演説を始めましょう。
そして、選挙当日となった。
試験を死ぬ気で終え、桃華と選挙会場へ向かうと他の皆も到着したところのようだった。
「2人とも緊張してる?」
「うーん、確かに緊張してるけどここに来るまでが凄かったです」
心配して声をかけてくれた睡蓮君に苦笑いでそう返す。
まず、学校に着くまでに視線がいつも以上に飛んできた。多分あれが立候補してる地味な方的な噂話をされてたんだろう。その時少しギリギリで登校して良かったと自分の予想を褒めたくなった。テストの日はほとんどの生徒が早めに学校に来て勉強したり友達と教えあったりするので、ギリギリの時間だとそこまで生徒は多くない。予想的中に安堵して私は教室に向かった。その道中も廊下の端々から視線がビシバシ飛んできた。
いや、そこの君達さっきまで
「やば!残り10分でガン見して覚えなきゃ」
とか言ってテキスト見ようとしてたじゃん。何故今テキストでなく私を見る?私にそのテキストの内容は載ってないよ、私見ててもテストの点は上がらないよ?
とかそんなこんなでどこへ行っても視線だらけ。比喩的に表現すれば視線の花道!我ながらいい表現だと思う。
「あー、まあ仕方ないよね。俺も去年の選挙当日は凄かったもん」
「俺も朝からお菓子やら激励文やら大量に渡されて、選挙始まってもないのに凄い疲れた覚えあるなー」
「前の選挙も女の子達キャーキャー言ってましたもんね」
睡蓮君と金鳳君のげんなりした様子につい苦笑してしまう。やっぱり目立つ仕事は大変だ。
「ここに着きたくてもファンの子達に囲まれすぎてなかなか前に進めなかったよ」
「今後あんなに詰め寄られるとしたら卒業式くらいだよね、『第2ボタンください』ってやつ?」
そんな談笑をする彼らに私は心の中で『花道なんかでへばっててすみません』と平謝りをするのだった。
「優美ちゃん、頑張ってくるね!」
「うん、いってらっしゃい。頑張ってきて!」
これから演説をする桃華に応援の言葉を述べ、私は舞台袖に待機していた。風紀委員長である桃華のファンクラブ会長小林先輩の進行によりこの選挙時間は開始した。てか小林先輩風紀委員長だったのか…私初めて知ったよ。さっきキラキラオーラ全開で
「進行しながら見守ってますので、頑張ってください!」
って言われて初めてだったよ、結構なお偉いさんだったんだね、小林先輩。
まあそれはともかく、桃華は多分当選するだろう。聞いてる人達の反応を見ても見なくてもそれがわかる。副会長により軌道修正された演説をする桃華は誰が見ても生徒会に相応しい。ヒロインだからじゃなくて、この人になら上を任せても良いなという安心感がある。それに比べ私は、
「篠宮」
「…どうしましたか、会長」
考え事をしていたため思わず怜様への反応が遅れた。それをおそらく演説への緊張と捉えたのか、緊張しているところすまない、と詫びられた。
「いきなりどうしたんですか」
「今更だが謝っておこうと思って」
謝る?何のことだろう。
気になり無言で先を促すと、怜様は桃華の演説から私に向き直り続けた。
「渡辺とは違い、私達はほぼ強制的に篠宮を生徒会に入れてしまった。嫌がっていたのにも関わらず脅すような真似までして。しかも本来ならすぐに謝らなければならなかったのに今になってしまった。これから演説をするというこの場ですまないが本当に申し訳なかった」
「いや、会長の気にすることでもないですから!そんな、頭上げてください」
まだここが舞台袖で誰にも見られてないから良い……訳がない!!怜様に頭下げられても私どうしたらいいのか分かんないし!?
謝罪の言葉とともに深々と頭を下げる怜様にどう対処していいか分からず、私の頭は軽くパニック状態だ。これ怜様ファンの子達に見られてたら私殺される。生徒会入りしただけで半殺しだったのに今度は確実に殺されてしまう!!
取り敢えずなんとかして頭を上げてもらった。けれど私に向ける視線は申し訳なさそうな怜様の気持ちを乗せていた。
「別に気にしていませんし、生徒会が毎年人員不足なのだろうことは金鳳君から聞きましたから大丈夫ですよ、あまり気にしないでください」
思わず取り繕うような言葉になってしまったけれど仕方がないだろう。人間焦ったときに出てくる言葉なんて自分ではコントロール出来ないのだから。
「演説を頑張れと言うのは篠宮にとって嬉しい言葉なのか迷惑な言葉なのかは私には分からない。けど、出来るなら私は篠宮に生徒会に残っていてほしい」
だから、と呟き、悲痛そうな視線を真剣なものに変えて言った。
「私は篠宮に当選してほしいと思う。そして、私達とこの学園を支えてほしい」
「…私が当選するか落選するかは私自身が決められることではありません」
私は他の役員と肩を並べるには不釣り合いだから。それは自分でも十分自覚している。けれど、なぜかこう思ってしまうんだ。
「けど私も、これからも役員でいたいと願っています」
その時の私の表情が笑顔だったのか泣き顔だったのか困り顔だったのか私には分からなかった。けれど、怜様の
「そうか…ありがとう」
と言うその表情に安堵したのは自分でもきちんと認識できた。
少し遠くで拍手が聞こえる。桃華の演説が終わったようだ。次は私の番。
…私の思いを主張する番!




