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11.同じ町の空と地で<3/4>

「……きみの事情と、エトワール殿下と、エレムさん達の事情との折り合いで、揃って一緒にイムールに向かうことになったわけだね。渡りに船ってヤツ?」

「そうですね、ものすごくできすぎた偶然だと思いますが」

 レドガルの要約を、更にミンユがざっくりとまとめる。

「まぁ、ラムウェジ様が絡んだ時点で、なんらかのちからの働きはあるだろうけどね。僕らみんな、あの人の『縁』に巻き込まれてるようなもんだから」

 達観した様子でレドガルは首をすくめる。

「そういうことなら、ラムウェジ様もエレムさん達と一緒に行った方が、きみの助けにもなりそうなもんだけどな。ラムウェジ様は、ルキルアの部隊と一緒に一旦西に向かうって言ってるんだよね? コルディクス氏が一緒なことを心配してるのかな?」

「あの方、ラムウェジ様と会った後はずっと大人しくしてるんですけどね。コルディクス氏とは関係なく、ラムウェジ様ご自身がエレム様にあまり干渉しないように、気を遣っているんじゃないでしょうか」

「他の人にはぐいぐい来るのにねぇ」

 そこまで言うと、レドガルはなにを思いだしたのか居住まいを正した。

「ちょっと話はそれるけど、フォンセくん、あの白龍くんって呼ばれてる子、()()だと思う?」

「は、はい?」

 いきなり正面から聞かれて、フォンセは言葉に詰まった。

 職務として移動するルキルアの部隊の、客人であるというグランとエレムの存在はまだわかる。ランジュが、ラムウェジの依頼で彼らに連れられている、というのも、まぁそういうものなのだろうと納得はできる。表向きの口実だと察しをつけてはいるが。

 ユカはユカで事情があり、ルキルアで面倒を見ているが、アルディラ姫が後援しているらしい。

 しかし、あの白龍と呼ばれる子供がなぜ、普通に彼らと行動しているのかは全く謎だった。

 聞けば、ルキルアの部隊には、出自不明の同行者が他にもいるらしいが、白龍に関しては全く事情を聞けていないし、察することもできない。

 そもそもあの白龍がいなかったら、フォンセはああまで彼らに注意を向けなかった。それくらい、飛び抜けて奇異な存在だ。

「あの……それは、どういう意味での『なに』かという問いかけでしょう。同行する理由とか……?」

「いや、一緒に行動してる事情はあとでエレムさんにでも聞くけど、うーん、……どういう『存在』だと思う?」

 字面だけだと、奇妙な質問である。ミンユも目をぱちくりさせている。レドガルは言葉を探すように額を掻いた。

「あの子、一見人間に見えるけど、違うんじゃないかなぁって思うんだよね。ぼくは法術師としてそんなに強い素質があるわけじゃないから、はっきり見定められなくてモヤモヤするんだ。……あの子、僕が村で留守番してた間、リオンくんと一緒にランジュちゃんと遊んでたけど、なんていうか、生き物ではない……普通の『いのち』とは別の、『ちから』でできてるような気がするんだよね」

「生き物ではなくて、ちから?」

 ミンユは判っていないのか、ピンと来ない様子でしきりと首を傾げている。逆にフォンセは、我が意を得たとばかりに、身を乗り出してきた。

「そ、そうですよね? ラムウェジ様もルキルアの皆さんも、普通の顔をして接してらっしゃるので、私の感じ方がおかしいのかと、自信がなくなってきてたんですけど……」

「あー、あの人たち、面白いよね」

 レドガルはわかるわかると頷いている。

「たまーに貴族っぽい人が一緒にいるんだけど、あの人も普通じゃ無いんだよ。ミンユくんは知ってるよね、エトワール殿下を治療した……」

「ああ、あの青年貴族のような方ですね、とても素敵なお方なんですけど……、服の感覚センスがなんだか、古い気がするんです」

 と、ミンユはカイチの村の教会建屋で、客人達に茶を振る舞ったときのことを思い返している。ラムウェジとはまた違う癒やしの力を使う、美しい青年が同行していた。

「森の守り神とか不思議なことを言ってましたけど、あれ、ご自分の国での称号とかじゃないんですか? ルキルア軍の関係者かと思っていましたが」

「いやー、あのひと、貴族って訳じゃ無いと思うよ。……きみ、今回の騒動で、エレムさん達と一緒だったんだよね? あのユカちゃんが先に戻ってきた時は、なに言ってるかよくわかんなかったんだけどさ、ルスティナ閣下を背に乗せて戦ったり、グランバッシュ殿を目的の施設に運んだとかいう、翼のある天馬の話とか……」

「え、ええ、彼らに協力している精霊だとかで、ルスティナ様も驚いた様子も無く……え? え? あれ?」

 ミンユは自分で話しながら、だんだん驚いた様子で目を丸くしている。

「あ、あのときは一生懸命で、そもそも状況が普通じゃ無かったから、味方らしいなにかが近づいている以外のことは、あまり気にしなかったんです。ああ、そう言われてみれば、そうですよね、そんなしゃべり方をしてたし……」

 ミンユは、不覚、とばかりに額を押さえている。

 そもそも、舞台ステージは上空の古代遺跡、最終目標ラスボスは闇の魔法使いという、言葉にしてしまうと胡散臭さ一杯の状況下では、なにが起きたところで非日常の延長だ。細かく突っ込む気にもならなかったのだ。

「ラムウェジ様の法術の素養が強すぎて、近くのいるとほかの大概の気配が紛れちゃうんです。おかげで私も目立たなくて済んでるんですけど、ああ、そうでしたか……」

「……ひょっとしてお二人は、感情や意思があるように思える、形の無い『なにか』の存在も、ご承知なのですか?」

 おずおずとした問いかけに、ミンユとレドガルは顔を見合わせ、

「それって、精霊とか、妖魔とか、もう少し弱いものだと、想念とか思念体とか怨念なんて、言われるもののことだよね?」

 通じた!

 精霊はまだ判りやすいとしても、想念といった「思念の集合体」のようなもののことまで判ってもらえるとは思わなかった。フォンセの、明るくなった表情に、ミンユは何故か恥ずかしそうに、

「私はなんとなく、程度なんですけど、わかるときもあります。この場所、なにか嫌だなー、とか」

「僕はもう少し敏感だとは思うよ。地元にいたときはそうでも無かったと思うんだけど、ラムウェジ様といるようになったら、よくそういうのに遭うんだよね」

「そうですね、ラムウェジ様のおかげで、見分けがつけられるくらいの経験を積めたんだと思います」

「うんうん」

 レドガルはしみじみ同意している。

「精霊と呼ばれるくらいになると、力もあるし意思もあるから割とわかりやすいんだけど、形のない『思い』の塊とか、雑多な想念のあつまりっていうのは、自分に気がついてくれるひとに、惹かれて寄ってくるらしいんだ。ラムウェジ様は、あまりよくないものは、それこそ障害物を避けるみたいにほいほい避けてる。でも、過敏なだけで身を守る力の無い人がうっかり近づくと、影響を受けて、気分や精神状態も不安定になるみたいだね」

「そ、そうですね、わたしは逆に、精霊と呼べるくらい強いものは、初めて見たのですが……」

「その精霊も、見える人に言わせると、あちこちにいるらしいよ。気がつかないだけで」  

 さらっと続けるレドガルに、ミンユも頷き返している。

「ラムウェジ様曰く、人混みの中に居るとあちこちに紛れてるので、よっぽど違和感があったり、危険を感じない限りは、見分けようとも思わなくなるそうです。それに、状況によっては、生きた人間のほうが怖い場合もありますからね」

「人間の方が、……そうですよね、言われてみれば」

 雑談の延長のような二人の様子に、フォンセは気が抜けたように微笑んだ。

「今まで、そういうお話ができる人に会ったことがなかったんです。感じているものについて説明しても、誰も判ってくれなくて、自分がおかしいんじゃないかって、ずっと不安でした」

 ミンユは目をぱちくりさせると、すぐに同情するように眉を寄せた。

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