朝食の時間です
朝の森の中に剣戟の響きが響き渡る。
俺はその響きに起こされる。
朝の日課らしい。
昨日の夕食の時にエリスからオズマに手合せを願っていた。
熟練されたオズマの剣にエリスの華麗な剣技が冴え渡る。
目にも止まらぬ閃光の応酬である。
圧巻である。
「さすが黒獅子殿」
「エリス殿も見事」
剣の腕前に関してはオズマの方に分がある。
オズマは槍術もすごいが剣術も出来るようだ。
後に本人いわく、人間社会に入り、一通りの武芸をかじりました。
だそうです。オズマさん、もう何でもありだよね。
「王国最高などともてはやされ、うぬぼれが過ぎていたようだ。
まだまだ精進が足りなかったということだな」
額の汗を拭きながらエリス。
「いや、あなたのほど使い手はなかなか見るものではない。
勇者の称号は伊達ではないな」
わだかまりも消え、互いに力量を賞賛し会っている。
武人堅気なところは通じ合うものがあるのかもしれない。
「ユウ殿はやられないのか?」
エリスが俺に不思議そうに聞いてくる。
「俺はちょっとな」
俺の場合ちょっと違った問題がある。
武術とはかなりベクトルが違う悩みだ。
「そういえば勇者ってどうやって決まるんだ?」
聞いてみたかったことだ。
「デリス聖王国の聖王カルナ様が任命します。最もふさわしい人間にそれを送ると。
その渡された剣を…私は…私は…」
エリスさん、トラウマモードに入りました。
まだ完全に治りきっていなかったらしい。
…だめだこりゃ。
「御飯よー」
セリアが声をかけてくる。
今朝のセリアの料理は二品。
揚げた魚をパンで挟んであった。
イメージ的には前の世界のフィッシュバーガーに近い。
タルタルソースが欲しいところではある。
後でセリアに教えてみよう。
それとキノコの入ったなんかのスープ。
味は独特で表現できないが見事な味付けである。
例の指輪が手に入ったおかげで料理のバリエーションがかなり増えた。
「…昨日も思いましたが、朝飯がこれほどまで…」
セリアの料理に感無量といったようすである。
俺とセリアは苦笑を禁じ得ない。
オズマは少し苦い表情をしている。
「クックック…それ。はじめのオズマと同じリアクション。
それにしても聖騎士団ってどんなモノを食べてるんだ?」
「干し肉と硬いパンだけだ」
彼らにとって食事とは必要な栄養を取るためのモノらしい。
以前にギルドの連中と行動を共にしたが、その時と同じだと考えてよさそうだ。
一日ぐらいなら我慢が効くが二日以上は精神的にきつそうだ。
俺は今後、他の奴らと一緒に行動するのは絶対に止めようと心に誓った。
「夕食は次の街に着く、少しセリア殿の料理が食べられなくなるのは残念だが…」
「確かラクタだったか?街道沿いの宿場町だったっけ」
マルフィーナ街道沿いはそう言った場所が多い。
「ラクタ…前回は通り過ぎただけでしたが…」
エリスは馬で通り過ぎたという。
「そう言えば屋台が出ていたような」
エリスは思い出す。
冬が近くなるこの時期、街道ももうじき通行不可の場所が出るために
人通りが多くなる。
「屋台か。どんなのがあるんだろうな」
「それは楽しみだ」
「私も少し楽しみ」
そう言うセリアの指には包帯が巻かれている。
「どうしたんだ?」
俺はセリアに問う。
「少し包丁で切っちゃって」
セリアは苦笑いをする。
「少しいいか?」
エリスはセリアの手を取る。
ぼんやりとエリスの手が光を放つ。
「どうだ?」
「痛くない…」
セリアが包帯を取ると傷が跡形もなくなっていた。
「簡単な切り傷程度ならば私に任せるといい」
エリスは得意気に微笑む。
「ありがとうございます」
「料理の返礼だとでも思ってくれ。このぐらいしかできなくてすまないが」
「いえ、助かります」
「それは一体…?」
俺はエリスに尋ねる。
「法術だ。我々聖騎士は法術を使う」
「法術?魔法とは違うのか?」
聞きなれない単語が出てきたので俺は聞き返す。
「ああ、法術と魔法は違う。
法術は自らの体内エネルギーを直接動力に変換する方法なんだ。
この方法は人間同士で受け渡しができる」
「もちろん法術のほうが人間にとっては扱いやすいが
それだけマイナス面もある。
術者個人の生命力を削ってしまう。
生命力には個人差があるがあくまでそれは人間の一個人。
使用には限界があり、制限が設けられている」
「それじゃ…」
「気にするな。かすり傷程度ではそんなに力は使わない」
「便利だな。ちょっと羨ましいな」
動力として魔力を使っている魔族では法術は扱えないだろう。
「私からすれば魔法の方が法術よりずっと羨ましいぞ。
魔力は魔素として蓄積できるし、周囲に漂っているものもあるために
扱えれば魔法の方が法術とは比べ物にならないぐらいの規模の力を発揮できる」
魔法の方がかなりチートらしい。
思い返せばヴィズンとか地面に大穴開けてたっけ。
「そういえばエリスはどうして俺が魔族だってわかったんだ?」
気になっていたことを聞いてみる。
「魔族もしくは一定の魔物は内部に核がありそこから魔力を供給することができます。
独自に魔力を発生させることができるのです」
「人間は魔力を体内で造れないと?」
「ええ。魔力を体内に溜めることはできるでしょうが、生産はできません。
ただ生活魔法等の魔法は自然界にある魔素でも十分。
ですがそれ以上の魔法となると大量の魔素が必要とされます。
そのために魔素の結晶である魔石が高額で取引されているのです」
今更納得した。
魔石って、だからあんなに高額で買ってもらってたんだな。
「ん…?それじゃ俺は魔力がダダ漏れになってるってことか」
思い返してみれば俺はこの世界に来てから魔力の制御とか全くしていない。
「ユウ殿のは傍から見ても魔力の放出量がかなり多い。
ある程度の術者から見れば一目瞭然だろうな」
今までエリス以外に見破られなかったのは運が良かったんだと思う。
それにしても見ただけで一発だったわけか。ちょっとはずかしい。
「オズマが行っている魔力の制御はどうしてるんだ?」
エリスでもオズマは魔族だと見破れなかった。
「私の扱うのは魔力をコントロールし、魔力を肉体に直接とどめる手法です。
この場合一日一度ほどどこかで魔力を発散しなくてはなりませんが」
「肉体にとどめるか。うーん…」
俺の魔力を体に押しとどめてみる。
なんとなく出来そうではあるが長くはできそうにない。
まるで息を止めているような感覚といえばわかるだろうか。
魔力のコントロールがこれからの課題になりそうだ。
「…そこまで…さすがです」
オズマはひたすらに感心している。
俺に甘いだけなのか、素で驚いているのかよくわからん。
「これを長時間維持できるようになればいいと?」
どちらかと言えば水の中に潜っている感覚に近い。
長くて五分ぐらいしか維持できないだろう。
「ただし魔力は肉体に留めすぎると細胞に負荷を与えます。
他に魔力を隠す方法として石に魔力を注ぐ方法があります。
私も騎士団の遠征等で一カ月行軍しなくてはならない際、
ある石に魔力を注いでおりました。
また魔力を込められた石は魔石となり売買することもできます」
魔力をコントロールする手法と魔石に込める手法を両方覚えておいた方が良さげだ。
ちょっと大変だがこの頑強な肉体のデメリットとして考えるべきだろう。
「まさか魔力を隠せる手段があったとはな」
エリスがちょっと驚いている様子だ。
「一握りの魔族だけだ。そもそも魔力操作が行えるのは一部だけだし、
ほとんどが『北』から出てこないからな」
オズマの言う『北』と言うのは極北のことだ。
ドルトバが人類の最北端であり、それ以降の人類未踏破の地域と言うことになる。
「忠告しておくが、魔族はその本能に従って動く。
ユウ殿は例外だが、大概の魔族は目的のためには暴力を使うことを躊躇しない。
魔力を使った攻撃は範囲も規模も人間の扱う法術とは別物だ。
隙を少しでも見せれば殺されるぞ」
オズマがエリスの考え方を正した。
「…肝に銘じておく」
うん、魔族って怖いんだな。
「さて。行こうか。夕方までにはラクタに着きたいしな」
俺の一声で一斉にその場を立ち上がった。




