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八百万荘の神様候補  作者: 脇汗ベリッシマ
7/9

神になるか、何万回死ぬか

朝だった。

瞼の裏に差し込む光で、それはすぐに分かる。


重たい体を起こし、ぼんやりと横を見ると――


魔王が寝ていた。


静かな寝息。無防備な顔。


「……なんで目覚めてすぐに、こいつの顔を見なきゃいけねぇんだよ」


勇者は無言で足を伸ばし、思いきり蹴りを入れた。


どすっ。


次の瞬間。


「――貴様!」


魔王も即座に目を覚まし、反射的に蹴り返してくる。


「寝込みを襲うとは、本当に最悪なやつだ」


「最悪なお前に言われたくねーよ」


朝一番から火花が散る。


互いに睨み合い、布団を蹴り合い、低レベルな応酬が続く。


そこへ、すっと襖が開いた。


「全く、朝から何やってんだい?」


食だった。


割烹着姿で、呆れ顔。


「起きたなら顔洗って、ご飯食べておくれ」


その一言で、二人はぴたりと止まる。


昨日、祭が食が鬼とか言っていたのを思い出したのだ。


絶対に怒らせてはいけない。

無言のまま、二人は顔を洗い、着替え、食卓へ向かった。



テーブルには、朝食が並んでいた。


目玉焼き。

味噌汁。

白米。

漬物。


湯気が立ち上り、香りが鼻をくすぐる。


「夜、食べてないんだから、たくさん食べなさい」


食の声は穏やかだった。


二人は無言で箸を動かす。


もぐもぐと咀嚼する音だけが、部屋に響く。


その時。


「食べ終わったら、これに着替えて神界に行きなさいよ」


テーブルの上に置かれた衣装に、二人の視線が落ちる。


淡い色の、薄い布。


魔王が眉をひそめた。


「……なんだその、ぺらぺらな服は」


「和服って言うんだよ」


食が答える。


魔王は鼻で笑った。


「そんな服では、すぐ死ぬ」


勇者も思わず頷く。


だが――


食は、腹の底から笑った。


「何言ってんだい?あんたたちはもう死んでるから神候補になったんでしょ?」


箸が止まる。


やっぱり、あの時。


隣のこいつのせいで。


勇者はゆっくりと魔王を睨む。


魔王もそれに気付き、睨み返す。


静かな殺意が交差した。


「とにかく、神界に行っておいで。なんで神候補に選ばれたのか、聞いてきな。そして神になるかどうか決めなさい」


勇者が顔を上げた。


「え? 神にならなくてもいいのか?」


「ならなければ、どうなる?」


その問いに、横から声が落ちた。


「は? そんなのも知らねーのかの?」


祭だった。


「もう一度死んで、生まれ変わりだな。お前らは山ほど殺してるからな。今度は弱い側だ。大きなものに襲われる恐怖を何千何万回と味わって、罰を償うんだ」


しん、と静まり返る。


次の瞬間。


「「神になります」」


声が揃った。


即答だった。


そしてまた、互いを睨む。


「そうと決まれば――祭!この子達、神界に連れて行ってね」


「えぇ!? 食さん待ってくれよ!俺にはこれから予定が――」


「酒飲むことの何が予定なんだい?」


ぎろり、と食が睨む。


祭は一瞬で背筋を伸ばした。


「……はい」


朝の光が差し込む中。


勇者と魔王は、渋々と和服を手に取る。


神になるか。

罰を受けるか。


選択はもう、決まっていた。


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