幕間
■■■ 神界にて ■■■
(アストラか。久しいな)
「お〜。ヒュドラか。最近の調子はどうだ?見た感じ氷がひどくなった感じはしないが」
そこには所々凍ってはいるものの前回よりは目立っていない姿のヒュドラがいた。
(かなりコントロールでいるようになったぞ。やはり神化により扱える魔素の量が断然増えたな)
(なに?!ヒュドラ殿がついに辿りついたのか、神化の境地に!!)
そう驚いていたのは雷龍 キリン。
雷に打たれた雷竜が更なる雷の力を手に入れたため神獣に近づいた。
龍に分類されているが龍と違いかなり翼が小さいので遠目から見ると金色に光り輝く鱗も相まって幻の麒麟と見間違えられることも多々ある。
しかし近づいてみると鱗があるので違いがよくわかる。
(ギギギ。ついにヒュドラが。これは我も更なる磨きをかけなければ。ギギギ、どうだねアストラ。我の実験の協力をしてくれないかね?)
「やだよ。お前の毒は洒落にならんのよ」
ゾゾゾ。 神獣の一柱、毒龍。 毒霧と言われる猛毒が充満しているエリアに生息している。この毒はゾゾゾが生み出した毒で出来ている。
この毒霧はあまり周囲に影響を与えない上、かなり辺境の地にあるため意外に知られていない。
それでも神獣の名を冠するものが生み出した毒であるため中央に近づくほど危険な猛毒に変わっていく。
過去に一度だけゾゾゾが生み出した毒を吸わされたことがある。その時は下半身が動かなくなってかなり焦った。
本人曰く、しばらく眠らせるつもりの毒を作ったらしいが。
「ヒュドラさんおめでとうございます!私のお仲間の皆さんが強くなって嬉しいです」
ヒュドラの神化習得により異神を相手する時の安心感が段違いなので守護神としても嬉しいだろう。
おまけに史上8体目となる神化習得は素直に称賛できることだ。
「それで今回は何のようなんだ?わざわざ神界まで連れてきて」
「今回お呼びしたのは異神の動きが大変なことになってしまったための報告です。」
(ギギギ。あやつらはいい実験台だからな。少しくらいこっちに回してもいいんじゃぞ)
ゾゾゾの生息地に異神が滅多にこないため割と異神を舐めている節がある。まぁそれでもそこそこの強さは持っているので注意してね、としか言えないので少し心配だ。
「そのことなのですがゾゾゾさん。毒の危険度と範囲を広げてくれませんか。周囲の被害に関してはアストラさんに抑えてもらおうと思います」
(別に構わないがなぜじゃ?)
「いや、よくないよ。なんで俺がそんな面倒なことを」
ゾゾゾの毒が周りに広がらないようにすることの大変さを知らないのだろう。
「突如現れた厄災龍の封印のために少々強引な手を使って我々神族を降臨させたため、この星の守りに綻びが生まれてしまいました。そしてその綻びを目指して異神の大群がここに向かっているそうです」
(つまりいろんなところから異神が出てくるより、一箇所にまとめて出した方が楽ということか)
「その通りです、キリンさん。」
周りに異神の出現で壊される心配のない毒霧に呼び込んだ方が楽だし安心だろう。
(ギギギ。私のもてる限りの最高の毒をお作りしましょう)
「お願いします、ゾゾさん。アルビオンさんとクイーンさんは毒霧の中で生き残った異神の相手をお願いします」
「任された」
(ギギギ。クイーンもろとも毒でやってしまってもいいのかね?)
「ゾゾさん、それくらい強い毒を作れるならお願いしたいのですが、あのクイーンさんとアルビオンさんですよ。難しいのではないのですか?」
(ギギギ。やってみないと分からないものだよ。というわけで私を元のところに戻してくれ。早速実験といこうじゃないか)
「お前の毒、楽しみにしているぞ」
そう言ってアルビオンはゾゾゾを戻した。
「クイーンはどこだ?」
「クイーンさんは毒にある程度を耐え切れる子供を産んでいるそうです」
他の神獣たちが帰った後、俺はハルモニアに聞いた。
クイーンがここに来ないのは珍しい。いつも真面目に参加しているのに。
それに子供を産んでいると言っていたがクイーンが子供を産むのにそんな時間はかからない。よっぽど手間暇かけていい子供を作ろうとしたら時間がかかるが。
今回の件は少し大袈裟な気がする。
クイーンとアルビオンは神獣の中で飛び抜けて強い。どちらかがいればどんな異神も相手にできると俺は見込んでいる。それを二人とも投入するとは。
おまけにわざわざ俺をが警戒しなければいけないのも謎だ。毒霧から逃げ出す異神を倒したいならば大人数で囲い込んだ方がもしもの時がない。
それなのに他の神獣は自分の縄張りの範囲を広げて警戒しろと言っていた。つまり現場からわざわざ離している。
まるで俺じゃないと安心出来ない。むしろ他の神獣たちは離れてほしい。そう言っているみたいだ。
「神界で何か起きているのか?」
「な、何も起きていません!異神が襲ってくるだけです。ですからアストラさんは異神のことだけ考えてください」
「また俺と近しい人たちに何かあったら、どうなるかわかってるよな?」
「大丈夫です。今回は私たちが事前に防ぎます!」
大袈裟に顔を縦に振るハルモニアを見て、俺は確信した。
どうやら異神だけではないらしい。
事前に防ぐために、頑張らないといけないのかもしれない。
「しっかり頑張ってくれよ」
そう言って元の世界に戻っていった。
そういえばウルは元気だろうか。