前編
私ベローニには、三つ年上の婚約者アダムスがいたのだが、彼は幼馴染みである女性ガーネットといつも不自然なくらい仲良くしている。
「アダムスったらぁ、口の横にカケラついてるぅ」
「わー、ホントだ、ごめーん」
「んもぉ……アタシがいないとダメなんだからぁっ……。婚約者さんも、もっとしっかり見ておくようにしなくちゃ駄目ですよぉ?」
そんな、何とも言えない関係である私たち三人は、今なぜかお茶をさせられている。
「婚約者さん、目が悪いんですかぁ?」
「いえ……」
「アナタってぇ……婚約してるのに、アダムスのことぜぇーっんぜん知らないんですね! なっさけなぁい。よくそれで婚約者の席に座っていられますね。アタシだったらぁ、そんな状態で婚約者だなんてぜぇーったいにムリぃ」
ガーネットは可憐な雰囲気の女性なのだが、私のことをライバル視してきていて、たびたび嫌みな言葉を投げつけてくる。そしてそれ以外の時間は常にアダムスと喋っていて、仲良しな姿を見せつけてきている。透明感のある肌も華やかな目もとも魅力的なのに性格の悪さによって自分の価値を自ら下げているタイプの女性だ。
「でさぁ、アダムス、この前のティーパーティでのことなんだけどぉ」
「どしたどした?」
「アタシが可愛いせいで喧嘩になっちゃったのぉ……」
「ガガーン」
「もぉ、本当にぃ、そんな感じだったぁ……アタシはただ仲良くしたいだけなのにぃ、周りが嫌がらせしてくるからぁ……ほーんと困ってるのぉ」
白いハンカチを取り出したガーネットは、腕を伸ばし、アダムスの口周りを拭く。
しかし明らかに不自然な動きだ。
今のアダムスは特に何も食べていないし口もとが汚れていることもない、それなのに急に口周りを拭くというのはおかしな行動である。
少し前の、口の横にお菓子の欠片がついていた時に拭いたのなら、まだしも理解はできるのだけれど。
「ねーえ、アダムスぅ。アタシのこと好きぃ?」
「うん! 仲良し!」
「じゃあじゃあ、婚約者さんのことはどーう?」
「……それなりかな」
「ってことはぁ、アタシの方が大切ってことよねぇ?」
「まあ……そう、かな、そんな感じかな。ガーネットは幼馴染みで付き合いが長いから、関わっていて気が楽だよ」
どうしてこんな不快な思いをさせられなくてはならないのだろう? 私は悪いことなんてしていないのに。罪に対しての罰でもないのにこんな目に遭わされるなんて、あまりにも理不尽過ぎる。そもそも、悪いのはあちらなのだ。ガーネットといちゃつくことに問題があると気づけないアダムスと、そこを利用して好き放題しているガーネット、彼らこそが真の悪者。……それなのに嫌な思いをするのは私? そんなのはおかしなこととしか思えない。悪くない人間が嫌な思いをして、悪い人間は笑っている? そんなことが通るのか? そんなことが許されるのか? 理不尽の極みではないか。
「あの、すみませんが」
いつまでも大人しくしてはいられない。
「私、帰ります」
今こそ、勇気を出すべき時。
「いちゃつきを見せられるのは不愉快ですので」
「あらぁ、嫉妬してるの? かぁわいーい。でもぉ、アタシの方が魅力的なんだからぁ、愛されてても仕方ないじゃなぁい?」
「お二人が幼馴染みだとしても限度があると思います」
「嫉妬してるのねぇ。あはっ、しーっとしっととしっととしっとーっしっとししっととしっととしっとととっとととっ? してるの、ねぇ?」




