いよいよ選挙が始まります。
そして選挙前日。
午前中のテストを終え、生徒会役員は選挙のための準備に取り掛かっていた。
私は柘植先輩と、ステージ上のマイクの調整や台の位置の確認作業をしていた。
「新任選挙ってポスターとか選挙活動とか出来ない分、当日の演説しかアピール出来ないから大変だよな」
「まぁ、学生の本分は勉強ですからね。私達も前世の勉強の記憶が無いから、ちゃんと勉強しとかないとあっという間に赤点です」
赤点といえば前世の高校の担任思い出すなぁ。熱意がありすぎて、赤点取った生徒を見つけたら例え自分の担当教科じゃなくても指導してたなぁ。でも担当じゃないから先生のおかげで余計にこんがらがって結局担当の先生に聞きに行っていた。皆担当の先生に掴まりたくなくて必死で勉強したから、そのクラスの平均点は学年トップだった。「俺の指導のおかげだな!」って自慢げにしてた担任に皆で苦笑してたっけ。当時は鬱陶しいなんて思ってたけど、今となっては良い先生だったなと思う。
「それで?演説原稿出来たのか?」
「うっ、実は出来たには出来たんですが………」
色んな人に手伝ってもらいながらだけど、なんとか原稿は完成した。チェックも済んだ。
けど、正直
「気に入らないのか?」
「えぇ、まあ」
なんというか、これを感情込めて言えそうにない。棒読みになりそうな感じがする。
原稿は一応同情引く作戦で作ってみたが、そもそも同情を引く気が私に無いからなぁ。
それに自分は、生徒会役員を任されそれを受け入れた以上職務は全うするけど、役員でいることに乗り気かというとそうでもないとかいうやる気中途半端人間だ。私より適任な人がいたら是非ともその人に役員の座を譲りたい。というかもし嫌がっても押し付けたい。追いかけ回してyesと言わせるまでおど、いや頼み込みたい!!
「篠宮、百面相してる暇あったら上行ってマイクの調整してこい」
「はっ、すみません!」
やばいやばい、顔に出てた。慌ててマイク室に向かってほどなくしてマイクの調整が終わると、私達は生徒会室に引き返した。
生徒会室では桃華と副会長が原稿のチェックをしていた。
「あれ、桃華原稿まだだったの?てっきり終わったのかと……」
「書き終わってはいましたよ。貴女への告白まがいのものなら」
「「告白まがい?」ですか?」
私と柘植先輩が尋ねると、副会長は一枚の紙を見せてくれた。そこには
「確かにこれは…」
「自己アピールじゃない、というよりこれそっくり篠宮の原稿として使えそうだよな」
「推薦文としては100点でも演説文としては0点です」
副会長のため息に桃華はだって、と呟く。
「自分のアピール書こうと思ったら勝手にキーが」
「ならないから、勝手に私の推薦文書き始めてたとかありえないから」
「だから今書いてるものをそのまま書き直させてるのですよ。これを利用すれば一から書くより断然楽ですから」
と副会長は眼鏡を光らせて言った。今日も決まっております、魔王様。
とそこに
「戻りました~」
「お疲れ様です」
「お帰り翔汰、遥斗」
「なんとか全員分の投票用紙刷り終わりましたよ」
重かった~と言って2人は淹れてずいぶんと経った自分の紅茶を飲み始めた。
「あ、紅茶淹れ直しますよ」
「別に冷めてても十分美味しいから大丈夫だよ、ありがとう」
「それより、演説は大丈夫なの?」
睡蓮君の爽やかイケメンが決まったところで、金鳳君にさっき柘植先輩に同じようにされた質問を問いかけられた。ただ、柘植先輩は純粋に当選して欲しいからだろうけど、金鳳君は「同盟のこと忘れてないよね?手抜いたら承知しないから」と目で語りかけてる。真剣すぎて容易に返事を返せない。ねえ、ここの生徒会の人口に出さずにどこかしらで訴えるの得意過ぎない?よく怜様はオーラで、副会長は言わずもがな脅…..説得で、金鳳君は目で訴えてくる。ここには人畜無害はいないんですか、まあ、顔立ち整ってるしスタイルも良いからそれだけで何人もの人々を打ち抜くくらい造作もないだろうけどさ、ちくしょう!
「チェックも終わってるし大丈夫だよ」
「ほんと?」
「ほんと、練習もしてるし大丈夫だから」
取り敢えずその目を辞めてくれないか、怜様の特技のブリザードとはまた違った破壊力があるよ、私嘘ついてないから、練習もちゃんとしてるから。
「まあまあ翔汰、やめたげなよ。篠宮さん困ってるから。あ、でも演説は頑張って、初めてで緊張するだろうけど、あの怜先輩に堂々と言えたんだからきっと大丈夫。期待して聞いてるね」
「あ、ありがとう睡蓮君」
止めてくれたのはありがたいけどさりげなくプレッシャーかけなかった、今?睡蓮君のことだろうから無意識なんだろうけど、チキンにプレッシャーは猫に水かけてるようなものだよ、逆効果だよ、睡蓮君。
「まあ取り敢えず篠宮も渡辺も残れるように頑張ってくれ」
「柘植先輩ありがとうございます頑張ります」
かくして選挙前日は終わり、いよいよ選挙の時がやってきたのだった。




