーん。見た事ないからって存在疑っちゃサンタさんに失礼だよ〜」
「白葉っち知らないのか? サンタさんはおや──」
今度はさらに強く小夏の口を塞いだ。
「サンタさんって、いないの?」
そう聞くと、白葉ちゃんは笑顔を浮かべて勢いよく首を横に振った。
「何言ってるのいぶっちゃん。こなっちゃんの適当に騙されちゃダメだよ。サンタさんはいるよ。実在するから──あ、ちょうどいいところに! サンタさんっているよね!」
白葉ちゃんは廊下から教室に入ってきた、すみちゃんのグループ一行に話しかけた。
「何言ってるの入雲〜。サンタがいるわけない──わけないじゃーん。なーに言っちゃってんのまったく〜」
白葉ちゃんが私を指した途端、橋野さんの声色と表情が変わり、他の人達も同調するように頷いた。
「ええ。サンタさんはいるわ」
「いるいる。サンタはいる」
「大丈夫だよ藍川さん。サンタさんはちゃんといるよ。あまり、変な言葉に惑わされないでね」
白葉ちゃんはその後も、瀬野君達にも言質を取っていた。
「あたし知らなかったぞ、サンタさんが実在していただなんて……! あたしは今まで騙されてたのか⁉︎」
「そうだよ。いるよサンタさんは」
白葉ちゃんはどことなく疲れているように見えた。
◇◆◇◆◇
家に帰ると兄がリビングにいたので、返事を期待しないで話しかけた。
「ねえ兄。サンタさんって本当はいないの?」
「何言ってんだお前。いるに決まってんだろ。俺は見たことあるっつっただろ。何吹き込まれたか知らないが、意地悪信じるなよ」
兄はこちらを見ず、呆れた口調で返した。




