激闘!
何はともあれ、急いであそこに駆け付けないと。あのままでは犠牲がでかけない。
私は屋根を蹴って空中に飛び出してから、空気を蹴り飛ばして一気に加速する。それを何度か繰り返すと、あっという間に音速の世界に乗った。
現場まで十秒とかからない。
一瞬で魔人の背後で、私は急ブレーキをかけつつ煙突を振りかぶった。まずは一番近くにいる、名も知らない魔人。
「おおりゃあああああああああ!! 必殺! 物理魔法《煙突だって鈍器》!」
裂帛の気合いを込め、思いっきり顔面を殴り飛ばす。一発ではない。一瞬で三発。往復ビンタのように殴る。
ずがががっ!
仕上げに叩きつけ!
思いっきり振りかぶり、私は渾身の一撃を魔人に叩き込む。
ごづ。なんて面白い打撃音を響かせながら、魔人はブッ飛んで、人のいない交差点のど真ん中に激突──というか、埋まる。
大丈夫大丈夫。
建物の被害は後で魔法で直すから。みーちゃんが。
「──……なっ!? アーブル!?」
「へぇ、アーブルっていうんだ、あの魔人。でもごめんね? もう二度とあえへんわ」
その言葉を示すように、アーブルはあっさりと光の粒子となって霧散した。
周囲に沈黙が落ちる。
私はそんな空気を一切合切無視して煙突をふりかざし、ガチムチラガーマン魔人ことケンタロウの後頭部をどついた。
「物理魔法《千重全力振棒》!!」
「ぐわああああああっ!?」
──ちゅどちゅどちゅどおおんっ!
盛大な悲鳴と轟音をたてて、ケンタロウはビルに埋まる。
──ふうん。
ケンタロウはアーブルより結構強いらしい。
せっかくの煙突が折れてしまった。にもかかわらず、まだぶっ倒れてない。どうやらがばがばな毛根に関する闇落ちのレベルは相当根深いようだ。
毛根が原因の魔人ってだけで色々とあれなんやけどな。
後、元々ケンタロウは耐久力だけでいえば人間やめてたので、その影響もあるかもしれない。私のパンチ喰らって生きてるのはケンタロウだけである。
絶対不幸魔王フィルクスも含め。
「ちょっとケンタロウ!」
私は煙突をぽい捨てしつつ、ビルから這い出てきたケンタロウの名を呼ぶ。
ケンタロウはびっくりしながら顔をあげて私の姿を見て、数秒間。思いっきり不審な表情を浮かべてから、
「……誰?」
と宣った。
私は瞬時に間合いを詰めてから、魔人らしいケバケバ衣装の胸ぐらを引っ付かんで持ち上げる。
「あんた、私のこと忘れたの!?」
どこのメロドマだよって台詞をはく私。なんや浮気してる女か何かか!?
「んなこといわれても……魔法少女? にしては、こう、服装が……」
「「『ガチでやばい』」」
いい淀むケンタロウの後を引き継いだのは、ぽかんとしているだけと思っていた魔法少女たちだった。
「なんだろう、すごいよ! どちゃくそダサい! びっくりしちゃったよーっ!」
ピンク色の髪のツインテール少女が目をきらきらさせて叫ぶ。両手の拳で口元を隠してうずうずしている。
その隣の緑のポニーテールの少女が、呆れたようにため息をついた。
「ちょっとピュアすぎな感想やめなよ。確かにありえないダサさだけどさ。個性なんだって。認めてあげなよ」
「うん! そうだね! どちゃくそダサい個性って認める!」
おい。
短くつっこみをいれると、私の脳裏にチャットメッセージが表示される。どうやらみーちゃんの魔法のようだ。彼女たちのグループチャットの画面らしい。
『ダサいのが個性とかマジでウケる』
「もう! グルチャに送ってこないでくんない? いちいち見るのめんどくさいんだけど」
『私はネット弁慶型寡黙少女』
「なんかそれカッコいいよね!」
「あーはいはい。ピュアに中二心くすぐられてんじゃないのよ」
「えーいいじゃん! っていうかあーちゃんも中二病でしょ?」
「はぁ!? 違うし! 全然違うし!」
「私は中二病だよーっ!」
……こ、い、つ、ら……
時ならぬやりとりをする三人に苛立ちながらも、私は息を吸う。
とりあえず、まずはケンタロウからだ。
「あんた、本気で私のこと、思い出せないんか?」
「思い出すも何も、知らないって。そんなオバハンが頑張って魔法少女やりますっ! みたいな衣装の女ぶふぇるっ!」
私は迷いなくビンタを一発頬に打つ。
ついでに返しで一発。やっぱり腹立つからもう一発。なんか憎たらしいからもう十発。
軽快な音が連続で響き渡ると、ケンタロウは鼻血をだらだら流しつつ、目をきらきらと輝かせた。
どうしてか乙女座りをしつつ、ばっちり腫れあがった頬を撫でている。
「こ、このスナップ、威力、遠慮のなさに容赦のなさ……ま、まさかっ」
ってちょっと待って? ねぇ待って?
「トモコたんっ!?」
「ビンタで人のこと思い出しなやあああああああああっ!!」
私は迷いなくシャイニングウィザードをケンタロウの顔面に叩き込む。
軽快な破砕音。
キレーにケンタロウは10メートルくらいぶっ飛んだ。
「うぐはぁっ……! ぐ、やはり間違いない。この角度、膝の入れ具合、ほれぼれするくらいの破壊力……! トモコたん……行方不明になってたと思ってたけど、生きてたんだ!」
まぁ八年間昏睡してたしね、私。
「すっかりオバサンになった!」
「うるせぇ毛根行方不明野郎!」
「心をがしがし抉ってくるね!」
涙するケンタロウを私は無視する。
私はまだ22歳だっつうの!
それでオバサン呼ばわりは許されない。断じて許されない。乙女心とか、そういうのは確かにどっかへ置いてきたけど、それとこれとは違う。
あれだ。スイーツは別腹だとか、そういう類のものである。
「っていうか、ケンタロウ。毛根がガバガバの事実を知って闇落ちして魔人になるってどういうことよ」
「それはトモコたんのせいでもあるんだよ!」
ケンタロウはゆっくりと起き上がりつつ、闇の魔力を迸らせはじめた。
この魔力量……幹部クラスか。
私は分析しつつ、ケンタロウを睨む。
「トモコたんの暴力ロスが大きな要因でもあるんだ!」
「おい待てやなんやねんそれ」
「フィルクスと戦っている時はよかった。毎日毎日トモコたんに殴られ叩かれ蹴られ埋められ……最高の毎日だったんだよ」
「いやだから待って、それなんやねん」
まるで私バイオレンスやんけ。
確かにちょっかいかけられるたびにぶん殴ってた記憶はあるけれど。あれ喜んでたんかい。衝撃の新事実に私は混乱する。
「暴力女ってことなんだー! なるほど、だからあれだけ強いんだね!」
「ピュアッピュアな感想だね」
『炎上案件』
うるせぇ魔法少女ども。
「そのトモコたんがいきなり行方不明になって……僕はたまらずSMバーとかに入りびたるようになったんだけど……満足できないんだ! 僕の心を満たすには至らなかったんだ……! どんなに激しい責め苦をいただいても、どうしてか……!」
あ、これあかんやつ。
私は迷いなく、折れた煙突をケンタロウにかぶせた。
「ってあれ? トモコたん?」
「ちょっと私への風評被害が甚だしすぎるねん」
私はそのままヒモとビニールシートを魔法で召喚してぐるぐる巻きにしていく。
「あれ? あれ? あれれー?」
「とりあえずまだ魔人になりきってないっぽいから、まだなんとかできそうなのよね。だからちょっと魔人の闇の魔力を抜き出すね」
「うん。え、いやちょっと、なんで煙突に埋められた挙句、ビニールでぐるぐる巻きに?」
「この状態で三日三晩聖水につけるからだけど?」
「この状態で!」
だからなんで嬉しそうやねん。
あかん。付き合ってたらどうにもならへん。とりあえず、後はみーちゃんに任せよう。
「ねぇねぇ、あれってどうみても海に沈める予定だよね! すごいところを目撃しようとしてるのかな、私たち!」
「なんで嬉しそうなのさ」
「はじめて見るからだよ!」
「ピュアすぎか」
『謎の魔法少女コスBBA、禁断の行為。炎上間違いなし。晒す? 晒す?』
この小娘どもがっ……!
「いい加減にしておきなよ、三人とも」
振り返りざまにぶちのめそうとしたまさにその時、三人を制したのは犬と猫を足したかのような可愛らしい生物だった。
たぶん、みーちゃんと同じ精霊だ。
キラキラと無駄に輝くエフェクトを残しつつ、精霊は三人の周囲を飛び回る。
「あの人は初代魔法少女――鉄拳のトモコたんだよ」
三人をいさめるかのように、鋭い口調で精霊はいう。が。
「「「え、オバハンじゃん」」」
私に迷いはなかった。
片足で踏み切って跳躍。空中でぎゅるぎゅる回転して威力を溜め、拳に力をうつす。
「神殺ぉぉおおおおおっ!」
そして拳を地面に叩きつける。
「衝撃拳――――っ!!」
「「「きゃああああああああ――――っ!!!!」」」
光と共に地面が爆裂し、衝撃とガレキがすっかりなめきってくれた魔法少女たちをぶっ飛ばした。
ちょっとあの魔法少女にもお説教が必要やね。
話はそこからだ。




