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異世界の放浪記   作者: owl
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不穏な動きです

予定通り夕方にラクタの街に入った。

辺りは既に橙色に染まっている。


この辺はどうも街の間隔が狭まっている。

マルフィーナ街道を行き交う人々も少しずつ増えている気がする。

日に日にカーラーンに近づいていると実感する。


街に入ったあたりから纏わりつくような視線を感じた。

人間独特の視線だ。

感じているのは俺とオズマだけのようだ。


「俺の魔力消しは問題ないよな」

思い当たったのは自身の魔力が漏れ出ていないかだった。

歩きながら一日ほどやって魔力操作はそこそこ扱えるようになっていた。


「問題はありませんね。これでわかれば相手はエリス殿以上の使い手でしょう」

エリスみたいなのがポンポンそこら中にいていてたまるか。

ここはオズマを信用する。


「こちらから先に仕掛けますか?」

オズマが耳元でささやいてくる。


「いや、あっちから仕掛けてくるまで待つ」

もしかしたら仕掛けてくることがないかもしれないし、

争いの種をこちらから撒く必要はない。

セリアには俺かオズマ、もしくはエリスの誰かが一緒にいることにした。


俺はまだそのとき狙われる対象がセリアだけだと思っていた。


「ユウ、おそーい」

とうもろこしのようなものが焼かれている屋台の前で、

セリアとエリスが手を振っている。


「今行く」

俺たちは小走りに二人の元に向かう。

俺はセリアに手を引かれるまま付き添うことになった。



宿に着くころには纏わりつくような視線も消えている。

不審な動きがあれば対応するつもりだったが。


俺たちは手頃そうな宿をとった。


部屋は二部屋、俺とオズマの部屋とセリアとエリスの部屋だ。

セリアはエリスがいれば問題ないだろう。

人間の中では相当な使い手の部類だとオズマは言ってたし。


旅の間に姉妹みたいに仲良くなってくれてかなり助かる。

どちらかと言うとセリアの方が姉ポジなのは…どうかと思うが。


「ユウ殿」

オズマからの声に振り向くと、鏡から手が生えて手招きしている。

間違いないゲヘルだ。傍から見ればちょっとした怪奇現象である。


「ゲヘルか」

気が付けばオズマは片膝をついて頭を下げていた。

俺と初めて会った時と同じ恰好である。


「オズマよ、面を上げよ」

「はっ」

オズマはゲヘルに言われたとおりに面を上げた。


「元気でやっておるか?」

ゲヘルはにこやかにオズマに問う。

「はい」


「改めてすまんな。人間の社会と接点のあるそなたが最も適任じゃったものでな」


「私ごときにもったいなきお言葉」

オズマの表情は硬く、緊張しっぱなしの様子。

ゲヘル爺さん…ひょっとして偉いのか?

ちょっとだけ魔族の内部事情をかいま見た気がした。


「ゲヘル、それで用はなんだ?」


「例の剣の復元が完了したぞい」

ゲヘルを通してヴィズンに『聖剣ゼフィール』の修理を頼んでいた。


「…早いな」

剣を渡してからまだ二日しか経ってない。

正直こんな短い時間で終わるとは思っていなかった。


「それでわしからも一つ頼みがあるんじゃが…おや、何やら外が騒がしいの?」


ゲヘルの言葉に振り向くと真っ赤な光が窓から見える。

「火事か?」

火事場は俺たちのいる宿からかなり近いのではないだろうか。

最悪宿を移動するためにも、セリアたちと合流しておいた方がよいだろう。

「…悪い、ゲヘル。落ち着いたらまた連絡するよ」

俺たちはそう言ってセリア達のいる部屋に足を向けた。



俺たちがゲヘルと話していた頃、エリスは火事の現場に駆けつけていた。

周囲にはすでに人だかりができはじめている。


エリスが火事場にやってきたのは体に染みついた習慣である。

デリス聖王国で火事が起きた際は法術師、十数名で取り囲んで結界を張り、

空気を遮断し火を消していた。

現在のエリスは一人である。

エリス自身かなりの法術の使い手とはいえ、一人ではさすがに何もできない。


「娘がまだ家の中にいるんです」

家主らしき女性が涙ながらに訴えていた。


エリスは近くの井戸で自身に水をかけると燃え盛る家の中に突入した。

息を吸い込まないように布で抑える。

『聖剣ゼフィール』がない今聖剣の加護は期待できない。

ここでもし倒れでもしたら終わりだ。

彼女は真っ直ぐに、それでいて慎重に火の中を進んでいく。


「おい、誰かいるのか?」

火の海の中で人影が視界に入る。

目を向けると子供を取り囲むように四人の白装束の人間が立っていた。


「聖騎士団…?なぜこんなところに」

エリスはすぐさま身構える。

デリス聖王国の聖騎士団は国交もないサルア王国には来るわけがない。

あるとすれば聖王の命か、もしくは…。


「あなたなら来ると思っておりました」

四人の男のリーダーらしき男が口を開く。

…やはり私がここにいる四人の目的のようだ。

ここは異国であり、足がつく恐れもない。彼らにとってもっとも都合がいい場所だ。

ユウ殿たちに伝えておけばよかったと少しだけ後悔する。


「勇者エリス様、残念ですがあなたにはここで死んでもらいます」

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