神になるか、何万回死ぬか
朝だった。
瞼の裏に差し込む光で、それはすぐに分かる。
重たい体を起こし、ぼんやりと横を見ると――
魔王が寝ていた。
静かな寝息。無防備な顔。
「……なんで目覚めてすぐに、こいつの顔を見なきゃいけねぇんだよ」
勇者は無言で足を伸ばし、思いきり蹴りを入れた。
どすっ。
次の瞬間。
「――貴様!」
魔王も即座に目を覚まし、反射的に蹴り返してくる。
「寝込みを襲うとは、本当に最悪なやつだ」
「最悪なお前に言われたくねーよ」
朝一番から火花が散る。
互いに睨み合い、布団を蹴り合い、低レベルな応酬が続く。
そこへ、すっと襖が開いた。
「全く、朝から何やってんだい?」
食だった。
割烹着姿で、呆れ顔。
「起きたなら顔洗って、ご飯食べておくれ」
その一言で、二人はぴたりと止まる。
昨日、祭が食が鬼とか言っていたのを思い出したのだ。
絶対に怒らせてはいけない。
無言のまま、二人は顔を洗い、着替え、食卓へ向かった。
⸻
テーブルには、朝食が並んでいた。
目玉焼き。
味噌汁。
白米。
漬物。
湯気が立ち上り、香りが鼻をくすぐる。
「夜、食べてないんだから、たくさん食べなさい」
食の声は穏やかだった。
二人は無言で箸を動かす。
もぐもぐと咀嚼する音だけが、部屋に響く。
その時。
「食べ終わったら、これに着替えて神界に行きなさいよ」
テーブルの上に置かれた衣装に、二人の視線が落ちる。
淡い色の、薄い布。
魔王が眉をひそめた。
「……なんだその、ぺらぺらな服は」
「和服って言うんだよ」
食が答える。
魔王は鼻で笑った。
「そんな服では、すぐ死ぬ」
勇者も思わず頷く。
だが――
食は、腹の底から笑った。
「何言ってんだい?あんたたちはもう死んでるから神候補になったんでしょ?」
箸が止まる。
やっぱり、あの時。
隣のこいつのせいで。
勇者はゆっくりと魔王を睨む。
魔王もそれに気付き、睨み返す。
静かな殺意が交差した。
「とにかく、神界に行っておいで。なんで神候補に選ばれたのか、聞いてきな。そして神になるかどうか決めなさい」
勇者が顔を上げた。
「え? 神にならなくてもいいのか?」
「ならなければ、どうなる?」
その問いに、横から声が落ちた。
「は? そんなのも知らねーのかの?」
祭だった。
「もう一度死んで、生まれ変わりだな。お前らは山ほど殺してるからな。今度は弱い側だ。大きなものに襲われる恐怖を何千何万回と味わって、罰を償うんだ」
しん、と静まり返る。
次の瞬間。
「「神になります」」
声が揃った。
即答だった。
そしてまた、互いを睨む。
「そうと決まれば――祭!この子達、神界に連れて行ってね」
「えぇ!? 食さん待ってくれよ!俺にはこれから予定が――」
「酒飲むことの何が予定なんだい?」
ぎろり、と食が睨む。
祭は一瞬で背筋を伸ばした。
「……はい」
朝の光が差し込む中。
勇者と魔王は、渋々と和服を手に取る。
神になるか。
罰を受けるか。
選択はもう、決まっていた。




