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ひょこっと、て訳では無いけど私、台所に登場。
相変わらず背中向けて準備してる父親。
「おはよう。ちょっと話があるんだけど、空いてる時間ある?」
「っ!!……誰かと思ったぞ。どうした?」
頭からつま先まで見ながら聞いてきた父親。
よくよく考えたら話し方も変わっちゃったよね?見た目も、蒼海が言うには冷徹少年らしいし。
んー…あ、前に変わりたいって言ってたよね?それでこうなりましたって事にしよう。
「…別に?変わりたいって言ったから変わってみただけ…それで、空いてる時間あるの?」
「ああ…昼前か後なら空いている。部屋に来い。」
来いってなんだ。
そりゃ私から言ったけど、なんでお前が命令してくんだよ。
「どうした?まだ何かあるのか。」
ジト目で見つめてたのか父親が首をかしげて聞いてくる。
こいつ何歳だよ…それでもキモくは見えないから不思議。見た目が若くてイケメンだからか?
ってそうじゃないや。
「いいや、なんでもない。」
「…なんでもないという目をしていなかったが。なにか思うことがあるのだろう?」
鋭いな。
普通に会話始めたけどさ、朝ごはんの準備しないの?火は止めたみたいだけど。
んで、質問ね。なんて答えようか…
父親がこんな態度なのは、社長とかそういう系で位の高い人なんだと思うから仕方ないってことで。私はちょっと嫌だけど。
それについては言わないことにしようか。となると、顔をガン見してたことについては思ったことそのまんま言ってもいいよね?
「しいて言えば、歳をとってもイケメンだなって思ったぐらい。」
「………そうか。」
顔について褒められたらなんて言うのが正解なんだろうね。
『そんなことないよ〜』って言えば謙虚って捉えてくれる人もいるらしいけど、私はぶりっ子?って思うかも。
『ありがとう〜』って言えば否定しないんだって普通に思うよね。他になんて思うんだろう…
そう考えたら、父親の返答は正解に近い気がする。まあただ興味なかっただけだと思うけど…現にこの会話を最後に料理に集中し始めたし。
さて、じゃあ私は説得する為の準備してこようか。
部屋にレツゴー。
説得も何も、あの父親なら許可だしてくれそうだけどね。子供に興味なさそうだし。
そんなことで私の時間を奪うなとか言われたりして…それはそれで腹立つな。
階段を上っていたら弟が降りてきた。目が合うといつも通り顔を歪める弟。
こいつの顔も寮に入ったら見なくなるんだな…と思って眺めていた。眺めようと思ってたわけじゃないんだけど、眺めちゃったんだよね。
「…ちょっと、人の顔ジロジロ見ないでよ。」
まあ何とも思わないし、目を逸らして部屋に向かおうとしたらなんか突っかかってきた。
弟が隅っこ歩いてたら無視してるんだけど、階段のど真ん中で腕を組んで陣取ってるから邪魔。
今、3段ほど上にいる弟に結構見下される感じになっている。
いつもは身長差の関係で私が上にいるから、初めて見下せれて調子乗ってんの?
「…アンタの顔を見たいと思ってない。アンタが視界に割り込んできただけだろ?」
「はぁ?そこにいるお前が悪いんだよ。いつもみたいにさっさと部屋に逃げ込めば?それに、何その格好。男みたいに髪短くして、服も変えて…何してんの?」
なんだこいつ。やけに饒舌だな…何かいいことあった?どうでもいいけど。
言ってはいないのに『馬鹿?』って言われてるようでムカつく。
でもこんな挑発に引っかかる訳にはいかないよ。
「私が何をしようが、アンタには関係ないだろう…目障りだというなら見ないようにしたらいい。それに、アンタに何を言われようが私は変わると決めたからそれを曲げるつもりは無い。」
…あれ。
「無駄な事をしてないで、自分を磨くことに時間を割いたらどうだ?」
…可笑しいな。口が止まらない。
それにいつもの喋り方とも違う気がする…一人称は『私』だけど、大体男言葉?だよね。
「なっ!お、お前に言われたく…!!」
「そ れ か ら 。父親にはまだ言っていないが寮に入ることにした。アンタから来なければ数年は会うことは無い…嬉しいか?」
カッと赤くなった弟の言葉を遮るために、最初の4文字を強く言うと簡単に黙った。弱っ…
ついでに、言いながら一歩進むと距離も視線も近くなったことで、いつもの調子が戻ってきた。
「な…!はあ!?」
「まあ、どうでもいいが。」
そう言って落ちない程度に力加減して弟を押すと簡単に退いた。できた隙間を通って階段を上る。
この方法って言い逃げみたいなもんだよね。
後ろでまだなんかいってるけど無視無視。相手するの面倒だもん。
私にはやる事があるんだから、暇人に付き合ってらんないんだっての…察しろ。