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世界の真実

「……う~ん、ムニャムニャ。……って、ハッ!?あ、あれから一体どうなったんだ!?」


 アカテンが目を覚ました時には、世界は酷く荒廃していた。


 自分の記憶からあまりにも欠け離れた光景を前に、アカテンは驚愕するのと同時に首を傾げる。


「この国は"憎悪の極点王"が圧倒的な権能で守護していたはずだろ???なのに、何でここまで世紀末な様相を見せているんだ?」


 疑問が尽きないアカテン。


 分からないなりに、あてどめなく歩き始めようとしたそのときだった。





「その理由はとても簡単です。……この地上に"怨嗟を招く呪詛(ヘイトスピーチ)"が蔓延したから、命あるモノが生きられなくなってきたからです」





 それは、まぎれもない女性の声だった。


 アカテンが声のした方へ振り返ると、そこにはショートカットに中性的な容姿をした16歳くらいと思われる一人の少女と、彼女を守るように傍らで佇んでいる血気盛んそうな同い年くらいの少年がいた。


 アカテンが尋ねるよりも早く、少女が矢継ぎ早に言葉を続ける。


「……日本神話にあるように、かつて父なるイザナギ様が、黄泉比良坂よもつひらさかで死を司る母なるイザナミ様に決別を告げた事によって、地上は生命に満ちた躍動感溢れる世界になりました」


 だが、そこで一息つくと、たちまち少女は悲しげに顔を伏せる。


「……ですが、"憎悪の極点王"が喧伝する『怨嗟を招く呪詛(ヘイトスピーチ)』によって、この地上は他者の"死"を求める意志が蔓延し、今となっては命ある者が生きられない"地獄"へと変わりつつあるんです……!!」


「し、知らんかった!!歴史とオカルト、両方の側面から考察された完璧な理論を前に俺氏、完全驚愕せり……!!」


 この世界の驚くべき真実を前に、絶句するほかないアカテン。


 そんな彼を前に、今まで黙っていたもう一人の少年がズイッ、と前に出る。


「ツカサは、妖怪や魔物と戦い続けた『あやかしマイスター』の一族の出身で、そういう事に詳しいんだ。……アンタ、支配者に立ち向かう山賊達の作品を書いているっていうアカシック・テンプレートなんだろ?」


「……だったら、どうした」


 その言葉を聞いた瞬間、少年が勢いよくアカテンに対して頭を下げた。


「頼む、アカシック・テンプレート!!今の俺の力だけじゃ、あの”憎悪の極点王”っていうとてつもない化物みたいな奴から、ツカサを守り切ることが出来ないんだ!!……だから、王に立ち向かう意思を持ったアンタの力を俺に貸してくれッ!!」


 懸命に覚悟を決めてアカテンに懇願する少年と、目を見開き涙を浮かべながら、そんな少年を見つめる少女。


 そんな2人を前に腕組みをした状態で、瞳を閉じた状態で上を見上げながら静かに黙考するアカテン。


 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。


 一瞬とも永遠ともいえる静寂が、辺りに満ちる。


 やがて、アカテンがゆっくりと瞳を閉じたかと思うと、少年に向けて静かに問いかけていた。


「小僧、お前の名前は何だ」


「……前田まえだ アキラだ。こっちの女の子は弥勒寺みろくじ ツカサって言うんだ」


「そうか……アキラよ、お前に言われるまでもなく、この世界をこんな風にしやがった”憎悪の極点王”はこの俺が倒してみせる……!!」


「ッ!?そ、それじゃあ俺達と一緒に……!!」


 喜色を浮かべた表情でアカテンを見つめるアキラ。


 だが、そんな逸る少年をアカテンを片手で制した。


「……”憎悪の極点王”を倒すのはとてつもなく困難であり、そこに至るまでには多くの犠牲や人としては踏み外してはならない非道な真似をすることになるかもしれない……アキラよ、お前はさっきそのツカサという子を守る!と言い切って見せただろう?ならば、そんな大事な存在を危険な目に遭わせるような道を容易く選ぶべきではないな……!!」


「ッ!?………クッ!」


 反論しようとしたものの、自分にとって何が大切な存在なのかを理解させられ、悔しそうに下を向くアキラ。


 アカテンはそんなアキラから視線を外し、今度はツカサへと顔を向ける。


「ツカサ、と言ったか。今言った通り、”憎悪の極点王”は俺が必ず倒して見せる。……だから、お前達は全てが終わり平和となった世界において、新たな次代を紡ぐ希望の懸け橋となってくれ……!!帰ってきたときに誰もいないのでは、ちょいとばかり寂しいからな」


「ッ!!ハ、ハイッ!」


 そう言いながら、深々とお辞儀をしながら何度も礼を言うツカサと、ただ黙って強い眼差しで自分を見つめるアキラの視線を背中に感じながら、アカテンは颯爽とその場を後にする。










 ……アカテンとしては本当はツカサ達に対して、「さっさと君ら2人で仲良し濃厚子作りをしてから、俺に生まれてきた赤ちゃんの頬っぺたを潰させたり、お尻をペチペチ叩かせてくれたらえぇんやで♡」と言いたかったのだが、初対面の相手に対してどの程度踏み込んだ話をしたら良いのか距離感が分からなかったのと、いくら世紀末の様相をしているからとはいえ、そういう軽はずみなセクハラ発言に走って全てを失うのはリスクが高すぎる、という判断から、そそくさと退散する道を選んだ。









「さぁて、そんじゃあどうすっかね……」


 そのように呟きながらも、強い意思を秘めた眼差しのまま、アカテンはゆっくり歩を進めていく……。

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