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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
神殺しの魔窟

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106話 母の面影

 ――国境の街・エルラディール。その市民街の片隅、路地裏の奥にあるシーラの祖母の家。


 お茶に呼ばれた室内は、年季を感じる建物とは対照的にこぎれいに整頓されていた。日当たりの悪い窓辺に、鉢植えの観葉植物が彩を添える。


「ばあちゃん、アレ出して。リューズに食べさせたい」

「はいはい、もちろんありますよ」

 俺とシーラにお茶を淹れてくれた祖母をこき使うシーラさん。だが、おばあさんもどこか嬉しそうにシーラの要求に答える。


 しばらくしておばあさんは戸棚から煎餅を取り出す。


「ほら、あんたは昔からこれが好きだったねぇ」

「あはは、やった。リューズ。食べな」


 味がしないはずのシーラが子供のころから好きな食べ物?

「あ、じゃあ。失礼して……」

「えぇ、どうぞどうぞ」

 おばあさんに促されて一枚手に取る。見たところシンプルな醤油煎餅。

「いただきまっす」

「いただきます」


 口を開けて煎餅をかじろうと歯を立てる。――否。歯が立たない。

「硬っ!?」

「ふふふ、岩みたいな歯ごたえ」

 シーラは楽しそうにガリ、ゴリと音を立てて煎餅を食べる。あぁ、味というか食感が好きって事か。それにしてもすげぇ音だな。

「岩は言い過ぎだろう、まったくねぇ」

 おばあさんもニコニコと煎餅を頬張る。え?食べられないの俺だけ?


「おばあさん、すいません。俺歯が強くないみたいで、……お茶に漬けてもいいっすか?」

「あらあら、こりゃあ失礼したねぇ。どうぞどうぞ、遠慮なく」


 あまり行儀のいい行為ではないのはわかっているが、どうせ食べるならおいしく食べたい。

 おばあさんの淹れてくれた緑茶に煎餅を浸して、ふやかしてから食べる。醤油の香ばしい香りが緑茶の苦みと溶け合う。

「ん、うまいっすね。家で焼いてるんですか?」

「そうなのよ。ご飯余らせちゃったときとかねぇ」

「へぇ~!その発想はなかったな。作り方教えてくださいよ」

「あらあら、お上手ねぇ。簡単よ?」


 気が付くとシーラは口いっぱいに煎餅を頬張ったまま咀嚼を止めていて、じっと俺を見ていた。

「なにか?」

 問いかけると、ずいっと煎餅と緑茶を俺に差し出してくる。

「味。味して。私も食べたい。ばあちゃんの煎餅!」


 そうだよな。食感だけであんなに喜んでるんだ。このうまい煎餅の味を知ったら、絶対にもっと嬉しいに決まってる。


 さて、『手を加える』の条件を満たすには?お茶に浸す程度では微妙なので、お茶を入れるとこから始めてみれば確実だろう。おばあさんに断ってお茶を淹れさせてもらい、そこに全力で割った煎餅を浸す。で、完成。シーラおばあちゃん特製の『せんべい茶漬け』だ。


「おぉ」

「熱いぞ」

「ふふ、知ってる」

 と言いながらふやかした煎餅を取り出して、パクリと食べる。

「……!」

 頬に手を当てたシーラは無言で目を丸くする。


 そして、確かめるようにもう一口食べて、お茶を飲む。ゴク、ゴク、と喉が動き、飲み終えると身を乗り出して俺に顔を近づける。

「リューズ!ばあちゃんの煎餅、……おいしすぎるんだけど」

「わはは、知ってる。あとで作り方聞いとくから」

「ばあちゃん、煎餅おいしすぎる。硬いだけじゃなかった」

「おや、それは嬉しいねぇ」


 優しいまなざしをシーラに向けるおばあさん。

 

 それから、おばあさんは昔話をしてくれた。


 シーラのお母さん・シルフィーナさんのこと。17歳の時、市街に降りてきたヴァンデント公爵子息に見初められて子を成したそうだ。当時ヴァンデントは28歳。年齢差は11歳。17歳。今のシーラの年齢と同じ。貴族からすれば当たり前のことなのだろうか?


 シルフィーナさんはシーラが11歳の時に亡くなった。つまり、28歳で。もし、今生きていたら34歳。ベラドンナは……もう少し年上だった気がする。年上で貴族出身の正妻と、年下で平民出身の側室。子を成したのもシルフィーナさんの方が早い。


 事実を並べただけでベラドンナの嫉妬や憎悪のような負の感情がどれだけ二人に向けられたのかが想像できてしまう。時折、シーラと二人で訪れたというこの家が、シルフィーナさんにとってどれだけ救いになっていたのだろう。


「なぁ、シーラ。おばあさん、好きか?」


 シーラは間を置かず、ふやかした煎餅を頬張りながらこくりと頷く。

「うん。好き」


 一切の照れもないストレートな好意に、おばあさんも頬が弛む。


 そして、シーラは何やら指折り数えて言葉を続ける。


「七番。七番目に好き」

「順位は残酷だからやめて!?」


 つい大きな声を上げてしまうが、シーラはどこ吹く風で嬉々としてその内訳を説明しだす。

「お母さん、リューズ、イズイ、セレスティア。リュージとルーシーは甲乙つけがたい。で、ばあちゃん。ほら、七番」

「お願いだから黙ってくれるか?」

 リュージとルーシーが竜馬(りゅうば)だなんて、口が裂けても言えない。


 チラリとおばあさんを見ると、予想に反して嬉しそうにシーラの話を聞いて頷いていた。

「そうかい、そうかい。好きなものがいっぱい増えたんだねぇ、シルヴァリアは」


「うん。ばあちゃんはずっと好き」

「私もずうっとシルヴァリアの事が大好きだよ」

「へへ、大好きか」


 シーラは嬉しそうに笑い、その光景を見ているだけでおじさんは泣きそうになってくる。


「リューズさん。シルヴァリアのこと、どうかよろしくお願いしますね」

 おばあさんは、ペコリと俺に頭を下げる。

「えっと、パーティメンバーとして、って意味でいいんですよね?」

 苦笑いで俺が答えると、おばあさんは意味ありげな含み笑いで返してくる。


「ばあちゃん。リューズは私の為に死ねないって」

「あらまぁ」

「おい、妙なチクりはやめろ」


 おばあさんは驚いた顔をして、シーラは俺の制止も聞かずに言葉を続ける。

「私が危なくても助けないって言ってた」

「おやまぁ」

「ちょ、ちょっと。シルヴァリアさん?」


 少し前と打って変わって、おばあさんは俺に疑惑のまなざしを向けて、シーラにひそひそと耳うちをする。

「シルヴァリア?……本当に大丈夫なのかい、この人」

「うん。リューズはマリステラが好き」

「今それ関係あるかな!?」


 日も暮れているので、おばあさんの誘いもあり俺たちは一晩泊まらせてもらう。


 そして翌朝、ドラッケンフェルド家の屋敷へと向かう。

 

「それじゃ、二人とも気を付けてね。またおいで」

「ん。じゃあね」

「……ちゃんと手紙は書かせますんで」


 路地を出て、大通りを北へと向かい、城を目指す。

「いいばあちゃんだなぁ」

 俺が呟くと、シーラは嬉しそうに『でしょ』と笑った。


 


 

 


 

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