10.リリアンの憂鬱3
リリアン達の話の続きです。アリーとバロウの回より長くなりそうです、すみません。
その後、レコは日頃の疲れが蓄積した影響か睡眠を欲して眠ってしまった。
アリーの父親は気不味そうにしながらも家の用事があると言って家に戻って行った。
「どうします、アスラン?」
レコの元にこのまま居るか、それとも何処かに行くのかとブルーノが質問する。
「…病院に居るなら婆ちゃんは大丈夫だ。だから、市場に行きたい。アリーの事、聞きたいんだ。」
「…分かったわ。行きましょう。」
◆◇◆
市場にアスラン達がやってくると、村に到着した時と同じように村人達は嬉しそうにアスラン達に駆け寄ってきた。
「…あ、アスランじゃないっ?! やっと会えたわっ!!」
村に到着した時とは違う顔も複数ある中、はしゃぐような女の声が聞こえてアスランが振り返ると3人の女が居た。
「えーと…君達は?」
「もう、覚えていないの? カレンダよ、カレンダ!」
名前が出てこないアスランに少し拗ねたように女の1人が名前を言った。
「私はミラ、本当に久しぶり! …もぅ、ほら! 早く挨拶しなよっ!」
もう1人が挨拶をした後最後の1人の肩をポンッ、と叩いた。叩かれた女は何処か恥ずかしそうに、気弱な様子でアスランを見る。
「…ひ、久しぶりね、アスラン。その、私…。」
照れ屋なのか、中々名前を言おうとしない。こんな性格の女の子は居ただろうかとアスランは疑問に思う。
「もぅ、緊張してるの? 全く…。」
何処かからかう様子でカレンダは女に言った後、アスランを見た。
「アスラン、この娘はメノアよ。私達の事思い出してくれた?」
「っ…!?」
その名前に、アスランだけではなくてリリアン達も目を見開いた。
「っ、メノア、なんだね? 君に聞きたい事があるんだ。」
「えっ?」
メノアが驚いた顔をしてアスランを見た。
「君とアリーが口論した事があると聞いたんだ。何を話したのか教えて欲しい!」
アスランの言葉に、和気あいあいとしていた村人達は静まり返った…。
「…アリーの事?」
ミラがぎこちない笑顔で言った言葉にアスランは頷いた。
アスランはアリーの父親からメノア達との事を聞いた事。そしてアリーから村の女の子達に嫌がらせをされていたと聞いた事を話した。
「ご、誤解よアスラン! 私達はそんな事をしていないわ!」
「そ、そうそう! アリーが勝手に言っているだけだから、ねぇ皆?」
カレンダとミラの言葉にその場にいた女達は頷いたり笑顔を浮かべていたり、各々の態度で同意する。
「…それならどうして、アリーは村を出ていったんだ?」
「それは…っ、そうよ! 聞いてアスラン! アリーは貴方の悪口を言う男を庇ったのよ、あり得ないわよね!?」
カレンダは思い出したように話し始めた。その話に女だけではなく、男達も口を開き始めた。
男、バロウは最低な男だ。
バロウの言葉なんて村人達は誰も信じなかった。
碌でもない奴に絡まれてアスランは大変だったな。
バロウを非難する声が広がっていった。アスラン達はバロウの事を良く思っていないのでそれについては内心で同意する事もあった。しかし、
「…アリーは、その男と仲良くしていたの。もしかしたらソイツに誑かされたのかもしれない。」
「えぇ、きっとそうよ。ソイツ、顔は悪くなかったしね。」
ミラとカレンダの言葉に、アリーに対する悪意を感じてアスランは2人を凝視した。
アリーはアスランに媚を売って引っ付いていただけだったに違いない。
アリーが悪口を言ってくる嫌な性格だったなんて思わなかった。
アリーは幼馴染のアスランの悪口を言う男を庇う最低な奴だ。
2人だけでなく、周りも同調するようにアリーの悪口が広がっていく…。
「ねぇアスラン、もうアリーの事なんか放っておきなよ。」
「そうそう! ところでさ、その…アスランに聞きたい事があるの。その…アスランって恋人がいたり…する?」
ミラとカレンダはモジモジと、何処か緊張した様子でリリアンを見た後に、アスランを見た。思わずリリアンは少し緊張してしまう。
「今はそんな事どうでも良いだろうっ!!?」
だが、アスランの怒鳴り声にミラとカレンダはビクッと身体を震わせ、村人達も驚いて口を噤む。
「やっぱり君達は、集団でアリーを虐めていたんだろう?! 今話していたような事を、アリーに言ったというのか?!」
「ち、違っ…ア、アスラン? お、落ち着いてよ…。」
「アリーが何か悪い事をしたというのか? 僕と一緒に居たくらいでどうして悪者になるんだよ。その男…バロウを庇ったのだって、君達がアリーを悪く言っていた時に割り込んできたからだと聞いたよ。」
ミラとカレンダ、そして周囲は顔色を悪くさせていく。
「で、でもアスラン! そもそも、私達と話す前にアリーはソイツと仲良さそうに話してたんだよ? だから…」
「だからと言って悪口を言っていいのか?! それに、君達は昔からアリーを除け者にしていたんだろう! 僕の幼馴染を、君達は傷付けてきたんだっ!!」
「っ…。」
ミラとカレンダ、そして一部の女達は瞳を潤ませ泣き始めた。
アスランは気不味そうな様子を見せるが、発した言葉を撤回する気はなさそうだ。
「…アリーの事が、気に入らなかったから…よ。」
その時、今までひと言も発しなかったメノアが意を決したように口を開いた。
「アリーは、幼馴染ってだけでアスランの傍にずっと居た。その事がずっと羨ましかった。ねぇ、私達が一度、貴方の人助けの手伝いをしたいと思って声をかけた事があったの、アスランは覚えてる?」
「…?」
メノアの言葉を聞いても何も思い出せないのか、アスランは困ったように黙り込んだ。
「でも貴方は“アリーが居るから気にしないで”、そう言って笑って断ったわ。私達は貴方に選ばれなかった、そう思ったの。」
「…え?」
悲しそうに笑うメノアにアスランは固まる。今の話を聞いても思い出せないが、おそらく当時の自分ならそう言うだろうなと、納得してしまった。
「だからずっと、アリーの事が憎くて気に入らなかった。私がアスランの幼馴染だったら良かったのに、って何度も何度も思ったわ。私だけじゃなくてきっと、皆もそうだと思う。」
そう言ってメノアがミラとカレンダ、周りの女に目線を送る。全員がメノアの言葉に同意するような目線を送り、悲しそうな顔をした。
「っ、だ、だからって…!」
「分かってるわ。」
虐めをして良い筈がない。そう言おうとしたアスランの言葉を予想していたようにメノアは口を挟んだ。
「…あの日、アリーとあの男に酷い事を私は言われた。何を言われたのかは言いたくない…ただその言葉は私の外見を、人格を否定するような侮辱そのものだった…今でもね、忘れられなくてとても辛いの。」
「っ、メノアは、凄く傷付けられたの! あれからメノア、酷く落ち込んで…あんなに明るかったのに…っ!」
メノアは困ったような弱々しい笑みでミラとカレンダの手を握った。
「でもね、アリーの言葉に私は納得してしまった。私は、最低だった。1人で文句を言うならまだしも、必ず誰かと一緒になってアリーに嫌がらせをした…。そんな性格最悪な私を、アスランが受け入れてくれる筈なんかないのにね…。」
メノアは無理やり笑顔を作っているが頬には涙が伝っている。アリーとバロウに傷付けられた事への悲しみ。そしてアリーにした事への罪悪感。そして、想い人であるアスランに非難された事で心が痛んでいるのだろう。
周りがアリーに嫌がらせなんてしてないと否定する中で、本当の事を言うのはとても勇気がいる事だ。ダンとブルーノ、村人達はメノアを非難せずに見届けている。
「…っ、」
アスランも何も言えなかった。メノア達がアリーにした事は赦せない。けれど彼女達の想いに全く気が付かず、無意識に彼女達を傷付けていた。そしてその事がアリーへの嫌がらせに繋がったのであればアスランにも非がある。そんなアスランに、メノア達をこれ以上非難する資格はあるのだろうか…。
気不味そうにメノア達を見るアスランを、ダンとブルーノ、村人達も何とも言えない顔で見つめていた。
「…どうでも良い?」
しかしリリアンは他とは違う目線でアスランを見ていた。今はアリーとメノア達の話をしていたのであって、アスランに恋人がいるかどうかは二の次である。そんな事は頭では分かっていた。
けれど、さっきアスランが“今はそんな事どうでも良いだろう”と返した事に対して、リリアンはとてもショックを受けていた…。
メノアに対しての感想も様々ですが、メノアはバロウとアリーに色々と言われた結果自信をなくし、暗くなりました。しかしその中で自分を振り返り反省もしております。他の女達は、自分のした事に思う事はあってもアリーが悪い、と思い込んでいました。そんな感じです。
ここまで読んで下さり有難うございました! もし宜しければ今後もお付き合い頂けると嬉しいです!




