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いつも空を見ている③  作者: 汪海妹
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13/13

完璧な小口切り













完璧な小口切り













樹













「お昼ご飯は、いいわよ。樹君。わたしが作るから」

「え?でも、今日は休みだし」

「春樹がね。もうそろそろお母さん帰ってくるなら、駅まで迎えに行きたいって言ってるのよ。樹君、休みくらいしか春樹と過ごせないんだからさ。料理なんかいいから一緒に行って来なさいよ」


夏美さんが折角そう言ってくれたから、僕はそれに甘えた。


「春樹、靴はきなさい。お母さん迎えに行くよ」

「は~い」


ぱたぱたとかけてくる。


「今日はみんな帰ってくる日だね」


僕と手をつないでにこにこしている。


「嬉しい?」

「うん」


川沿いの土手を歩く。ポカポカした陽気。もうずいぶん暖かくなったな。


「おじいちゃん、僕へのお土産忘れないかなぁ?」

「今まで忘れたことないでしょ」

「そうだね」

「今日はお母さんにご飯作ってもらうんだよね。なに頼んだの?」

「今日はね。スパゲッティ。あの、ケチャップのスパゲッティ」

「ピーマン入りの?」

「ピーマンなしの」

「食べなよ。そろそろ」

「あんなの食べる子いないよ」

「幼稚園?」

「うん」


もうちょっと、何か言おうかと口を開きかけたときに、


「あ!」


春樹が駆けだした。


「ママ―!」


そして、転んだ。


「うわーん」


千夏さんと一瞬目を合わせて笑った。それから、駆け寄って抱き上げた。


「もうちょっと遅くなるかと思ったのに」

「ああ、なんかね。普通に順調でさ」


春樹が千夏さんのほうに手を伸ばす。


「おいで」


春樹を渡して、代わりに彼女の荷物を持った。


「重くなったね」

「ちゃんと食べてるからね」

「お母さん、家までは無理かも」

「じゃあ、次はお父さん」

「歩きなさいよ。立派な足ついてるんだから」


僕が言うと、


「いやだ」


普段、仕事で家にいないから。僕たち出張も多いし。海外の。たまにそばにいるときはやっぱりくっつきたいのかなぁ。


***


夜、今度は清一さんが帰ってくる。


「お帰りなさい」

「え?」


すぐにわかるんだよね。お父さん。


「樹君が迎えに出るってことは、もしかして、また?」

「はぁ」

「で、なつはどうしたの?またどっかでてった?」

「はい」

「千夏は?」

「書斎に閉じこもりました」

「おじいちゃん、おかえり~」

「ただいま。春樹。ほら」


清一さんがカバンからミニカーを出した。


「やった~」


キラキラした目をしている。


「床、傷つくからあんまやんないでよ」

「は~い」


返事だけはいいんだけどね。この子いつも。


「で、あれか。最近のネタと言えば」

「はい。2人目」


夏美さんが僕たち2人の前でもうそろそろ2人目産めばいいのにって言って、千夏さん怒った。自分はともかく僕の前でそういうこというなんて、デリカシーなさすぎってさ。そんで、仕事の都合があるからって言って、お母さんが何かって言うとすぐ仕事仕事って、と言って、ほんで、お母さんはまともに働いたことがないからわからないのよ的な返しでね。


お父さんがため息をつく。


「ほんともう、今まで何回仕事から帰ってきてこういうの見たか。あの二人ってさ、仲いい時はすごい仲いいくせに、よくけんかするんだよね」

「昔っからですか?」

「うん。昔っから。なんか、人間ってほんと変わんないよね」


***


「ごめんな。君にこんなことさせて」

「いや。気にしないでください。今日休みだったんで」


食事を出した。今日は僕が作った。休みの日は夏美さんに頼らないようにしている。


「春樹はご飯食べたのか?」

「うん。今日はママのごはんだったんだよ」


にこにこしている。


「あ、すごい、イワシのつみれだ」

「はい」

「もちろん、千夏じゃなくて樹君が作ったんだよね」

「ああ、はい」


稲荷ずし、イワシのつみれ汁、揚げ出し豆腐にほうれん草のお浸し。それにお刺身を少し。


「ありがたいな。東南アジアの後だと。やっぱりこの年は和食がいいよね。千夏はなにをしたの?今日は」

「ええっと、ほうれん草のお浸しと、揚げ出し豆腐の上に載ってる葱の小口切りを」


お父さんが箸で葱を持ち上げた。


「これはまた……」


我慢できずに2人で声をしのんで笑ってしまう。


「完璧な小口切りだな」

「やめてくださいよ。そういうこというの。笑いが止まらなくなるから」

「でも、薄さといい、全然つながってないし、完璧だよ」


くくくくく


「千夏さん、二階にいますから、大きい声で笑わないでくださいよ。僕、ほんと冗談抜きでお墓に入るまで、奥さんの料理食べることできないかもしれないんですから」

「千夏も、ほんと昔っから強情なんだよなぁ」


ご主人や子供にはちゃんと自分で作った物を食べさせなさい。毎日じゃなくてもいいからって夏美さんが言ってくれて、だから、休日は夏美さんに代わって自分たちで作るようにしてるんだけど。千夏さん、春樹には作るんだけど、僕には作ってくれないの。正確にいうと、ものすごく小出しにして作ってはくれてるんだけど。例えば今日の葱の小口切りとか、ほうれん草のお浸しとかね。


ちゃんとネットとかで調べて、練習してるんだよ。1人で。そんで、自分的に合格になったものだけ、出してくれるんだ。そのペースと数が少ないんです。まぁ、仕事してるからね。しょうがないんだろうけど。


「でも、ずるいですよ。春樹にはちゃんと作るのに」

「子供はな、喜び方が素直でかわいいからな」


ため息が出る。


「負けてる。まさか、子供に負けるとは思わなかった」

「そんなもんだ。俺だって、負けてたよ。ずっと。太一に」

「女の子がほしいなぁ」


女の子ってこう、父親にべったりしてくれるもんじゃないの?


「やめとけ、やめとけ」


お父さんが言う。


「どうせいつか他の男に取られるんだから」

「ああ、それは、どうも、すみません」


お父さんも結構変な人なんだよね。本人に言わないでくださいよ。そういうこと。


***


「寝た?」

「うん。寝たー」


春樹寝かしつけてから、僕たちの部屋に戻って来た。


「今日は、春樹と寝るなんて言わないよね」


こっち見てる。


「でも、あの子夜中にトイレに起きたとき、わたしがいないと泣くのよね」

「あのね」


今日こそはっきりさせようじゃないですか。


「あんなの、演技なの」

「え?」

「だって、君がいないときなんて1人で起きてトイレ行くんだよ。あいつ」

「嘘」

「ほんとだって」

「ふうん」


しょうがないなぁって顔して、ベッドに入ってくる。ひどいなぁ、もう。


「千夏さん、春樹にばっかり優しすぎる」

「な、なにいってんの?」


あきれられた。


「ちょっと、今の発言はぶっちゃけひくわ。樹君、何歳?」


ちーん


「もういい」


背中向けて寝てやる。むっちゃ傷ついた。今。


「ごめんごめん」


後ろから彼女の手が伸びてくる。背中にぴったりくっついてる。


「あー、なんか今日も疲れたなぁ」


そう言ってからしばらくすると寝息が聞こえてきた。ごそごそと動いて彼女のほうにやっぱり体を向けた。春樹のやつ、今日も夜中に泣いて千夏さん起こしたら、許さないからなと思いつつ、彼女の髪の毛に触れる。そっと、起こさないように。彼女の髪の毛はずっと一緒。やっぱりつやつやできれい。唇にキスする代わりに髪に軽くキスをして、そして目を閉じた。朝までこのまま寝かしてくれよ、春樹。ともう一度思いながら。


デッサンをするような気持ちで、とにかく、量を書いてみようと思って、去年の後半からせっせと小説書いてました。昼仕事をしつつ、子供みつつ、の作業ですから、結構なハイスペースだったと思ってます。じっくりと見直しをしてたわけではなく、そのせいで、雑になったところ結構あったと思います。すみません。ただ、せっせと書いていただけあって、なんというか、自分の本来のことばづかいとか、後は、何を書きたいと思ってるのか、とかが、少し見えてきた気がします。

頭に浮かぶあらすじを一生懸命追って、無我夢中なんですが、結局、自分が何をしたいのか、何を書きたいのか、分かっててやっているわけではなかったです。9冊目を書き終えてやっとわかりました。カテゴリーでは恋愛を選んで、これは恋愛小説だと思ってたんですが、わたしが書きたいのは親子だったんだってことが。お母さんと息子とお父さんと娘が書きたかったんですね。私。

それは、人が恋をするときに、女の子はお父さんを相手に求めて、そして、男の子はお母さんを相手に求めているというのが、真実かどうかは別にして私の持論だからだと思います。そんで、女の子のお父さんってのもありますけど、それより、男の子のお母さんってやつを一生懸命探ろうとしているんだなと。

そんで、それがきっと私が蟹座だからですね。母性本能の強い人間です。

そして、清ちゃんがときどき変な冗談を言って笑わせる癖を持っているのは、私の、これは父親を書いているんだというのにも気づきました。いつも子供のころからたくさんの冗談を聞いて育ちました。何度も何度も父には笑わされてきた。

小説を書くまで気がつきませんでした。父が私に植え付けた冗談の種のようなもの、私の人生の基本的な態度にこんなに影響を与えていたなんて。どんなに悲しくても、辛くても、人って笑えるときに元気になれるじゃないですか。

自分で自分のことを知っているつもりで、でも、ここまで書かなければ気がつかなかった。自分が一体どういう人間なのか。

樹君という架空の人物に、人と出会って、変わって、前へ進む力を与えたかった。私の技術力に限界があって、しっかり書き切れたのか疑問も残りますが、今の私ではこれが精いっぱいです。

恋愛小説って、付き合い始めて体を重ねるまではいいんですけど、それから後がすごい難しいと思います。お互いが自分の物になってしまったら、普通、それでおしまいじゃないですか?それまでがどきどきするし、その後ってなんかある?みたいな。そんで、次の盛り上がりは結婚ですよね。結婚までの関係はどんなふうに進むのか、その心を考えるのが結構難しくって、そんで、次が、結婚後かな、と。

結婚後が一番難しいな。今は。だけど、人と人との関係って、結婚がゴールじゃないんですよね。でも、結婚しちゃうとな、なんか、努力しなくなってしまいますね。相手を知ろうとか、そういうの。もちろん、全ての夫婦がではない。努力されてる夫婦もいると思います。

自分が今、結婚後の人間なので、そこを書くのが結構しんどいです。自分的にリアルすぎるんですよね。小説の中の夫婦と自分たちを比べちゃうんで。まぁ、それでも書くかもです。ゆったりめのペースになるかもしれませんが。家族というのを基調にした、この人たちの話をもう少し書きつつ、また、別の世界を書いてみたいというのもあって、模索中です。そのもう一つのワールドを書き始めたら、また、笑えるくらいへたっぴなのかもしれませんが。作り物の世界をお散歩したいです。自分が憧れてやまなかった、子供の頃から読んできた、様々なお話や漫画。今度は真似して書いてみたいです。小さい頃からの夢だったので。

子供の学校がなかなか再開せず、かわいそうなのですが、次作を書き終えるころには今度こそ、コロナウイルスが終息していますように。

2020年3月14日

汪海妹


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