最終話
龍と出会った日と同じように池袋のいけふくろうの前に私は立っていた。
高校を卒業して何もすることがなくて、ただ生きているだけの毎日の中で時々堪らなくなることがあった。
だけど私は堪らなく苦しい気持ちを吐き出す方法なんて知らなくて、先生が「高校時代はよくいけふくろうの前で待ち合わせをしてた」と言っていたのを思い出して、気付けばいけふくろの前でただただ立ち続けていた。
来るはずなんてないのに、それでもずっと待ち続けたらいつか先生に会えるんじゃないかって思って。
月に一回くらい私は、来るはずのない人をひたすら待ち続けていた。
だけど、誰も来るはずなんてなかったのに、初めて出会った日、龍はまっすぐ私に向かって歩いてきたんだ。
先生と再会した日、お店の前にも駅前にも龍はいなかった。今日はあの日から初めての水曜日だ。
龍は来るだろうか。まだ私に会いたいと思うのだろうか。私は初めて祈るように待っていた。
来るはずのない先生を待ち続けた諦めの気持ちとは違う。私は、龍が来ることを祈るように信じてた。
そして、龍は来た。
初めて出会った日と同じようにまっすぐ私に向かって歩いてきた。
「俺と朝日を見ないか。」
「その声のかけ方やめた方が良いって言わなかったっけ?」
初めて出会った日と同じセリフを言う龍に思わず笑ってしまった。
だけど、その後でどうしていいかわからないくらい苦しくなった。
「どうした?」
「私はもう龍とはしない。私も、本気で好きな人としか、相手も私を好きな人としかしない。」
龍と体でだけしか繋がれないなんて寂しすぎる。
「‥‥‥おう。」
「だけど、そしたら、私と龍は、他に何もないから、龍と、もう‥‥‥。」
私と龍には他に共有すべき時間なんて何もないから。私と龍はただお互いの足りないものを会わせていただけの関係だったから。
でも、私は。
「じゃあ、茶でもするか。」
龍は当たり前のように言った。
ねぇ、その何気ない一言がどれだけ私を救ったか分かる?
「‥‥‥いつか、もう一度口にキスしてね。」
龍に聞こえないように私はこっそり呟いた。
桜ちゃんに「一人ぼっちじゃないよ」って言って抱き締めてあげられたこと。
お父さんが私たちを守ってくれたこと。
先生に会いに行ってもいいこと。
龍とこれからも時間を共有できること。
すべてのことに感謝して、これからの自分に何が出来るのか考える。
それは他の人にとったら当たり前のことかもしれないけど私には、大切な一歩。
私は、やっと前向きな第一歩を歩き始めた。




