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魔女の計画書

 原作の中で、レラは侯爵令嬢、王太子妃候補の筆頭に位置するお嬢様だ。いきなり現れた恋敵フェリシアを憎く思うのは当たり前で。いろいろな妨害工作をしてくる。いわゆる悪役令嬢の立場だ。


 そして、そのレラと結託して主人公フェリシアの邪魔をするのが、ノームの森にすむ魔女。

 つまり私ってこと、よね?


 レラは魔女の作る薬でフェリシアを亡き者にしようとたくらむが、フェリシアと王子にばれてしまい、レラは修道院に、そして魔女は。


 死刑。


 の一文で処理されていたような。


「最悪だ」

 頭を抱える私にクロが心配げに「にゃあ」と鳴いている。


「転生ものに来ちゃったんだろうなあ、たぶんモブだよねと思ってたのに。まさかの悪役キャラだなんて」


 でも。


 こちらを見上げてるクロに、

「魔女といっても、死に至らしめる薬なんて作れないんですけど、ねえ」

 実際の私にそんな力はない。

「なら大丈夫かしら、あ、だけど待って」

 と椅子から立ち上がった。顎に指を当てぐるぐると部屋を歩いた。


 薬云々を作れる作れないに関係なく、話の流れから抜け出ることができずに悪い魔女にされちゃうんじゃないの? ありそうだよね。だって主人公はフェリシアであり、私やレラは邪魔者なんだから。


「どうしよう」

 ぴたりと立ち止まった私はテーブルに視線を向ける。そこにはレラから払ってもらった金貨が置いてある。

 もうすでにノームの森の魔女なんて名前をつけられてしまっている上にレラが接触してきた。


 このままではまずい、気がする。

 どうしたらいい? どうしよう。


 余程悩んでいたのか、クロが心配そうにニャーと鳴いてはすり寄ってきた。日頃はツンの激しい子なのに。

「ありがとう、クロ」

 そっと頭をなでる。珍しく満足げに目を細めたクロに気力がわいてきた。

「ごめんね。大丈夫よ、あんたの食い扶持ぐらい稼ぐからね」


 よそに移り住むことになっても死刑よりましよね。今はとにかくそれを避けないと。

「私に何かあったらクロはまた一人になるもんね」

 ひとり、いや一匹になっても強く生きてはいけそうだが。

「せっかく、いい流れで暮らしていけてるんだもの」

 頭を抱えていてもしかたない。


 これまたよくある話だけど、バッドエンドを回避しないと。

 読んでるときは楽しんで気楽に読んでたけど、自分に降りかかるなんてシャレになってない。


 私は野菜をくるんでたわら半紙をテーブルの上でのばすと、ペンで書き始めた。

 まずはこれ以上、レラとの接触は控えた方がいいだろう。


「ひとーつ、まずはレラの言うことは聞かないこと」

 また来るなんて言ってたけど、どこかに逃げて隠れた方がいいだろうか。

「ひとーつ、王太子とフェリシアが一緒になるのを邪魔しないこと」

 ノームの森の魔女という名前を払拭したいところだけど、違いますなんて言ってまわってもらちが明かないだろうし。


 ハーブで生計が成り立ってるけど、ほとんどが物々交換だ。お金は少ししかもっていないがそれで他の街に移り住んで他の仕事を探すとか。そうすれば、レラもあきらめるだろうし、魔女の名前も風化するはず。だってここにいないんだから。フェリシアに会うこともなければ邪魔にはならないだろう。


 テーブルに乗って手元を覗き込んだクロが不思議そうに首をかしげてる。

「これはね、生き残るためなのよ」

 ペンを持ち直した私は、

「ひとーつ」

 と書き続けようとしてクロのように首を傾げた。


 王太子の名前って何だった?


 デヴィッドって名前だったっけ? メイドのメイベルさんはそんなふうに言ってたし次期王太子だとも。


「次期王太子ってどういうこと? 王位継承権一位とかならわかるけど。今は王太子はいないってこと? そんな設定だったっけ?」

 それに、と私はつぶやいていた。

「あのお嬢様が悪役令嬢のレラとつながらないのよね」


 何とも乙女、恥じらって頬を染める。魔女と画策してフェリシアをいじめてなんて想像つかない。

 いや、嫉妬でおかしくなっちゃうってのはあるかな。

「でもなあ」

 とまたもや頭を抱えてテーブルに突っ伏した。クロがびっくりしてテーブルから飛び降りた。

 私が読んでたお話ではレラは最初から強気の女性だった。どうしてもさっき会ったレラとつながらない。


「ねえ、どう思う? クロ亅

 窓辺に移動してこちらを見ていたクロに話しかけた。クロは、

「ニャッ」

 と返事をすると、窓から降り、すたすたとドアに向かう。

「そうね。とにかく移動すべき場所を見つけないと。おばあさんに相談してみようかな」

 そう言いつつドアに手をかけたが、そのドアが開いて転びそうになった。


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