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第1話 マキア。8年の時を経て復学を決意する。

 ギィィィン! と鉄を削る高音が響いていた。

 そんな音が鳴り響く部屋の前で男は扉をノックする。

 

「マキア入るよ?」


 そんな優しい声と共にバタンと部屋の扉が開かれる。

 薄暗い部屋の中、マキアと呼ばれた小柄で薄茶色の三つ編みの髪をした少女が鉄を削るディスクカッターを止めてゴーグルを外し扉の向こうに立つ男に顔を向けて首を傾げた。


「お父様?」

「マキア、お前に話があるんだ」

「話……?」


 マキアは工具をその場に置いて体を父に向けた。

 それが合図であると見て、父は部屋に入りマキアの前まで歩を進める。彼の体はマキアの小さな体とは違って大きくて逞しく、顎まで伸びた髭は彼の威厳を表している様だ。


「どうだ、そろそろ学園に行ってみないか?」


 学校……初等部から高等部まで一貫の王立イーリス学園の事であり、マキアはとある理由から初等部の頃から通っていない……。

 今まで父は学校の話題に触れようとしなかったはずなのにどうして今になってそんなことを言うのだろうかとマキアは首を傾げた。


「お前が学園を恐れる気持ちは分かる。だが、このまま屋敷に篭りきりではお前も成長がないと思うのだ……」

「成長……? だけどお父様、私の知識はイーリス学園で学べる物は全て習得済みだよ? 武術はこの貧相な体つきだから期待できないし、今更学園に行く必要ないと思うけど」


 マキアは生まれつき体が貧弱であった。

 別に病弱という訳ではないのだが、怪我をしやすい体質、また小柄で体力も低い。

 

 それはマキアの魔力量が人の数十倍多い弊害でとの事で、現代の治療法ではどうしようもないと診断されている。

 

 そんなマキアは屋敷で勉強をして既に高等部以上の知識を身に付けることが出来ているので、今更学校なんて行く必要が皆無だった。

 

「必要があるかと言われれば無い方が多い……だが、私はお前にもっと外の世界を知ってほしいのだ。それにお前……昔言ってたじゃないか。たくさんの友人が欲しいと」


 過去にマキアは確かに言った。

 まだ6つの頃だ。当時のマキアは翌年の学園入学に夢を見ていた。

 

 学園に行けば友達が沢山できる。一緒に遊んだり、お菓子を食べたり、勉強しあったり……。そんな当たり前の夢を見ていた。

 

 見ていたが……入学した年の冬の事だ。

 ある事件をきっかけに友達という物が恐ろしくなってしまい、以来マキアは学園に通う事を避け続けていた。


「あれから8年も経つんだ……誰もお前の事を疎んだりしないはずだよ?」

「……」


(8年……8年も経ったんだ……確かにあの頃からみんな成長してるはずだし、なんだったら私のことなんて忘れてしまっていて大丈夫かもしれない)

 

 でも、それでも、もしかすると……また裏切られるかもしれない……。あの冷たい言葉を吹きかけられるかもしれない。

 そう思うとマキアは父の言葉に素直にウンと答えることはできなかった。


「そうは言ってもお前が不安なのも理解できる。だから私にいい考えがある」

「いい考え……?」

「ああ。お前はいい意味でも悪い意味でも有名になりすぎた。だがそれは子供のお前の姿と名前を知られていたからだ。今のお前は16の淑女……つまり外見だけなら魔導師だと気付かれまいよ」

「だけど名前が……」

「名前なら偽名を使えばいい。お前には隠していたが、学園長には偽名を使う事の了承は得ている」

「お父様……そんな勝手に。私はまだ学園に行きたいだなんて――」


 マキアの強く発せられた声が部屋中に響き渡る。

 そんなマキアに父は少しだけ笑ったような顔を浮かべる。

 

「だがほんとは行きたいのだろう?」


 図星を突かれたマキアは言葉の続きが出なかった。

 本当は行きたい。

 この狭い部屋の外に出て、同じ歳の子達と一緒に遊んでみたいと、まだ心の片隅に夢見てる部分があるのだ。


「否定しないのだな」


 言われ、俯くマキア。

 

「うん……正直に言いますと学園には行ってみたい……だけど本当に大丈夫なのかな?」

「大丈夫。お前が気を付ければ問題なく普通の生徒として学園に通うことが出来るよ」


 気を付ければ……。

 それはマキアの力を表に出さなければって事なのだろう。

 確かに今の見た目で名前が違えば力を隠し通せたら学生生活を送る分では問題ないかも知れない。

 最初から持っていないものとして装っておけばいいだけの話なのだから。


「どうする?」


 答えは決まっていた。

 8年の時を経て成長した今の体、そして違う名前を使えば今度こそ普通の学生生活を送れるかも知れないのなら――


「私……学園に行きたい」


 そんなマキアの言葉を聞いた父の顔が晴れた様に笑顔に変わった。

 きっと断られるものだと思っていたのだろう。

 父もマキアのことを考えて色々手を回してくれているのだ。

 マキアはそんな父を悲しませたくこれ以上なかった。

(私が学園に行けばお父様も喜んでくれる)

 それに――


「友達……出来るかな?」

「出来るさ。お前は【鋼鉄】――マキア・リスタルテだろう? 不可能を可能にした偉大な子じゃないか」

「あはは。お父様……今からその名前は使っちゃいけないんじゃなかったの?」

「おっとそうだったな! すまんすまん」


 父とマキアはおかしくなって笑い合った。

 (そう私は鋼鉄の魔導師……マキア・リスタルテ)

 この世界に5人しかいない魔導師の1人だ。


「そんなお前に可愛らしい名前を考えてやらんとな」

「なんだか楽しそうだね。お父様」

「それはそうだろ。我が子に名前をつける瞬間というのはだな〜。ワクワクするものだぞ? お前も恋をすれば分かるだろう」


(恋……恋ですか)

 まだ友人の1人もできていないというのにそれは先の話すぎるのではないだろうか。

 そんな父の逸る気持ちににマキアはまたも笑ってしまう。


「決めた……決めたぞ」


 父が目を見開いた。

 どうやら新たな名前が決まったようだ。

 マキアは姿勢を正してお父様に向き合う……。

 こほんと咳払いした父はニッと笑いその名を告げる。


「お前の名前はリーグレットだ! 鋼鉄の名を取り――これからはリーグレット・アイアンガルドを名乗りなさい」

「リーグレット……アイアンガルド……」

「それがお前の正体を隠す名前だ」

新作公開です。

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