勇者が同行することになりました
「知ってる鍛冶師に『聖剣』の復元を頼んできた」
朝食が終わるころに俺はそれをきりだした。
「本当か?そんなことできるのか?」
エリスが目を輝かせ俺の一言に詰め寄ってくる。
一晩して心の整理がついたのか元気になっていた。
「いや待て…人間ではアレを調整すらできないんだぞ。まして治すなどと…」
エリスは考え直す。
「魔族でそういうの得意なのいるんだよ」
説明が面倒なのでざっくりと。
一応鍛冶の神とか呼ばれてます。
あの剣を作ったぐらいだから、あのぐらい楽勝…であってほしい。
現在、酔いつぶれていて寝ているそうですが。
「本当にすまない。私はあなたを誤解していたようだ」
エリスは深く頭を下げる。
エリスが頭を下げたことにより、オズマが警戒を解く。
パーティのムードが少し和らぎ、俺とセリアは表情を緩めた。
「今の私には返せるものはないな…。…あなたがどうしてもというならこの体で…」
照れた表情でエリス。
殺気を感じて背後を見るとセリアが怖ろしい形相でこちらを見ていた。
手には包丁が握られている。
怖い…怖いですよ…セリアさん…。
「そ、そういうのいいですから」
ちょっと惜しいと感じたのは秘密だ。
「俺はただ世界を見て回りたいだけなの。そのためには人間社会で悪事なんて働きません」
俺は両手を上げる。…多分。
「…世界を…見て回るだと…」
エリスは目を丸くした。
「ああ。先ずは王都カーラーンの大図書館だな。どんな本が置いてあるのか興味がある」
もしかしたら同じ異世界から来た人間もいるかもしれない。その調査をしたいというのが本音だ。
あちらの世界に戻る何らかの手がかりがあるかもしれない。
セリアを安心して預けられる場所も探さないと。
「キレフ共和国のルーカイ渓谷も行きたい。神聖帝国の八色湖ってのはどんなものか見てみたい。
東方にある一風変わった料理とやらにも興味がある」
エリスやオズマから聞いて是非行ってみたいと思っていた場所である。
何でもパンではなく、米を主食にする地域があるとか。
是非行ってみたいと思う。
「…クックック、本当に行くつもりなのか?本当に風変わりな魔族だな」
エリスの表情が緩んでいる。
「ああ、それとエリスの追ってた『ルプスティラノス』、こいつな」
今のエリスには教えても大丈夫のような気がした。
オズマはやれやれといった表情をしている。
「は?冗談を。『黒獅子』のオズマ殿と言えば周辺各国に武名をとどろかす大英雄。
そんなお方が魔族…ましてあのレジェンド級の『ルプスティラノス』とは…」
エリスは信じられない様子だ。
どうやらオズマが魔族だとは勇者でも気付いていなかったらしい。
魔族の隠ぺいの手段は早めに覚えておいた方がよさそうだ。
俺は周囲を見回す。幸い街道からは少し離れている。
人気は無い。誰かに見られている気配もない。
エリスには見せたほうが早い。
万一見られたら白昼夢と言うことでゴリ押しで通させてもらおう。
「オズマ、ちょっとだけいいか?」
オズマは頷くとその姿を変化させた。
巨大な黒狼がその場に現れる。
ちなみにセリアには道中一度見せているので動揺はない。
「そんな…東方で武勇をとどろかせている『黒獅子』のオズマ殿が…」
昨日の夜俺がいない間にオズマのことを『黒獅子』だとセリアから聞かされたらしい。
いつも思う。狼なのにネコ科の名前を与えられてるオズマって不憫だなって。
オズマはすぐに元の姿に戻った。
「言っておくが、俺たちは盗賊を倒しただけだ。それも殺していない」
「…ギルドから報告は受けている。奇跡的に死者は誰一人でなかったと」
きちんと伝わってはいるようで安心。
これでエリスにこっちが安全で無害な魔族だとわかっていただけたと思う。
『ルプスティラノス』の探索は諦めるだろうし、このままデリス聖王国に帰っていただけるだろう。
「じゃ、そういうことでな。聖剣はできたらデリス聖王国に届けるようにするから」
俺はそう言ってエリスに背を向けた。
相手には配慮したつもりだ。こっちは魔族、相手は勇者。
呉越同舟と言う言葉が昔いた世界にもある。
俺は気ままな旅がしたいだけだし、さすがに相手も同行は嫌がるだろう。
「もしよければ剣が元に戻るまでの間、同行を許してもらえないだろうか?」
去りかけた俺たちにエリスがとんでもない提案をしてきた。
「へっ?」
俺は振り返りエリスをじっと見つめる。
「あなたたちのことを私は知りたい」
エリスは真っ直ぐな瞳でこちらを見てくる。
「もちろん謝礼はする。無理を言っているのもわかる。…頼む」
エリスは頭を下げる。
しぐさには澱みがなく、体さばきには無駄がない。
ただの一つの動作だが、ちょっとだけ見惚れた。
「どうする?」
俺は背後にいる二人に問いかける。
「主の決定に従います」
オズマさんはぶれないね。
「私は…別に…。少しでもユウのことを知ってくれる人が
出来てくれれば敵も少なくなる…かもだし」
セリアは俺のためを思って行動してくれている。
それにちょっとうれしくなった。
セリアの頭を撫でる。
「何よう」
セリアはこちらを睨んでくる。
実はデリス聖王国にも興味がある。
魔族を判別する人間がいると聞いてちょっとあきらめていたが、
エリスが味方についてくれるのなら観光できるかも知れない。
「それじゃ。しばらくよろしく頼む」
こうして勇者様が同行することになったのでした。
先祖返りに『黒獅子』、さらにへっぽこ勇者。
ずいぶんと奇妙なパーティになったものだ。




