第二十六話 俺は結婚相談所の職員か!
「エリーゼ、このハッペ子爵家の三男は? ハッペ子爵家は商務閥だ。猿酒の流通で協力し合えるのでは?」
「あなた、ハッペ子爵家はエドガー軍務卿の腹心と呼ばれているドレーダー子爵家と犬猿の仲でして……ガトル大陸の情勢を考えますと、軍務系貴族との仲がよくない貴族家出身者はおやめになられた方がよろしいかと……」
「彼は? レーヴェンツ男爵家の次男! 農務閥だから、そのうち世界樹周辺の土地を切り開いて農業をするって言っていたら、役に立つのでは?」
「レーヴェンツ男爵家の現当主は、大分評判が悪いです。なんでも浪費家でかなりの借金があるとか」
「つまり、レーヴェンツ男爵家が婿入りした息子に過度な仕送りでもさせかねないと?」
「あそこの子息は全員気が弱くて、レーヴェンツ男爵に逆らえないとか」
「……今日の義務は終わり」
アーシャさんの婿候補の情報を集めているのだが、どいつもこいつも……。
結婚相談所の職員なら、ただため息しか出ないダメンズしかいない。
もしくは、俺と仲がいい貴族たちと関係が悪くて、その人にすると俺が文句を言われるという。
まさかアーシャさんにクズを押しつけるわけにもいかず、婿探しは難航していた。
あと、エリーゼがいてもの凄く助かった。
「うちの家臣の子弟で見どころありそうな若者を、たとえばどこかの貴族家に一回養子に入れるとか?」
あれやこれや条件が面倒すぎるので、逆に俺の家臣の子弟をとある貴族家の養子にしてしまい、そのまますぐにザンス子爵家に婿入りさせるという方法を思いついてしまった。
ここまでいくと、もうただの辻褄合わせである。
「その方法はおよしになられた方が……。婿入りされた方が、貴族社会で侮られてしまうので……」
エリーゼは、俺が考えた方法を即座に否定してきた。
形式だけ合わせればいいってわけではないのか……。
「明日、また検討します」
今日も決まらなかった。
俺はエリーゼが淹れてくれたお茶を飲んでから、ため息をついた。
「あなた、もうすぐ家庭教師のお時間では?」
「そうだった」
アーシャさんに魔法の指導をする時間だ。
彼女の婿が決まらない以上、ここは気合を入れて教えなければ。
「当然魔法は真剣に教えるけど、時間が稼げる」
「身も蓋もない言い方よね」
イーナから、正しいツッコミを食らってしまった。
なにも言い返せない……。
「どこかに、素性のよくて紐がついていない貴族の次男以下、落ちてないかな?」
もしくは、箱に入って町の片隅に捨てられていないかな?
見つけたら、俺がすぐに拾うのに……。
「ヴェル、犬や猫じゃないんだから……」
またもイーナに苦言を呈されてしまった。
「素性のいい男子を、俺の養子にしてってのは?」
「最悪そうなりますが、できれば避けたいところですな」
「どうしてだ? ローデリヒ」
ザンス子爵家は、バウマイスター辺境伯家の寄子なのだ。
うちが婿を送り出しても問題ないような気がする。
さすがに俺の子供たちは幼過ぎるので、だから養子を送り出すことになるけど。
「ブライヒレーダー辺境伯家ならそれでいいのですが、バウマイスター辺境伯家は新興貴族なので……」
「『調子に乗りやがって!』とか言われる?」
「そういうことです」
あいつら、いったいなんなんだ?
ろくに仕事もしないくせに、ちゃんとヘルムート王国で忠実な社畜をしている俺の足を引っ張るなんて!
前世で会社にいた、上にいるだけおじさんたちか!
あいつら、仕事もしないくせに文句だけは一人前だったからな!
「養子でも、年長の男子ともなれば、あとでバウマイスター辺境伯家の後継者問題になるかもしれません」
「なんで?」
うちの後継者は、フリードリヒで決まりじゃないか。
「うちも大所帯となりました。これからも家臣は増える一方でしょう。次のザンス子爵となったその養子が、非主流派の家臣たちの旗頭になる。当主には届きませんが、次期当主はその派閥に配慮しなければならないでしょう」
あくまでも、条件闘争としての後継者争いへの参加か……。
「ゆえに、養子でも年長の子供を入れて条件を複雑にしないことが肝要ですな」
そういえば、三国志の劉備も劉封という養子を迎えたのはいいが、その最期は悲惨だったな。
あれは、討ち死にした関羽を助けず、あげくに敗戦した罰だという態にして、邪魔な養子を始末したのであろう。
「世界樹に行ってくるわ」
あとはもう明日以降でいいや。
どうせ明日も決まらないだろうし、今はこの陰鬱な気分を魔法の指導で晴らすとするか。




