ハーピーの集落
■■■ 帝都にて ■■■
「やぁやぁ。久しぶりだね。お邪魔するよ」
帝都の上街にある洋服屋に手荷物を持って俺は訪れていた。
「こっ、これはこれはアストラ様でございませんか。本日はいかがなさいました?まさか我々の仲間が不手際を?!」
今にも飛びかかろうとする屈強な男たちを急いで押さえながら丸く太った男が小走りで駆け寄ってきた。
この男の名前はレオナード・ギル・ゲルド。ギル商会を仕切っている男だ。
ギル商会
レオナード・ゲルドが立ち上げた商会
人身売買などの黒い噂が絶えない
有名だがギル商会の商品があまり出回っていないことが悪い噂を助長させている
「いや今回はね、君にいいお話があるから持って来たのだよ」
「いいお話ですか」
「そうそう、これだよ」
そう言って俺は色とりどりの布を取り出した。
「こ、これはなんですか?」
「ハーピーの羽毛を編んで作った布だよ。ちょっと作るの大変だけどすごい布なんだよね。だから仲のいい君に教えようと思ってね」
そう言ってガシッと肩を強く組んだ。
「も、もちろんですとも。私とアストラ様の仲に感謝ですな。ところでその布はどのような特徴が?」
「これはハーピー族の夏の羽毛をもとに作っているからかなり風通しのいいものだ。逆に冬の羽毛は熱を閉じ込める。さらに微量に魔素を纏っているから長持ちするぞ。」
「なるほど。・・・ちなみに羽から布にするにはどうすれば?」
「それは、こんな感じで、ここをバラして・・・編み込めば完成。どうよ?魔素を扱う必要があるけどそこまで難しくないでしょ?」
目の前で実際に羽をばらして布を編んだ。
「なるほど・・・。試しに問い合わせてみますか。・・・他にも活用法が見つかりそうだが」
一人で考え事を始めたので俺は帰ることにした。
「場所とか行き方を書いた地図を置いとくね。それと鈴を6個置いとくね。ハーピーの里に行く時は6人までね。それで必ず鈴をつけるように」
「それと・・・」
ドアの前で立ち止まった。しっかりドアは閉まっている。
「利益に目が眩んで余計なことをするなよ?あんなことをもう一度起こしたくないよな?」
言葉に魔素を込めて放った。圧倒的な魔素量は他人を威圧させる。
考え事をしていたゲルドも護衛であろう屈強な男も皆座り込んで、震えながら首を縦に振った。
■■■ 数ヶ月後 ハーピーの里周辺にて■■■
「なぁ聞いたか?最近ギル商会がハーピー族の羽で儲けているらしい。大人はともかくガキは簡単にさらえるだろ」
「そうだな。羽を根こそぎ取ったらあとは売り払えばいいか」
「クフフ、一体どれほど儲けられるのか」
「ギル商会の奴らが鈴を鳴らしてやかましいから、こっちはバレずに簡単に移動できるしな」
黒ずくめで顔まで隠して手に血がこびりついている剣を持った3人は手に入るであろう儲けを想像して薄ら笑いを浮かべていた。直後に自分たちに起こることも知らずに。
「違いねぇ。なぁお前もそう思うだろ?・・なぁ?あれ、どこいった?」
「何がだ?」
異変はすぐに起こった。
3人いたはずなのに一番後ろを走って来ていた奴の姿が消えた。
3人は常に縦一列に並んで進んでいる。後ろのやつの確認はできないが今まで一緒に人攫いをしてきた仲間だ。
移動速度が早くてついてこれないなんてはずがない。
真ん中を走っている男が立ち止まって後ろを確認し始めた。
「おかしい。転んだ音は一切聞こえなかったぞ。どうする?このまま二人で行くか?」
前を見張っている男に声をかけたが応答はない。
「おい、聞いてるんだよ!返事を・しや・・・がれ?」
前には誰もいなかった。木々のざわめきすら静まり返り、あり得ないほどの静けさが逆に不気味に感じ始め得た。
「どうなってんだよ!一体何が起きてんだ!?くそ・・・」
彼の叫び声を最後に森は再び静けさを取り戻した。
■■■ ハーピー族の集落にて ■■■
「村長、アストラ様に渡された鈴は何でしょうかね?」
「わからん。ただアストラ様が森に入る時は必ずつけろ、と言っていたから従うのみじゃ」
「最近でっかい獣を見たってやつがいるけどそれと関係あるのかね?」
「さぁ?アストラ様が獣を従えていても驚きはせんがな」