表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(書籍発売中!)逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜  作者: うちうち
IF ~もし魔法使いちゃんが世界樹で長命種であることを告白しなかったら~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/56

【2期】6話 「同じ顔の客人」

 王女は、二枚目の絵の前で足を止めたまま、しばらく動かなかった。


 一枚目は、世界樹の側で祈る人々の絵だった。

 巡礼者たち、土地の民、巫女たち。その群衆の端に、薄い色の髪の少女がいた。少し似ている――そう思っただけだった。





 だが、二枚目は違う。


 海辺の港町で行われた船祭りの絵。

 帆を飾った船、魚を捧げる人々、潮風に翻る旗。場所も、空気も、服装もまるで違う。


 なのに、その絵の片隅にもいた。


 木箱の上に腰かけ、果物を抱えた年若い少女。


 薄い色の長い髪。

 どこか気の抜けた立ち方。

 つい今しがた見たばかりの顔立ち。


 古い絵だ。顔立ちが少しくらい重なることはある。

 髪の色も、絵具の褪せ方でどうとでも見える。


 そう思おうとして、王女は無意識に最初の絵を振り返った。

 それから、もう一度、目の前の絵を見る。


 似ている、ではなく。

 同じに見えた。








 王女は、そのまま回廊の先へ進んだ。


 三枚目には、いなかった。

 山間の礼拝堂の落成図。集まっているのは職人と土地の領主で、見覚えのある顔はない。


 四枚目にも、いない。

 北方の冬市を描いた絵。雪と毛皮と白い息ばかりが目につく。


 五枚目で、また足が止まった。





 南方の歌会を描いた絵だった。花輪と薄布に囲まれた人垣の後ろ、楽師たちの影に紛れるように、あの少女が立っていた。


 王女はさらに進む。


 次はいない。

 その次にもいない。


 だが、忘れかけた頃にまた現れる。


 全部ではない。

 むしろ、ほとんどの絵にはいない。


 それでも、時々ふいに、いる。





 王女は、絵の下に添えられた札を見た。


 寄進元の地方名。

 描かれた出来事。

 おおよその年代。


 三百年前。

 六百年前。

 さらに奥では九百年前。


 場所も違う。

 時代も違う。


 なのに、現れる少女だけが変わらない。





 この神殿には、土地の内外を問わず、寄進された絵や記録が集まる。

 祈りの品も、珍しい資料も、誰かが残したいと思ったものは、長い年月のうちにここへ流れ着く。


 もし本当に同じ顔が時代をまたいで残っているのなら、群衆画の先に、もっとはっきりした痕跡があるかもしれない。






 王女は回廊を離れ、さらに奥の保管区画へ足を向けた。


 人物そのものを描いた記録や、寄進品に添えられた由来書き、保管札のついた古い額装が、年代ごとに収められている場所だった。


 壁に掛けられているものは少ない。

 多くは額に収められたまま棚に立てかけられ、あるいは箱に寝かされ、目録だけが別に置かれている。





 王女は目録を取り、群衆画と年代の近いものから順に当たり始めた。


 一枚目。違う。

 二枚目。違う。

 三枚目は老いた学者。

 四枚目は武装した地方領主。

 五枚目は見知らぬ巫女。


 額を戻す。

 次の棚へ移る。





 そこにも、関係のない顔が並んでいた。

 老女。若い術師。商人。兵士。旅芸人。


 王女は無言で、ひとつずつ確かめていく。


 違う。

 これも違う。



 そして、何枚目だったか分からなくなった頃だった。






 その中の一枚を取り上げた時、王女の指先が止まった。


 若い少女の肖像だった。


 群衆に紛れていた時より、ずっとはっきり分かる。

 薄い色の髪。静かな目元。幼さの残る輪郭。


 小ぶりな椅子に斜めに腰かけ、膝の上で指を重ねた姿で描かれている。

 少し首を傾け、こちらへやわらかく微笑んでいるその顔には、構えたところがまるでなかった。



 王女は、額を少し持ち上げたまま見つめた。



 きちんと肖像画らしく座っているのに、どこか少しだけ気の抜けた空気。


 ……知っている顔だった。






 額に添えられた保管札には、こうあった。


 ――『灰花の娘』。


 本名ではない。

 その場で誰かがそう呼んだだけの名に見えた。


 王女はその額を脇へ置き、次を探した。








 すぐには出てこない。

 次の棚にもない。

 さらに別の箱を開けても、老神官、地方の豪商、名もない修復師の記念画ばかりが続く。


 王女は眉を寄せたまま、また一枚ずつ見ていく。






 そして、かなり間を置いて、もう一枚を見つけた。


 違う年代。

 違う土地から来た記録。


 こちらの少女は立ち姿だった。

 袖の長い旅装の上から薄い外套を羽織り、片手を椅子の背に添えている。

 髪の結い方も違う。前の絵よりきちんとまとめられていて、表情もわずかに大人びて見えた。


 描き方そのものも違う。絵師の癖だろう、目元の線も、口元の柔らかさも少しずつ違っている。


 けれど。


 目の置き方。

 少しだけ気の抜けた立ち方。

 こちらを見ているのに、どこか別のものにも気を取られていそうな表情。


 保管札には、別の呼び名がある。


 ――『野葡萄の客人』。







 王女は、その場でしばらく動かなかった。


 さらに三枚目を見つけるまでにも、長くかかった。

 別の箱。別の棚。別の地方から送られた寄進記録。


 今度の少女は、窓辺に身体を半分向けた姿で描かれていた。

 髪を緩くまとめ、片手には閉じた扇のようなものを持っている。

 服も前の二枚とは違う。地方の意匠なのか、胸元の刺繍が細かい。


 なのに、ふと目が合った気がするあの感じだけは、やはり同じだった。


 ――『春眠の魔女』。





 王女は、小さく息を吐いた。


 当たりが続いているわけではない。

 むしろ、ほとんどは無関係な顔ばかりだ。


 その中に、忘れた頃に混ざる。

 別の時代の、別の土地の、同じ少女が。




 王女は、見つけた額を近くへ寄せ、保管札に添えられた覚え書きを読む。


 ――祭りの折、焼きたての平パンをたいそう喜ぶ。

 ――果実の籠を提げていた。

 ――寄進ののち、夜明け前には姿が見えず。

 ――騒ぎの翌朝、客間はもぬけの殻。

 ――去り際を見た者はいない。


 別々の時代。

 別々の呼び名。

 別々の土地から流れ着いた記録。


 それなのに、記される癖がどこか似ている。


 パン。

 果物。

 そして、何かあれば、すぐにいなくなること。






 王女は無言で、さらに次の額を確かめた。 

 そこで……王女は、ぴたりと動きを止めた。






 ――そこに描かれた少女は、禍々しい、黒い杖を持っていた。











 描かれている少女は、石の手すりに軽く体重を預けるように立っていた。

 肩の力は抜け、口元にはごく薄い笑みがある。

 手にある大きな黒い杖だけが、まるで噛み合っていなかった。


 王女は前の額を見返した。

 そこには杖がない。

 さらに前にも、ない。


 群衆画でも、最初の方では手ぶらだった。

 籠を抱えていたり、果物を持っていたりすることはあっても、杖はない。






 王女は、もう一枚出す。

 そこには、また杖がある。


 さらに一枚。

 やはりある。


「……途中からなのね」


 王女は、年代を見比べた。


 最初の記録から数百年。

 顔は変わらないまま。

 ある時を境に、杖だけが加わる。


 ぞくり、としたものが背を撫でた。






 王女は最後に、保管箱の奥に収められていた少し大きめの額を取り出した。


 少女は正面を向いていた。

 大きな黒い杖を片手に持ち、こちらに向かって、やわらかく笑っている。


 無害そうな、にこにことした笑みだった。

 何も知らない人間が見れば、親しみやすい旅人の娘にしか見えないだろう。


 なのに、王女の喉はひどく冷えた。

 その顔を、知っていた。






 額に添えられていた保管札を読む。


 ――“白枝さま”と呼ばれた客人。

 ――甘い果実と白パンを多く寄進す。

 ――滞在三日。

 ――術式庫に騒ぎありし翌朝、姿を消す。

 ――笑みやわらかにして、害意なしと多くの者これを記す。







 王女は、しばらく動かなかった。


 害意なし。


 それはたぶん、本当なのだろう。


 この少女は、何かを壊しに来たわけではない。

 奪いに来たわけでもない。

 ただそこにいて、何かが起きると、騒がせたことを悪く思って、自分から消える。


 それが一度や二度ではなく、何度も繰り返されてきたのだとしたら。








 王女は目を閉じる。


 もし、あの魔法使いの少女が、自分の正体を知られそうになった時。

 もし、自分が長く生きすぎていることを、周囲が知ってしまった時。


 きっとあの子は、申し訳なさそうな顔をするだろう。

 それから、笑ってごまかして。

 最後には、いなくなる。


 あの子にとっては、百年くらい姿を消すことも、ひどく大げさなことではないのかもしれない。

 こちらが、永遠の別れだと思うほどの長さでも。




 王女は、目を開けた。


「……だめね」


 小さく呟く。


 ひとりで知ったままにしていいことではなかった。






* * * * * * * * * * * *





 勇者と剣士が呼ばれた時、王女はまず何も説明しなかった。


「ついて来て」


 それだけ言って、二人を群衆画の回廊へ連れていく。


 王女は最初の絵の前で止まった。


「世界樹の側で祈る人々の絵よ」


 群衆の端にいる少女を示す。






 次の絵へ進む。


「こっちは海辺の港町の船祭り」


 勇者は最初、何も言わなかった。

 ただ、二枚のあいだを視線が往復する。






 その次へ進む。


「山地の礼拝堂の落成図。ここにはいない。さらに北方の冬市。これにもいない」


 王女は歩を進め、南方の歌会の絵の前で止まった。


「……ここで、またいるの」





 勇者が、ようやく息を吐いた。


「……いや」


 低い声だった。


「ちょっと待て。これ、どういうことだよ」


 剣士は無言のまま絵に近づいた。

 その視線は鋭いのに、表情だけが少し固まっている。


「……同じだな」


 短い一言だったが、いつもよりわずかに重かった。








 王女は二人をさらに奥へ連れていく。


 人物記録の保管区画。


 目録。

 取り出したままの額。


 勇者の視線が、保管札の呼び名を追う。


「灰花の娘……野葡萄の客人……春眠の魔女」

「本名じゃないわ。その時その時で、周囲が勝手に呼んだだけでしょうね」


 王女は、覚え書きの残る保管札を示した。






「好むものも、消え方も似ている。パンと果物。騒ぎのあとに姿を消す」


 勇者は、そこで言葉を失った。


 幼馴染として知っている癖が、何百年も前の覚え書きの中にそのまま残っている。


「……おかしいだろ」


 掠れた声だった。






 最後に、王女は杖を持った絵を見せた。


 勇者の顔色が変わる。


「おい……これ」


 今度は、そこで言葉が切れた。


 剣士が低く言う。


「杖まで同じか」


「最初の頃の記録には出てこないの。けれど、ある時期から先は、かなりの頻度で一緒に描かれているわ」


「知られたら、逃げるか?」

「たぶんね」


 勇者が王女を見る。


「なんで、そこまで言い切れるんだよ」

「記録がそう言っているからよ。騒ぎのあとに消える。翌朝にはいない。去り際を見た者がいない。……あの子らしいでしょう」


 勇者は答えなかった。


 善意で。

 迷惑をかけたと思って。

 自分が消えれば丸く収まると考えて。

 そういうことを、あの子は本当にやりかねない。







「問い詰めたら終わりね」


 王女が言うと、剣士は短く頷いた。


 勇者が低く問う。


「じゃあ、どうする」


「もっと調べないと。杖が出始める時期を絞って、年代を照らす。いつ頃の記録から、あの子が出てくるのか」


 勇者はなおも王女を見ていた。


「そのあとは? 捕まえるのは簡単だけど、あいつ、たぶん杖呼べるぞ。逃がさないのはたぶん無理だ」


「逃げられないようにするんじゃないわ」


 王女は机の上に置かれた肖像画を見下ろして、不敵に笑った。






「逃げなくてもいいと、分かってもらうの」







* * * * * * * * * * * *






185:風の名無しさん

 王女様の調査シーン怖かった

 暗いし

 無音だし

 職員はなんか不気味だし


191:風の名無しさん

 急なホラー展開やめろ


197:風の名無しさん

 でもこれで

 魔法使いちゃんが長命種なことがほぼ確定しました


200:風の名無しさん

 あんなに叩かれてた長命種ニキの説が正しかったとは……

 このリハクの目でも読めなかった


204:風の名無しさん

 長命種ニキを1度も疑わなかった者だけが石を投げなさい


210:風の名無しさん

 いや私は最初から信じてましたよ!


217:風の名無しさん

 叩いてたのはスレの空気であって

 俺個人ではないんだよね


224:風の名無しさん

 あれは否定じゃなくて

 健全な議論の活性化だから


231:風の名無しさん

 ワイは反対してたんやない

 長命種ニキを試してただけや


238:風の名無しさん

 ともかくこれでハッピーエンドだよね!

 もう寿命とか気にする必要0なんだから!


249:風の名無しさん

 いやーよかったなぁ


280:風の名無しさん

 長命種ニキはなんで喜んでないの?

 もっと喜びなよ当たってたんだから


291:長命種ニキ

 だってこの後って

 いえ何でもないです


300:風の名無しさん

 いいから言ってみなよ

 いえ教えろください


306:風の名無しさん

 あ、でも確かに……


309:長命種ニキ

 1000年後も生きてるのって魔法使いちゃんだけですよね?

 仲間はみんな死んでますよね?


317:風の名無しさん

 え?


326:風の名無しさん

 まあそりゃ……うん


341:長命種ニキ

 じゃあまた1人になっちゃうなって


350:風の名無しさん

 あんなに「ずっと一緒にいる」とか言っといて?


366:風の名無しさん

 勇者と魔法使いちゃんが結婚すれば良くない?

 それで子供と一緒に暮らせば?

 ほら魔法使いちゃんの子ならたぶん長生きでしょ?


383:風の名無しさん

 いや養子でもいいだろ

 いっぱい引き取れば寂しくないじゃん


388:風の名無しさん

 見送る回数が増えるだけでは……


394:風の名無しさん

 でも勇者、魔法使いちゃんとちゃんと進展できそ?

 これまで全然進んでませんけど、限られた時間内でいける?

 俺は無理だと思う


401:風の名無しさん

 同じく

 うまくいく未来が見えん……

 せめてあと80年くらいあれば……


410:風の名無しさん

 もう(時間)ないじゃん……


417:風の名無しさん

 監督「この話はラブストーリーですし、ハッピーエンドを目指してますよ」


423:風の名無しさん

 「目指す」ってのが不穏すぎる


429:風の名無しさん

 到達するとは言ってないんだよなぁ……


2期もアニメは全10話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ