蛇の王・バジリスク
「……蛇?」
エイムが目を見開き、驚いたようにシラセを見た。だがすぐに、何かに合点がいったように顔つきを変える。
「そうか……! 二つの斑点――あれは、蛇に噛まれた痕だったんだ!
しかも、咳やくしゃみがないってことは、病気じゃない。蛇毒によるものだって説明がつく!」
「……ああ。実はここ数日、小さな動く影を何度か見かけてた。最初は気のせいかと思ってたけど、ついさっき、その正体をはっきり見たんだ。……小さな蛇だった」
「じゃあ、やっぱり……間違いないね」
エイムは確信を込めて頷くが、その眉間に不安のしわが寄る。
「……でも、変だよ。普通、蛇ってわざわざ人の多い町なんかに入り込む?
しかも、自分からどんどん人を噛みに行くなんて……ちょっと不自然すぎる」
「ああ。本来、蛇は人間を避ける生き物だ。まるで何か目的があるような……」
言いかけたところで、二人の視線が重なった。
ぞくり、とした戦慄が背筋を走り、額に冷たい汗がにじむ。
「……これ、シラセの村で起きたことと同じじゃ……」
エイムが小さく、震える声でつぶやいた。
「誰かが……意図的に仕組んでるな」
シラセは握った拳に力を込め、唇をかみしめる。脳裏に浮かぶのは、かつての村の惨劇。その瞳には、消えぬ怒りの炎が宿っていた。
「また、同じことを……。絶対に許せない! 今度こそ、止めないと!」
エイムの声が震えながらも、鋼のような決意を帯びて響く。
「……敵が蛇を操ってるとすれば、一つ心当たりがある。
守護英雄様の英雄譚に出てくる、“蛇の魔獣”だ」
そう言って、シラセは伝承に記された魔獣の話を語り始めた。
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その名は――蛇の王・バジリスク。
その体躯は、何百年もの歳月を生きた大樹の幹のように太く、長さは流れる川のようだったという。
だが、恐ろしいのはその大きさではない。真の脅威は、その瞳に宿る『魔眼』。
目を合わせた者は足先から全身が石と化し、そのまま絶命する。
しかも、その石化はバジリスクを討ち取っても解けることはなく、一度目が合ったが最後、逃れる術はない。
かつて、守護英雄がこの魔獣を討つまでに、多くの命が失われたと記録されている。
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「……バジリスク……!」
エイムが冷や汗をにじませながらその名を口にする。
「もし今回の件が、そのバジリスクによるものだとしたら……。
目が合った瞬間におわりなんて、どうやって戦えばいいの……?
守護英雄は、どうやってそんな化け物を倒したの?」
「伝承によれば……守護英雄様は“目を閉じたまま戦った”と記されてる」
「ええ!? 目を閉じたまま、戦う!? そんなの、普通の人間には無理だよ……!」
シラセは少し顔をしかめながら、記憶をたどる。
「ただ、そのとき守護英雄様の周囲が“細かな光でキラキラと輝いていた”とも書かれてて……。
でも、それが何だったのかまでは分かってないんだ」
「ふうん……何か特別な魔法だったのかな。でも目を閉じて戦うなんて、現実的じゃないよね……」
「……だから、作戦がある」
シラセは声を潜め、真剣な目でエイムを見つめた。
「不意を突くんだ。バジリスクが眠っているときを狙って、俺が遠くから矢で“眼”を撃ち抜く」
「なるほど……! 魔眼さえ封じれば、勝ち筋が見えるってことだね!」
「ああ。だけどこの作戦には難点がある。そもそも、その寝ている時間帯をどう調べるか、だ…
下手をすれば、調査の時点で目が合って――即、終わりだ。」
シラセは唇を噛む。
「そっか…」
二人は下を向いてしゃがみ込んだが、エイムがふと思いついたように口を開いた。
「…あ、待って!バジリスクの魔眼は、生きてるものを石に変えるんだよね!?」
「…?そうだけど…」
「なら、私の人形たちなら大丈夫なんじゃない!?
魔法で動いてはいるけど生きてるわけじゃないから、魔眼の影響も受けないはず!」
「な、なるほど……! 人形なら石になることもない……!」
「それに、隠密行動なら知っての通り大得意だよ!よし、さっそく調査を――!」
勢いよく立ち上がったその瞬間、エイムの身体がぐらりと揺れた。
「おい、大丈夫か!?」
「う、うん……ちょっと寝不足で、ふらついちゃった」
「エイム、ずっと起きてたもんな……。今日はもう休め。調査は明日からにしよう」
「でも、今も苦しんでる人がいるのに……!」
「わかってる。でもな、ここで俺たちが失敗したら、もっと多くの人が犠牲になる。
だからこそ、絶対に失敗は許されない。俺たちは“万全の状態”で臨むべきなんだ」
その言葉に、エイムは少し肩を落としながらも頷いた。
「……うん、わかった」
二人は静かに腰を下ろした。
外の空気は張り詰めたままだが、いまは備えに徹するときだった。
――いよいよ、蛇の王との戦いが幕を開ける。
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