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エイムの魔法植物学  作者: izumo_3D
ー誘惑の森編ー
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魔獣「セイレーン」

エイムとシラセは、同時に息を呑んだ。

茂みの奥、日光さえ届かぬ暗がりの一点に、ふと影が揺れた。


枝葉がわずかに震えるたび、二人の緊張はじわじわと高まっていく。やがて、ぼんやりと輪郭が浮かび上がる。それは人影だった。

静寂が張り詰め、息も苦しくなるほどの緊迫が周囲を満たすその瞬間——。


「いやー、やっと見つけたよー!」


妙に間延びした声が、森の空気をあっさりと破った。

まるで緊張感のない声に、エイムは不気味さを感じ、反射的に眉をひそめる。


「朱色の髪の女の子に、白髪の少年。さっきの会話からすると…女の子が『エイム』で、少年が『シラセ』かな?

よろしくね~♪」


軽い声色。場違いなほど明るく無邪気。

そのいびつな雰囲気をまとう男は、茂みからゆっくりと姿を現した。

深くかぶっていたフードを指でつまんで、自らめくる。

露わになったのは、鮮烈な色をした金髪だった。

わずかな陽光を受け、絹糸のように輝くそれは、ふわりと耳にかかり、風が触れれば軽やかに揺れた。

すらりと伸びた体躯は若々しく、しかしどこか掴みどころのない中性的な美しさをまとっている。

その目元は前髪に隠れてよく見えないが、わずかな隙間から覗く光は刺すように鋭く、底知れぬ狂気と純粋さが混ざり合っていた。


「…あなたね、あの魔法の歌をけしかけたのは…! 一体何者!?」


エイムが叫ぶ。緊張で声の端が震えた。


金髪の男は、肩をすくめて笑う。


「ああ、そうだね。僕だけ君たちの名前を知ってるのはフェアじゃないな。

僕は『アシュクラ』。よろしくね♪」


軽く手を振りながら近づいてくる。

奇妙なほど晴れやかな笑みを浮かべ、森の闇が似合わないほど軽率な仕草で。


エイムはこぶしを握りしめ、身構えた。

しかし、アシュクラはなんの緊張感もないまま、ただただこちらに歩みを進めてくる。

エイムはどう対応すべきか、思考を巡らすも、答えはすぐには出ない。


その時、シラセがぽつりとつぶやいた。


「…セイレーン、か…」


アシュクラの足が、ぴたりと止まる。

一瞬だけ、表情という概念が消えたような無の顔が覗いた。

だがすぐに、ゆるく口元をゆがめ、にやりと愉快そうな笑みを取り戻す。


「…へえ、詳しいね。やっぱり、ばれちゃってるか。」


「シラセ、セイレーンって…」


「二百年前に討伐された魔獣だ。猛禽類の体に女の顔を持つ、不気味な化け物だよ。

その歌声で冒険者を惑わせ、魅了し、生きたまま喰らった——そんな記録が残ってる。」


シラセは額に汗を浮かべ、息を詰まらせながら続ける。


セイレーンの歌声は、一度耳に入れば正気が侵される。

意識が揺さぶられ、思考が霧に包まれ、ただただその歌を求めさまようのだ。

そして先ほど、シラセは身を持ってそれを体験してしまった。

ほんの一瞬、あの甘美な旋律に飲まれかけた恐怖が、いまだ胸にしがみついて離れない。


アシュクラは楽しげに手を打つ。


「まあ、知ったところで対策なんてすぐにできないよね。

さあ、この状況でどう戦うかな?教えてよ、君たちの“答え”をさ。」


ぱん、と手をたたき、大きく広げた瞬間——。


森の暗がりから、いくつもの光が点くように瞬いた。


エイムが息を呑む。

木々の影、枝の上、葉の隙間……気づけば、“眼”がこちらをすでにとらえていた。


囲まれていた。


「…そんな…!」

エイムが思わずつぶやく。


人の倍はある翼を折り畳み、女の顔をした怪鳥たちが、こちらを見下ろした。


その妖艶な唇がゆっくりと開く。

次の瞬間——。


森の空気が震え、世界が一瞬だけ色を失った。


この世のものとは思えないほど美しく、甘く、堕ちるような戦慄の歌声が、エイムたちの周囲を包み込んだ。

シラセは瞬時に両耳をふさぐ。

それでも、シラセの目の前はぐにゃりとゆがみ、正常な思考を保つのがやっとだった。


だめだ、目も開けていられないー


シラセは思わず両目を閉じて、地面に膝をつくようにしゃがみこんだ。


「あっははは!いいねぇ、頑張って抵抗しちゃって!

でもそんなんじゃ、セイレーンちゃんたちの攻撃は防げないよぉぉお!!??」


一斉に、セイレーンたちがとびかかってくる。


逃げ場はない——

戦うしかない。


エイムは一人、覚悟を決めて、怪物たちを見上げていた。

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