七木純蓮⑤
三年生に上がってすぐ、私は毎週日曜、いぶの家を訪れることにした。表面上の理由は、皆に本当に付き合っていると証明する為。本当の理由は、私がただいぶに会いたかったから。
いぶを利用し、いぶを縛り、いぶの意思を尊重しなかったことから、私は罪悪感でいぶに自分から無意味に近づく事ができなくなった。だから、周りの噂を利用して、いぶに近づく理由を正当に作った。
何も話さず、視線を交わさず、ただ側にいるという事実だけで満足だった。
変に緊張しなくていい。肥大化する自分の気持ちが露呈する危険性がない。本当に、これで良かった。
でも、高校生に上がると段々抑えが効かなくなっていった。
一番の理由は小夏ちゃん。小夏ちゃんはまさしく、私が望んだ場所だった。
いぶの側にいられて、触れられて、好きを口にできて、いぶに受け入れられるそんな場所。
──いいな。ずるい。羨ましい。
かつて私が周囲から抱かれた気持ちを、今度は私が小夏ちゃんに向けている。
──私が欲しいもの、全部全部手に入れてずるい。羨ましい。どうして、そこにいるのは私じゃないの。
小夏ちゃんと一緒にいるいぶを見るのが辛かった。無意識に小夏ちゃんを睨んでた。誤魔化す為に、より一層笑顔を意識した。
──大丈夫、私なら耐えられる。だっていぶは、誰のものにもならないから。
そう言い聞かせて止めていたのに、いぶがその壁を壊してきた。
「私達って、いつまで恋人同士なの?」
聞きたくなかった言葉だった。意識しないでほしかった。
終わりなんて、考えたくなかった。
「あなたが嫌になるまで」
こんなの、でまかせだった。いぶが嫌になることなんてない。だから、期限なんてない。一生別れたくない。そう、遠回しに伝えるための言葉だった。
いぶが、昔の関係を取り戻そうとしてくれたのは嬉しかった。同時に辛かった。いぶの望む昔は、今の私では叶えられないから。
「好きだよ」
この言葉が伝わらないのが、どうしようもなく辛くなるの。
「私も好きだよ」
軽く返されるその言葉が、私の心を切りつけるの。
いぶに好きな人ができたらちゃんと別れる。
──本当はそんな気一切ない。
いぶに好きが伝わらなくても仕方がない。
──本当は伝わってほしい。
いぶが笑って過ごしている姿を見ると嬉しくなる。
──本当は私にだけその笑顔を向けてほしい。
仮初の恋人でも満足してる。
──本当の恋人になりたい。
愛しているのは私だけでいい。
──本当は愛してほしい。
今の私は当然の報い。
──嘘。両思いになりたい。同じ重さで好きって言ってほしい。私に恋をしてほしい。私に欲を見せてほしい。いぶの一番大切な人になりたい。愛してるって、言われたい。
この矛盾で厄介でどうしようもない程膨れ上がった気持ちが、抑えきれずに表に出てくる。
何度好きと伝えても伝わらない。いぶに届く頃には、私の重い気持ちは軽くなる。だから、いぶに愛してるだけは伝えられない。いぶから帰ってくる愛してるは、とても軽くて、私の心に穴を空けるものだから。
──彼女はきっと、私を愛していないから。
違う。こんな私を愛さないでほしい。
嘘。本当の意味で私を愛してほしい。でもね、こんな私を愛してほしくないのも嘘じゃないの。
だって、こんな卑怯な私が許されていいはずない。優しいいぶが絆されていい人間じゃない。
いぶは私のこと、月みたいって言ってくれたよね。半分だけ、納得できるよ。だって、私は太陽に照らされて輝く月の裏側にある陰だから。
──陽は陰を照らしてはいけない。だって、陰は照らされてしまったら消えてしまうから。
「いぶ、愛してるよ」
だから私を、愛して──
カクヨムキャッチコピーつけられるんですが、本作のキャッチコピーは『彼女はきっと、私を愛していない。』です。




