抗う意志は、石化などしない
壁に叩きつけられたシラセは、崩れるように地面へと倒れ込んだ。
意識が、遠のく。
全身を鈍い痛みが襲い、視界はにじむ。
耳鳴りが、金属を擦るような音で世界を覆い尽くしていた。
――俺は……どうなった?
脳裏にかすみがかかる中で、シラセはかすかな意識を繋ぎ止めながら、倒れたままの姿勢で必死に視線を巡らせた。
エイムの姿を、探していた。
ぼやける視界の先、向こうを向いた巨大な蛇の奥に、エイムが立っていた。
バジリスクの体に隠れて、表情は見えなかったが―
嫌な予感が、よぎる。
――まさか……バジリスクの眼を……!
あの怪物の眼を見れば、石にされる。
「っ……!」
声を出そうとするが、喉が焼け付いたように動かない。
指すら思うように動かせない。けれど、目は、彼女の異変をはっきりと捉えていた。
膝下から、灰色がにじむように肌へ広がっていた。
石化だ。
確実に、エイムの身体を侵食している。
「……やめろ……!」
声にならない声を漏らしながら、シラセは懸命に腕をついて体を起こそうとする。
だが、力が入らない。口から血が垂れ、赤い滴がぽたぽたと地面に落ちる。
涙が、意思とは無関係に滲んでいた。
――エイムがやられる。
守ると誓ったのに、守れない。
こんな無様な姿で、何が“俺が守る”だ。
俺はまだ……こんなにも、弱いのか。
滲む視界の中、ふたたびエイムの姿を追う。
彼女は何かに取り憑かれたように、急いでポシェットの中を探っていた。
――何してるんだ……。
もう……腹部まで石化が進んでるんだぞ……!
そのとき、バジリスクがわずかに身体をずらし、隠れていたエイムの表情があらわになった。
その顔は――必死そのものだった。
恐怖ではない。諦めでもない。
ただ、何かを掴み取ろうとする、強烈な意思。抗う者の顔。
その瞬間だった。
シラセの心に、火がついた。
――何してんだ、俺は。
エイムは、石化に侵されながらも、まだ立っている。
あんな顔で、あんなに必死に――もがいてる。
……勝手に諦めてんじゃねえ……!
這いつくばって終わるつもりか、シラセ!!
「……っ、ぐっ……!」
震える脚に力を込めて、シラセはふらつきながら立ち上がる。
全身に激痛が走る。血が口の端から垂れ続けている。
それでも、目は――研ぎ澄まされていた。
諦めるな。
まだ、やれることはある。
何かが、あるはずだ――!
立ち上がったシラセに気づき、バジリスクが振り返ろうとする。
「まだ、終わってないよ!! あなたの相手は、私だ!!!!」
エイムの叫びが、空気を裂いた。
バジリスクの顔が再び彼女の方へと向く。ピタリと動きを止める怪物。
そのあまりの気迫に、バジリスクは再度、すでに石化が始まっているはずのエイムを警戒したのだ。
そのとき、すでにエイムの肩まで石化は進行していた。
だが、彼女の手――指先だけが、最後の意志を宿すように動いていた。
何かを、摘まんでいる。
「まだ……終わってない!! 絶対に……私たちは、生き延びる!!!!」
その声は、もはや叫びではなかった。
命の炎そのもの。燃え盛る意志の塊だった。
シラセは、かすむ視界のなかで必死にその指先を見つめた。
――そこに、あったのは。
色とりどりの色彩を放ち、そして先端が透けた――見覚えのある、花びらだった。
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