表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~  作者: 沢野 りお
勇者召喚と逃亡

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/99

勇者逃亡 ⑪

揉め事は起きてしまったけれど、馬車はガタゴトと道を進む。

ちょっと森の端っこにある道なので、魔獣の襲撃に注意するよう冒険者パーティー「グランツ」から言われた。ニルダさんはいい笑顔で、獣人差別主義のお婆さんとおじさんに「武器は持っているかい?」と意地悪していた。

そう……まるで魔獣が出たら自分の身は自分で守れと言うように。二人とも真っ青な顔をして馬車の前の席で震えていたよ。ひひひ、いい気味……とか思ってないよ?


「ここを抜ければ、アーゲン国の辺境、ウェルタまではすぐだよ」


御者さんが明るい声で教えてくれる。そろそろ馬車に乗っての移動も飽きてきたし疲れたからアーゲン国に到着できるのは嬉しいけど、問題は山積みのままなんだよねぇ。

ため息を吐く私の背中をパンパンと軽く叩いて、兄が食材の入った布袋を指差す。


「さあ、お昼ご飯の準備をしよう。いまは考えてもしょうがないだろう? アーゲン国に着いてから考えよう」


「そうね。でも……はあああっ、心配は心配だよ」


お金はあるのに使えないし、治安は悪いし、魔獣なんて危険生物が闊歩している世界なんて……対応しきれない。こちとら、一般人の兄妹とまだ幼い子ども付きなんだから。


兄が昼食のため馬車を停められる場所の相談に御者席の近くへと移動するのと同時に、馬車の後方に座っていた護衛冒険者の魔法使いドラさんと、馬で並走していたエンリケさんが驚きの声を上げた。


「うわっ」


「止めて! 馬車を止めて!」


冒険者たちの言葉で馬車の中の緊張が一気に増す。私も隣に座る小次郎の体をギュッと抱きしめ姉の手を握る。兄は御者さんに馬車を止めるよう言い放つと、すぐにこちらの席に戻ってきた。


「馬車が止まったら下りろ! 下りてすぐに森の中へ入れーっ!」


エンリケさんの怒鳴り声に振り向くと、ドラさんは馬車から飛び降りて駆け出していて、エンリケさんは馬上で剣を抜いていた。


「うそ……」


魔獣? それよりも馬車を下りて森の中へ……って、魔獣は森の中から襲ってくるんじゃないの?


「桜、こっちだ。菊華、小次郎を頼む」


みんな顔を強張らせて馬車を下りていく。兄も姉の手を掴んで馬車の後ろから飛び降りた。


「菊華ちゃん、行こう」


「う……うん」


私も小次郎と手を繋ぎ馬車の後方から飛び降りた。途端、頭上に大きな影が……影?


「え、なに?」


エンリケさんもドラさんも上を見ている。馬車の前方にいたチュイさんやニルダさんも大きな声で乗客の誘導をしているが、時おり上を見て何かを確認している。


いったい、上に何が?


馬車から下りて森へと走る間、見上げた空に大きな影……影って……なんかデカイものが飛んでるんだけど? あの形は……飛行機じゃないよね?


「ワ……ワイバーンだっ!」


逃げる乗客の中から悲鳴が走る。空を飛んでいる影はワイバーンという魔獣で……とてつもなく強いらしい。


「小次郎、逃げるわよ」


「逃げろーっ! 道に突っ立っていると上から狙われるぞーっ! 森の中、木々の間に身を隠せ!」


エンリケさんたち護衛冒険者の怒鳴り声に押されて、恐怖で竦む足を交互に動かす。たぶん……エンリケさんたちでは討伐できないほど強いのでは? 国境越えの旅を共にする間、みんなは明るく優しい顔しか見せていなかったけど、いまは違う。命と命のやり取り、しかもだいぶ分が悪い戦いに、みんなの表情から余裕が消え悲愴ささえ漂っている。


ワイバーンはこちらに狙いを定めたのか、バサバサと羽を動かしその場を動かない。ホバリング状態だ。馬車には荷物を積んだままだし、食料も持ちだせなかった。みんな手に持った鞄だけ持って必死に走っている。でも、馬車に戻ることはできない。見晴らしのいい場所にいれば、ワイバーンは急降下してきて、その鋭い爪か尖った嘴で私たちを切り裂くだろう。ひいいいいぃっ、恐ろしい。


「菊華!」


一足先に森へ身を隠した兄から差し伸べられた手を見て、私は小次郎の体を兄へと突き飛ばした。だって……だって、嫌なものを見てしまったのだ。

獣人だから誰よりも足が早いはずなのに、モーリッツさん一家のロッツが……ロッツがまだ馬車の近くにいるの! 私はクルリと踵を返し兄から問われる前にダッシュする。


「菊華? おい、待て菊華」


呼び止める兄の声を無視して、私は馬車へ戻る。ロッツはしゃがんでいるけど、その前にいるのはあの失礼なお婆さんじゃないの? なにやってんのよ!


「ロッツ! 早く逃げないと」


「菊華ちゃん……。でもお婆さんが……」


ロッツの前に座り込んだお婆さんは顔を険しくして左の足首を抑えている。ええーっ、ま、まさか……。お婆さんに付き添っているお孫さんの顔を見ると、彼女は真っ青な顔でオロオロするばかり。


「馬車から下りるとき、足を挫いちゃったんだって。どうしよう」


「どうしようって、逃げなきゃ。とにかくロッツはお孫さんと一緒に先に逃げて、お婆さんは私が負ぶるわ」


とにかくここにいたら危ないのよっ。護衛の冒険者たちは上にいるワイバーンに気を取られてこちらには気づいてないみたいだし。ドラさんが目を瞑って杖を握ってブツブツ呟いているから、何か魔法を行使しようとしているのかもしれない。


「ほら、お婆さん。背中に乗って」


私だって死にたくない。早くここから脱出しなきゃ!


「菊華ーっ! 上だーっ!」


「「菊華ちゃん!」」


家族の声に釣られて見上げれば……そこには真っ黒な影とギラリと光る爬虫類の眼……あ、ヤバ、死んだかも?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ