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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
神殺しの魔窟

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109話 雪の旅景色

 ――遡る事12年前。バリルライオ王国北部。


「う゛う゛う゛……、ざっみぃ!」

 しんしんと雪の降る街道を、炎魔石を搭載した馬車が行く。

 軽鎧の上から厚手の外套を羽織った『千剣』のレオンがガチガチと歯を鳴らす。


「ははは、レオンは大げさだなぁ」

 御者の席から幌内を眺めて『城塞』のバルドがケラケラと笑う。屈強な身体をさらに堅強なプレートアーマーで覆い、一見して防寒対策は行っていないように見える。

「大げさじゃねぇよ!寒いんだよ!なぁ、リューズ!?」

「ん?まぁ、寒いは寒いかな」


 幌の中で炎魔石で手を温めながらリューズが同意するが、その温度差がレオンを苛立たせる。

「その程度の寒さじゃねぇんだよ!その魔石寄越せっ!こっちは障壁張れないんだからよ!」


 魔力で身体の外側を覆う、魔導障壁。――通称『障壁』。範囲や強度の差はあれ、初等学校で習う魔法の初歩の初歩。魔力量は随一のレオンであるが、彼は魔法が一切使えない。魔力による身体強化は行えるが、『障壁』は魔法の範疇であり、彼は扱えない。


 なので、冬のバリルライオ北部の寒波を防ぐ手立ては彼には無い。

「寒い寒い寒い寒い……」

 リューズから魔石を受け取りながらも、まだ寒い。


 その様子を眺めていたマリステラがピンと閃く。

「あ、そうだ」


 そのつぶやきは三人の視線を集め、次の瞬間寒さに強張ったレオンの表情が和らぐ。

「お?おぉ……?」


 確かめるように両手を握っては開き、マリステラはいたずらそうに笑う。

「私の障壁。広げてみたんだけど、どう?」


「お~、こりゃ助かる。あんがとな、マリステラ」

「いいえ~、どういたしまして」


「待て待て待て待て」

 笑いあう二人に真顔でリューズが割って入る。

「あぁ?なんだよ」


「あー、いや。障壁って、……広げただけだろ?それじゃ、やっぱり……なぁ?」

 苦笑いで要領を得ない説明をするリューズ。レオンとマリステラは顔を見合わせる。


「何か問題が?」

「問題って言うか、マリステラは……、その……なぁ?」


 そこで二人はリューズの嫉妬に気が付いてニヤリと笑う。

「へぇ、私は?なに?なんなのかな?」

「そうだ、てめぇいつも偉そうにしてんだからはっきり言いやがれ」


「は、はぁ!?それは関係ねーだろ。マリステラは俺の……!」

「俺の~?」

 楽しくてにやにやが止まらないマリステラ。


「はいはい、二人ともリューズをからかうの終わりだよ。お客さんで~す」

 御者席からバルドののんきな声が響く。


「ちっ、間の悪い」

「あ~あ。あとちょっとだったのに」


 レオンは舌打ちをして、マリステラはいたずらそうに笑う。


「リューズ。ちょっと身体動かして温まってくるわ。お前はそこで寝てな」

「……へいへい。怪我すんなよ」


 レオンは剣を抜き、ニッと笑う。

「するか、こんなとこで」


 馬車の周りには十数匹のグラキエス・ウォルフ。雪に溶け込む純白の身体で、群れで連携して馬車を狙う北部地方ではかなり厄介な魔物だ。ダンジョンから抜け出た個体が、ここバリルライオ北部にも自生してしまっている。


 バルドと、レオンと、マリステラは馬車の外で臨戦態勢をとる。


「さて、サクっとやっちゃいますか」



◇◇◇


 ――時は戻って現在。バリルライオとの国境を越え、リューズとシーラは竜馬(りゅうば)に乗り北部ユルニルドの街を目指す。


「終わりっ」


 漆黒の二又槍(バイデント)をヒュンと振り、シーラが勝鬨を上げる。その周囲にはまるでかき氷のように、雪の上を真っ赤な鮮血が染め上げる。血の主は十七匹のグラキエス・ウォルフ。真白な身体は雪に横たわり、今際の際に見開いた水色の瞳だけが雪上に光る。


「……懐かしいなぁ。12年前も戦ったよ」

「へぇ」


 リュージとルーシーが直立で待つ傍らで、シーラは短刀に持ち替えてグラキエス・ウォルフの解体を行う。

「確か魔石は膵臓付近かな。自生個体だと無いからな?」

「ん。知ってる」


 肉を切り分けて、そのまま無造作に二頭に差出し、リュージとルーシーは短く歓喜の声を上げてからガツガツと肉を貪る。狼の類はあんまり旨くないんだよなぁ。


「12年前はどうだった?」

 狼を解体しながらシーラが俺に問いかける。

「そうだなぁ。三人が戦って、俺は馬車の中でのんびりさせてもらってたよ。この程度の敵に怪我なんてしないやつらだったからな」

 思い出して、つい懐かしくなる。そして、その四人で笑いあったひと時は、もうほとんど彼らとの最後の思い出だと思うと、一人で勝手に寂しくなってしまう。


「レオンは魔法が一切使えないからさ、障壁も張れないからずっと『寒い寒い』って言ってたよ」

「ふっ。しょぼっ」

 シーラは勝ち誇ったように笑う。

「……お前それイズイに言ったらぶん殴られるぞ?」


「私は全然寒くない。私のほうが強い」

 シーラは両手を広げてその場でクルリと回る。シーラに遅れてマントが弧を描く。外套も羽織らず、足はいつものショートパンツだ。

 雪景色にスラリと伸びる生足。

「……見てるこっちが寒くなるよ。風邪ひくなよ?」

 外套の襟を締めながら手を擦る俺を見て、シーラは得意げに胸を張る。

「ひくはずがない」


 エルラディールを出て十日。いくつか町を経由しつつ、大陸北端の街・ユルニルドを目指す。天候の具合もあるが、あと三週間もすれば到着するだろう。


 12年前は王都から直行ルートだったのでもう少し近かったけど、障壁の張れないレオンがいるから馬車での旅になり、時間はかなり掛かったなぁ。


 ぼふっ


 一瞬理解が追いつかなかった。頭部に衝撃を受けたと思ったら、ぽろぽろと白い塊が顔に落ちてくる。


 シーラを見ると、白い雪玉を手に持ち、いたずらそうな顔で俺を見ている。

「……てめぇ」

「リューズ。雪合戦。やろう」

 返事を待たずにシーラは俺に雪玉を放ってくる。一応分別があるのか、力と速度はかなり抑えられているので一安心。シーラなら雪玉で人が殺せる。


「いいか?絶対本気出すなよ?C級。そのくらいの力でやれよ――ぶっ」

 話す間に俺の顔面に雪玉がヒットする。

「あはは、『ぶっ』て」

「笑い事じゃねぇ……、うえっ!生臭っ」

 よく見ると狼を解体した手でそのまま雪玉を握ると言う蛮行。

「生臭いんだよ!手洗ってからにしろ!」

 雪玉を投げるが、当然シーラは最小限の動きでひょいと交わす。

「は?私は臭くない。おじさん臭いのはリューズ」

「それは否定しないけども!?」


 俺とシーラの雪合戦。俺に雪玉が当たる度に竜馬達が歓声の様に声を上げるのはなぜだろう?

 まぁ、楽しんでくれてるならなによりだ。



 


 

 

 


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