三人の魔法少女
「ああああっ! あーたん! くーたん! ゆーたん!」
綺麗にぶっ飛ばされる三人を、精霊が慌てて回収する。
情けないことに、三人は今の一撃で気絶してしまったらしい。びっくりするくらい耐久力が低い。本当に魔法少女かいな。
いや、確かに怒りに任せた一撃ぶっぱだったけど、ちゃんと手加減したし!
「あーあ。やっちゃったね、トモコたん」
「うわ酸っぱい先輩」
「うんだから今酸っぱい先輩っていったね? みーちゃんって呼んでよ」
いや、その風体のままだとさすがに口にできないかなぁ。
ギャップがあるとかそんな次元じゃないから。
「ちょ、ちょっと! ヒドいじゃないですか! いきなりぶっ飛ばすなんて!」
「ヒドいのはそっちだっつうの! さっきからペラペラペラペラと三人そろって人のこと散々罵倒しくさって! こっちに文句いうまえにその三人に常識とか敬うとかそういうことを教えてからにせぇ! っていうかむしろ消炭にならへんかっただけマシやと思ってほしいわ!」
「ちょっと待ってトモコたんそれ思いっきり悪役の台詞。そろそろ魔法少女らしい言葉を取り戻そう? いろいろとダメ」
「私は一回魔法少女卒業してるし、今はスレた社会人やっとんねん! ダメもくそもへったくれもあるかい!」
「うん、そうだった。割とそうだった。トモコたんは魔法少女の時もそうだった」
諦めたようにうなだれる酸っぱい先輩のみーちゃん。
それはそれでなんかムカつく。
精霊によって、気絶したままの三人は地面にゆっくりと寝かされる。衝撃がダメージの主なので、すぐに気付くだろう。
「ホントは後数十発くらいぶん殴りたいところやけれども」
「やめてください本当に死んでしまいます」
真顔で精霊に詰め寄られる私。
おい。私をなんやと思ってんねん。
「まぁいいわ。仕留めるのが目的ちゃうし。ねぇ、あんたあの三人のサポート精霊なんでしょ? なんで魔法少女の戦い方を教えないの?」
「魔法少女の戦い方……?」
「そう。魔法少女は殴ってナンボ。徒手空拳が基本でしょうが」
いいつつ私はシャドーボクシングする。
この身体になると色々と叩き込まれた格闘技のカンが戻ってくる。
「確かに魔法少女の肉体は超強化される。それを活用して戦えば、魔人に対しては有効打になるね」
捕捉はみーちゃんがしてくれた。精霊は先輩であるみーちゃんに出てこられると困るのか、小さくなりつつ頷く。
どうやらしっかりした上下関係があるらしい。
「い、一応、僕も基本は教えたんだよ。でも、魔人には触れたくないって……」
「触れたくない?」
「その、見た目がアレだから、ばっちいとか」
なんじゃそりゃ。
「だから遠距離攻撃魔法を?」
精霊は沈痛の表情で肯定した。
いや、確かに魔人の中にはゲテモノっぽいのもいるけど。けど、せやかてなぁ。
「遠距離魔法攻撃は、魔人に効果があんまりないの知ってるでしょ?」
遠距離系の魔法は派手な見た目も多いし、一応、その見た目に沿うだけの威力もあるんだけれど、魔人にはそんなにダメージが通らない。
理由は、魔人もまた魔法を使うからだ。
というか、魔法に関してだけでいえば、魔人の方が上だったりする。魔法特化の魔人もいるからだ。あの三人組が魔法を連打しても効かなかったのはそれが原因だ。
「でもほら、きらきらしててキレーとか、かっこいい! とか、そういう理由で」
「魔人を倒すのと見た目とどっちを優先しなあかんと思ってんのさ」
「うっ……そうなんだけど」
精霊は困ったようにふわふわする。
どうやら全然魔法少女たちはいうことを聞いてくれないらしい。
それは困った。
どうやら世界を救うという使命感的なのは皆無なのか。だとしたら、ちょっと性根入れ替えるためにも指導が必要なのでは。
「あんまり厳しく指導すると、魔法少女をやめかねないから……」
「なんともまぁ生ぬるいことで」
「だから、初代魔法少女であるトモコたんにお願いがあるんだ」
精霊は真っすぐ私を見つめてくる。
あれ、これすっげぇヤな予感。
「あの三人を立派な魔法少女になるよう、鍛えてやってほしいんだ」
「えぇ……でも私、仕事とかあるし」
そう。私は社会人である。今だってお昼休憩を利用して抜け出してきたにすぎない。
「お願いだよ、トモコたん、僕からもお願いするところなんだ。今、彼女たちに頑張ってもらわないと、世界は助けられないかもしれない」
うぐっ。
そこを言われると、すごく断りづらい……。
「ああもう、しゃーないなぁ……」
「本当! 嬉しいよトモコたん! でゅふふふふふ」
「その笑いキモい」
容赦なく指摘すると、三人がようやく目を覚ます。
「うっ……いたたぁ……」
「あーガチで腹立った」
『おこだよおこ。本気でおこだよ』
あ、怒ってる。
どうやら、やる気はたっぷりあるらしい。私は何もいわずに身構える。それだけで通じたのか、三人も魔力を高めはじめた。
「ひっどーい! いきなり何するんだよぉ!」
「人をオバハン呼ばわりしたらそりゃ一発くらいは殴るわよ」
「野蛮! すごく野蛮だよー! 私、そういうの苦手!」
「同じく」
『暴力推進ババア』
ぴききっ。
私は隠すことなくこめかみを震わせ、拳を突き合わせる。よーし、よういうた。
「あのね。助けてもらっておきながらその言い草は何? そこはお礼をいうのが筋ってもんでしょーが」
「それはそうだね、ありがとう!」
素直にお礼をいわれて、私はがくっと膝を折った。
え、なんやのんこの子。
あれか、ピュアか。ピュアっ子なんか!?
「でも、怒ったのも事実!」
「私らは私らでやるんで、センパイは黙って引っ込んでてくださーい」
『ウザい先代がしゃしゃってくる作品は駄作っていわれる』
「うっせ! あんたらがあまりにも情けなさすぎるからでしょうがっ! ああもう分かった。その腐った性根叩き直してやる! 魔法少女ってのはね、世界の命運を背負った本当に大変な仕事なんだからっ!」
私は魔力を高め、バットを取り出す。
「とっととかかってきなさい!」
「いったねー! いくよー! ピュアピュアビームっ!」
まず先制してきたのは、ピンク色の少女。
両手をハートに合わせ、そこからハート形のレーザーを撃ってくる。
私はそれをチョップで叩き落した。
「……うわまじ? だったら! ストームサンダーっ!」
今度は緑色の髪の少女。
両手を掲げ、渦巻く稲妻を召喚、一気に私を打ち据えようとする。
私はそれをチョップで叩き落した。
『凍結と炎上。ダブルパンチでノックアウト』
最後に水色の髪の少女。
スマホから氷と炎が同時に出現し、互いに絡み合いながら迫ってくる。
私はそれをチョップで叩き落した。
しーん。
落ちる沈黙。
いやマテや。なんでみーちゃんまで不憫そうな顔で見てくるねん。
大体、あんな軟弱な魔法、通用するはずないやんか。
まぁええわ。
「私が本物の遠距離魔法ってのを教えてあげるわ」
私は地面を粉砕して踏み抜き、大量のがれきを出現させる。そして、手に持ったバットをフルスイング。
「物理魔法《千本ノック》ッッ!!」
かかかかかきーんっ!!
次々と瓦礫をバットで打ちまくり、三人を襲う!
慌てて三人は回避運動を取ろうとするが、遅い。あっという間に瓦礫に叩きまくられ、あっさりとまた地面に沈んだ。
いや打たれ弱すぎやろ。
ちゃんと手加減したし!
どこからともなくやってくる批難の視線を無視しつつ、私はため息をついた。
すると、ピンク色の髪の少女がゆっくりと起き上がった。おお。中々根性があるのかもしれない。
「……いい」
ん? 今なんて?
「かっこ、いい……!」
はい?
目を点にさせると、ピンク色の少女はボロボロのまま顔をきっらきらに輝かせた。
「お姉さまっ!! 私、弟子になりますっ!!」
え、ええ、えええええええええ。
なんなん。ホンマになんなん。最近の子ってガチでわからへん!!!