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エイムの魔法植物学  作者: izumo_3D
ー亡霊の家編ー
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32/69

取り戻した記憶

エリシアは、差し出された小さな実を不安げに見つめ、そっと手に取った。


「大丈夫。この中には、あなたの大切な記憶と時間が詰まってるの。

…ゆっくり、食べてみて。」


「……うん。」


震える指先で、エリシアはそっとその実を口に運び、一口かじる。


その瞬間――

世界が音を失った。


ふわりとした温もりが、体の奥から湧き上がってくる。

心の隙間に、柔らかな光が差し込むようだった。


――あれ……なんだろう、この感じ……

ぽかぽかして、あったかくて……

何かが、私の中に満ちていく……?


やがて、つぼみがほどけるように、記憶が、心に広がっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここは……私の家……?


「ねぇ、お母さん。お父さん、まだかなぁ?」


「そうねえ。きっと、そろそろ帰ってくる頃よ。」


「ただいまー!」


「あ、お父さんだ!帰ってきた!!」


「ははっ。ほら、エリシア、見てごらん。変わった形の楽器だろう?お土産だよ。」


――そうだ、お父さんはいつも旅の帰りに、珍しいものを持ってきてくれたっけ。


「わぁ!なにこれ!?すごーい!やったー!」


そのたびに宝物が増えて、私は胸がいっぱいになった。


「ふふ、良かったわね。」


「大切に使うんだぞ。それから……たまには父さんにも貸してくれよ?」


「ふふ、たまにならねー!」


あの頃の私は、自分が両親にとってかけがえのない存在だと、確かに感じていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ねえ、お父さん。私も冒険に行きたい!」


――そうだった。私はいつだって、お父さんが旅に出るのが寂しくてたまらなかった。


「そうだなあ……よし、エリシアが10歳になったら、一緒に連れて行ってあげよう。」


「えっ、ほんと!?」


子どもながらに、旅が危険を伴うものだって、なんとなく分かっていた。

だからこそ、お父さんの無事をいつも祈っていた。


「よかったわねエリシア。10歳になったら、三人で冒険よ。ワクワクするわね。」


「やったー!それまでに、いっぱい大きくなる!」


私も、二人の役に立ちたかった。

ずっと、そばにいたかったんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……これは、初めての旅……!


「エリシア、気をつけるんだ!ここは足元が悪い。ゆっくり進みなさい!」


「う、うん……!」


最初は、怖くて、自分のことだけで精一杯だった。

それでも――


「大丈夫!お母さんが後ろにいるわよ。」


「うん……!」


二人は、決して私を責めなかった。

いつも、優しく手を差し伸べてくれた。


「よし、難所を越えたぞ!やったな、エリシア!」


「ありがとう、お父さん、お母さん!」


「…おお、見てごらん。すごい景色だろう?あんなに町が小さく見える。」


あの光景。あの感動。

二人と一緒だったからこそ、あれほどまでに美しかったんだ。


「……すごい……」


「きれいね……こうしてみると、自分たちがちっぽけに見えるわ。」


「うん……来られて、よかった……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


実をかじるたびに、心の奥底に沈んでいた記憶が、鮮明に蘇っていく。

なぜ、こんなにも大切なものを忘れていたのだろう。


それは確かに、私が生きていた証。

そして、両親とともにあった時間の証。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……あ……この景色……だめ……

胸が……苦しい……!


「見てごらん、エリシア。見たことのない花が咲いているよ。」


「本当だ……透き通ってて……きれい……

お父さん、あの花、持って帰ってもいい?」


お願い、やめて。早く逃げて!


「そうだな、この遺跡はもう誰も来ない場所のようだし…危険がなければいいだろう。」


「やった!」


「ふふ、ちゃんと世話するのよ?」


「うん!」


「それにしても……遺跡の風化がひどいな。気をつけて進もう。」


ゴゴゴゴゴゴ……!


「な、なに!?」


「地震だ!全員、急いで外へ出るんだ!!」


「う、うん!」


ガラガラガラガラ!!!


「うあああああ!」「きゃああああ!」


……気づけば、お父さんもお母さんも瓦礫の中だった。


「お父さん!お母さん!」


「エリシア……ここはもう、危険だ……逃げなさい……」


「そんな……!嫌だ!私がいま助けるから!」


「だめだ……いいから……早く……!」


ゴゴゴ…ゴゴ…


「次の揺れが来る…!行きなさい……エリシア!!!!」


「う…うあぁ…うあぁぁぁあああ!!」


なぜ――

なぜ、私は二人を残して逃げ出してしまったの……?

一緒にいれば、あんな寂しさを味わうこともなかったのに……

ずっと……一緒に……


ドゴォォォンッ!!


「おと……おかあ……うああああああああああ!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ハァ……ハァ……う、うああああ……!」


そこには、全ての記憶と時を取り戻し、エイムと同じくらいの背丈になったエリシアがいた。

現実に戻ったエリシアは、膝を抱え、叫ぶように泣き崩れた。


「お父さん……お母さん……なんで……!」


荒く乱れた呼吸とともに、床に黒い感情が滴り落ちていく。

涙が、止まらない。


「私は……見捨てて……逃げて……!」


その様子を前にしたシラセは拳を握り締め、ただ黙って立ち尽くすしかなかった。


だが――


エイムが、静かにエリシアの傍に寄り添い、そっと抱きしめた。


「つらかったよね……どうしようもなかったんだよね……

でも、大丈夫。あなたは、生きてていいんだよ。」


「……ハァ……ハァ……」


徐々に、エリシアの呼吸が静まっていく。


「思い出したの……素敵な思い出も……二人が……死んだ瞬間も……

私……どうして生きてるの……?」


「エリシア。自分を責めないで。

そして思い出して。

あなたのお父さんとお母さんは、何を望んでいたの?」


「え……?」


エリシアは、記憶の中の二人の笑顔を思い浮かべる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ゆっくりでいい。少しずつでも、エリシアが大きくなっていくことが、父さんたちは嬉しいんだ。」


「いつかエリシアが作ったお料理、母さんに食べさせてね。楽しみにしてるから!」


「大きくなったなあエリシア。いつか父さんと一緒に、冒険にいこうな。」


「いつかあなたも、その楽器を演奏して、私たちに歌を聴かせてちょうだい。」


「エリシア…」


「エリシア…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして、小さく震える声で答えた。


「……二人は……いつも私が成長するのを……元気でいることを……願ってた……

私が…未来でも笑っていることを…願ってた…!」


「うん…きっと今も、そう思ってるよ。

どうか、笑って生きてって……

だから、大丈夫。ここにいていいんだよ。」


その言葉とともに、エイムの頬にも、一筋の涙が伝う。

それはまるで、自分自身にも向けられた祈りのようだった。


「……お父さん……お母さん……」


目を閉じて泣き続けるエリシアをエイムは、いつまでもそっと抱きしめ続けていた。

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