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迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~  作者: 沢野 りお
イルブロンの街にて

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臨時メンバー加入 ①

紫髪の気弱な治癒士ティトさんは、一杯の紅茶を飲み終わるころには私たちの存在に少し慣れたのかプルプル震えるのは治まったようだ。レオンさんはティトさんのことなど気にもせず、バクバクと兄が出した焼き菓子を貪り食べている。だから……イケメンが残念なことになって……。


「このケーキ……美味しいですね!」


宿のキッチンを借りて作った素朴なパウンドケーキです。兄が作るとしっとりとしたバター香るお店のケーキになりますが、私と姉が同じレシピで作ってもボソボソとしたケーキになります。なんでや?


「そう言ってもらえて嬉しいです」


「え……、お前が作ったのか? 嬢ちゃんたちは?」


「「…………」」


別に料理ができないわけじゃない。ただ、兄が作ったほうが美味しい。ものすごく美味しい。だから、私たち姉妹は家事に手を出さないだけです。無言の答えに何かを感じたのか、職務怠慢ギルマスは黙ってお菓子を口に運んでいた。


「ところで、アオイたちはオーディールダンジョンに挑戦するんですか?」


ファビオさんがレオンさんを見つめつつ、橘家のこれからを質問する。やっぱり、Aランク冒険者パーティーのメンバーを連れて最低ランク冒険者がダンジョン挑戦するのはダメなの?


「ランクが低いので……できればこの街で生活するのに必要なランクまで上げたいんです」


「必要なランク?」


ファビオさんとギルマスがこてんと首を傾げる。


「アオイたちは、冒険者でランクを上げて家を買いたいらしい。家を買ったら真っ当な仕事に就くそうだ」


「レオンさん……」


その言い方だと、冒険者が真っ当な仕事ではないように聞こえます。あ、真っ当じゃないか?


「まさか、家が欲しくて冒険者になったとは……。お前ら、面白い奴らだな」


ギルマスがニカッと笑って兄を見る。うむ、あまり近づきたくないタイプの人から「面白れぇ奴」認定されてしまった。


「街で家を買うとなったら……冒険者ランクは最低でもCランク。冒険者になったばかりのアオイたちだと……、まぁ、目標は高いほうがいいですね」


ファビオさん……美人エルフの笑顔が胡散臭いです。どうせ、無理な挑戦だと内心では呆れているのだろう。アホ神がくれたお金があるから、そっちは問題ないけど、橘家にないのは異世界での信頼度だもんね。


「アオイたちは家の購入資金に問題はない。ただ……他の国から移ってきたからこの国での市民権がないだけだ」


レオンさーんっ、だから、なんで橘家の事情をペラペラと他人に喋っちゃうのーっ!

隣に座るレオンさんの口を手で塞ぎ、私はファビオさんたちに愛想笑い……だめだ、誤魔化せない!


「ふむ、アオイたちが欲しいのはギルドからの信頼ですか?」


ゴクリ。

なんだか、不味い人に弱味を握られたかのような切羽詰まった感じ。だ、大丈夫かな? レオンさんはもう会話に興味がないのか、モグモグとケーキを食べることに集中している。役に立たないイケメンだな!


「正直にお話ししますね。俺たちは両親が亡くなり親戚の伝手を頼ってトリーア王国へ行きました。ただそこで運悪くスタンピードに遭い、親戚も亡くなり手荷物だけを持ちノイス国まで避難しました。そこで領主様が手配したアーゲン国行の馬車に乗り、周りの人からの勧めもあってフュルト国まで移動してきたのです。ワイバーンに襲われたときにレオンのいる冒険者パーティー「ライゼ」と知り合いになり、住みやすい街としてイルブロンの街を推薦してもらいました」


……スラスラと話す兄に感心しながら、ボロを出さないように私は小次郎の手を握って口を引き結ぶ。うっかりトリーア王国の「勇者召喚」の話とか、小次郎が「勇者」で私に「手芸創作」というトンチキなスキルがあることを喋らいなようにしなくちゃ。


「……ギルマス。アオイたちのこと、私に任せてもらえませんか?」


「なんだよ、お前が気にするようなパーティーか? レオンが絡んでるのは気になるが……元々リーダーのシルビオは面倒見の良い奴だし」


「まあ、冒険者ギルドの信頼を勝ち取るために、私のお願いを聞いてほしいだけですよ」


ファビオさんはにっこり笑顔でギルマスを黙らせると、その笑顔のままこちらへ向いた。な、なんだろう? 逆らえない圧を感じる。


「さて、貴方たちにお願いがあります。私個人からの依頼ではありますが、達成してくだされば、貴方たちがイルブロンの街で家を買うときの保証人として私が名前を貸しましょう」


「……へ?」


それって、何がどうなるの?





























冒険者ギルドを出て、とりあえず昼食でもと大通り沿いの店へ足を向ける。

大人五人と子ども一人。従魔たち四匹。姉の鞄の中に編みぐるみが一つ。……そう、一人多いのである。レオンさんを入れても多い。それは……私たちと行動を共にすることになった人がいるからだ!


「ええっと、ティトさんでしたっけ? 何か食べたいものでもありますか?」


「うひひゃあ! いいえ、いいえ。べ、別にありませんっ。ぼ、ぼぼぼぼ、僕のことは放っておいてください」


これだ。冒険者ギルドを出てから何かと声をかけているが、ビビりまくって会話になりゃしない。ファビオさんから出された依頼は、このティトさんとしばらく一緒に行動して、社交性を持たしてほしいとのこと。


「いや、これ……無理でしょ」


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