15.勇者の元下僕と勇者の恋人3
アリーとリリアンの話の最後です。
「…それじゃあ、今日中に仲間に伝えますね。」
アリーの提案を聞いたリリアンは、アリーに協力する事にした。ダンとブルーノもきっと協力するだろうが、確認は必要だ。最も、反対する事は絶対にないとリリアンは確信していた。
「私はずっとこの喫茶店で働いてます。この店のマスターともう1人の従業員は私の事情を知っておりますので、連絡事項があれば伝言して下さい。」
アリーの言葉にリリアンは頷くと席を立った。
「勇者アスラン様と、その他の下僕達に宜しくな?」
バロウがニヤリと意地悪な笑みを浮かべながらリリアンを見る。リリアンはバロウを睨み付けた。
「…相変わらず嫌味な男ね。」
リリアンはアリーに対しては申し訳ないと思う気持ちがあったし、アスラン絡みの嫉妬心もなくなった為、今は悪い感情は抱いていない。
けれどバロウの事はやはり気に食わないという想いが強く、嫌悪感を隠せなかった。
「もうバロウ、一先ず協力し合う関係になったんだから嫌味はそこまでにして頂戴。」
アリーが注意するようにバロウに言うが、バロウはヘラヘラとしてまともに取りあう様子を見せない。
バロウはアスランの事を一番敵視していたと思うが、アスランの仲間であるリリアンの事も気に食わないからこんな態度を取るのだろう。
アリーがアスランを嫌う気持ちは理解出来ても、バロウを好きになった気持ちだけは到底理解出来そうにない。リリアンはそう強く思いながらバロウを睨みつける。
「……私もリリアンさんに謝らないといけない事があるんです。」
バロウの態度に思う事があったのか、唐突にアリーはそう言ってリリアンを見た。
「えっ、わ、私に謝る?」
リリアンは驚き、バロウも目を丸くしてアリーを見た。
「実は私も、リリアンさんの事が初対面から気に食わないなと思っていたんです。」
「ど、どうして?」
アリーはアスランを嫌っているから、アスランの傍に女が居たって嫉妬はしないだろう。ではリリアンの外見や雰囲気が、アリーにとって何か気に入らなかったのだろうかと、リリアンは困惑する。
「…バロウが、貴女の事を褒めたから。」
「…は、はぁっ!!?」
アリーはそう言って、バロウに目線を送った。バロウは訳が分からないといった様子で驚愕した声を出した。リリアンも一瞬、何を言われたのか分からなくて固まる。
「お、俺がコイツを? い、一体何時褒めたって言うんだよ!」
「私とバロウが出会った時、村でメノアさん達に言ってたじゃない。いい女がアスランの傍に居るって。」
アリーがむくれた様子でバロウを軽く睨む。バロウはアリーの言葉を聞いても思い出せない様子で困惑しながらアリーを見ている。
「…そんな事、俺言ったのか?」
「言った。」
確認するようなバロウの問いに、アリーはきっぱりと答える。
「私がこんな嘘をつく理由ないでしょう? 後にも先にも、バロウがいい女だって褒めたのはリリアンさんだけじゃない。私の記憶力を甘く見ないで頂戴。」
「っ、い、いやいや、それはほら、その…その女共に嫌味を言ってやる為っていうか、本気で言った訳じゃねぇって!!」
アリーがバロウに態とらしく顔を背けると、バロウは慌てた様子で必死に弁解を始めた。
リリアンは2人のやり取りをポカンッ、とした表情で見続けた。
「…そういう訳なので、私もリリアンさんと同じ理由で貴女の事が気に入りませんでした。貴女の態度だけを非難して睨んだ訳ではなかったんです。ごめんなさい。」
「…ふふっ。」
そう言って軽く頭を下げるアリーに、リリアンは思わず笑ってしまった。
バロウがリリアンを褒めた話は本当なのだろうが、アリーがリリアンに嫉妬した事が本当かどうかは分からない。だが態々言わなくても良かった内容を話してくれたのは、バロウの嫌味に気分を害したリリアンを気遣う気持ちが少なからずあるのだろう。
「褒めてくれたのは嬉しいけれど、貴方に褒められても嬉しくも何ともないわ。」
「っ〜、だから、褒めてねぇよ! あ、いや、そりゃあアリーの言う事は本当なんだろうが…だ、だが口先だけで本心じゃねぇよ!!」
「あら、口先だけでも褒めてくれたのね?」
「っ〜!」
リリアンはバロウに褒められたってこれっぽっちも嬉しくない。だが折角のチャンスなのでバロウを態と怒らせるように笑顔を作りながら嫌味を言った。
バロウは顔を真っ赤にしながらリリアンを睨みつけてくるが、同時にアリーの事も気になるようで勢いをつけられない様子だ。
アリーは態とらしく腕を組んで、不機嫌ですと言わんばかりの表情をしているがその雰囲気は何処か柔らかい…。
リリアンは2人の様子にバロウはアリーの事は本当に大切に思っていて、アリーはバロウに心を開いているのだなと理解する。
そんな2人の事を微笑ましく思う一方で、自分とアスランの関係との差に羨むような、複雑な気持ちでリリアンは見つめていた…。
◆◇◆
「お、話は出来たのか、リリアン?」
アリー達と別れた後、合流地点に戻ってきたリリアンを見かけたダンが声をかけてきた。
「ええ。本当に有難うね、ダン。」
何処か吹っ切れたような様子を見せるリリアンに、アリーとの話が悪くないものだったのだと悟ったのか、ダンも少し笑顔を見せた。
「ブルーノと会う前に、アスランが居ない今のうちにダンに話すわね。」
リリアンはアリーが提案した内容をダンに話すと、ダンは目を丸くした。
「私は、2人が協力しなくても提案に乗るつもりよ。」
リリアンの言葉に、ダンは驚いた後に口を開こうとした。
「リリアン、ダン、何か情報は掴めたか!?」
アスランの声が2人の耳に届き、ダンは口を噤んだ。声のした方向を見るとアスランとブルーノが駆け寄ってきた。
「…いや、特に何もなかったな。」
「…私も。」
リリアンとダンの返事に、アスランはがっくりと肩を落とす。
「はぁ~…ここ最近、君達は何もないと言うばかりじゃないか!」
「アスラン、君だって何も情報を得てはいないでしょう。」
文句を言うアスランにブルーノが言うと、アスランはブルーノを睨み付けた。
「…確かに俺も人の事は言えないかもな。でもブルーノ、君は誤情報ばかりじゃないか! アリーとバロウの情報を掴んだと言って俺を連れて行ったと思えば、似ている人すら近くに居なかったじゃないかっ!! しかも、そんな事が何回も続いているんだぞ?!」
アリーの居場所をアスランに気付かれないようにする為。リリアンがアリーと話せる時間を作る為にブルーノは嘘を吐いてアスランを遠ざけてくれていた。
「仕方がないでしょう。僕は街の人達の情報を信用しただけです。こんな事は今までだってあったでしょう?」
「っ〜、もう良い。リリアン、あっちの方を探しに行こう!」
「っ…。」
ブルーノを睨んだアスランは、リリアンに同行するように言うとそのまま先に歩いて行く。リリアンはアスランの後ろ姿を苦い顔で見た後、ダンとブルーノを見た。
「ブルーノ、私のせいでごめんなさい。それとダン、ブルーノにさっきの件を伝えておいてくれる?」
「っ、ああ、分かった!」
「?」
疑問を浮かべるブルーノにダンが話しかける様子を確認すると、リリアンはアスランの下に駆け寄った。
あの2人の様子を見る限り、アリーの提案を受け入れる事は間違いないだろうとリリアンは確信した。
アリーの情報を掴めなかった事に対して露骨な態度でリリアンとダンを責め、ブルーノに八つ当たりするように文句を言うアスランの姿を見ても、リリアンはまだアスランから離れる決心がつかない。アスランへの恋人としての好意と、仲間として育んできた絆がまだ存在しているからだ。
それにもし、リリアン達がアスランから離れる選択をしたらアスランがどんな反応をするか分からないという、アスランを心配する気持ちと不安もあった。
だが、その一方で…。
「はぁ…。」
アスランは何を思ったのか、不機嫌そうな様子で溜息を吐いた。
アスランがリリアン達に見限られた時にどんな顔をするのかと、リリアンは何処か期待する気持ちを芽生えさせながらアスランを見ていた…。
アリーとリリアンの話はこれで終わりです。次回はバロウの過去を書こうか、アスランの回にしようかまだ迷っております。バロウの過去は最後に纏めて書いてもいいのかもしれませんし、書かないかもしれません 笑
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