揺れる小さな炎
シラセは自室のベッドに寝そべり、眉をひそめて苦悶の表情を浮かべていた。
(俺は、ガルムとの戦いでほとんど何もできなかった…
最初なんか、本当にビビっちまって動けなかったし、エイムがいなけりゃ閃光で死んでた…)
戦いの情景が脳裏に蘇り、悔しさと無力感が入り混じってシラセの胸を締め付ける。
しかし、ふと別の考えがよぎると、硬かった表情が次第に和らいでいく。
やがて力が抜け、ぼんやりと天井を見つめるまま、思考の波に身を委ねていた。
(…それにしても、戦いの中で見たあの人型の炎の幻…あれは何だったんだ…
俺の妄想だったのかな…「私と同じ魔法」って言ってたから、あれは守護英雄様か…?)
(でも、それよりも気になるのは、あの感覚だ…
弓矢を具現化して射る瞬間のあの感じ。今まであんな感覚、一度も感じたことがなかった)
(あらゆるものが鮮明に見えて、聞こえて、時の流れがゆっくりに感じた。
今までできなかった材質変化もできた。全部の感覚が研ぎ澄まされたような…)
シラセはおもむろに体を起こすと、手を前に伸ばした。
そして、念じる。
ー弓よ、具現化しろ。
瞬間、シラセの手には白い弓が具現化されて握られていた。
ーここからだ。集中して…材質を…再構築。
ピキ…ピキ…
すると弓は、ガルム戦の時と同じように、しなやかにたわむ材質へと変化していた。
(できた…いや、できるようになっている。
前は全然できなくて、しばらく材質変化の鍛錬はしていなかったけど、どうしてだ…)
次にシラセは、柔らかくしなる刀剣「ウルミ」を具現化させた。
鞭のように柔らかくしなる長い刀身が特徴で、守護英雄がかつて戦いの中で使用したことがある武器だった。
ー材質再構築、しなりを加える。
しかし、ウルミには何も変化は起こらず、白くて硬い石のような材質のままだった。
(これはうまくできない…
弓との差はなんだ…扱った経験値か?
…確かに俺は、弓の鍛錬にかなり時間を費やしたから、弓の構造や硬さ、しなり具合なんかを明確にイメージできた。
だったら、俺に必要なのは「色々な材質をより具体的にイメージできるほどの経験値」ってことか…?)
シラセは、開いた手のひらをまっすぐに見つめている。
(俺は弱かった。無力だった。
でも、積み上げてきたものもあるし、ほんの少しだけど戦いの役に立った…)
(守護英雄様のようになりたいと思っていたけど、勝手に自分で限界を決めつけていた…
でも、今回の戦いで、限界を少し超えた…気がする。
…まだ俺には、守護英雄様のようになれる可能性は残ってるのか…?)
シラセはそっと指を閉じ、拳を固く握り締めた。
迷いはまだ胸の奥にくすぶっている。
己の力だけでは何も変えられないという現実は、痛いほど理解していた。
限界がどこにあるのかさえ、まだ見えない。
それでも――確かに感じる。
心の奥底で、わずかに震えるような高鳴りを。
それは恐れか、希望か、それともただの錯覚なのか。
夜の静寂の中、彼の心には、風に揺られ消えかかりながらも燃え続ける、小さな炎が確かに灯っていた。
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