表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

24.パジャマパーティー

この物語のスピンオフとして書いた『愛し子は、森に捨てた』が、日間 異世界恋愛ランキングで20位に!(2021-07-09時点)


王妃フラヴィアが主人公のお話です。

 わたしは、はじめてのパジャマパーティーに浮かれていた。


 ブルーナが持ってきてくれた、侯爵家のスティルルームメイド特製のケーキに舌鼓を打つ。この国の名産品であるからか、ベリー類を豊富に使ったものが多い。


「王都では、チーズケーキが一番人気よ」


 ブルーナが言う。


「シブレベリーのソースをかけるのが王都風なの。これは王妃様が手ずから作ったものを使用人に振る舞ったところから人気になったのですって。

 それまでシブレベリーは生で食べることが多かったのだけれど、なんでも妖精の集落で教わったレシピらしいわ」


 ブルーナはとても饒舌だった。今日一日で、ブルーナととても仲良くなれた気がして、わたしはうれしくなった。




「ブルーナ、お祭りは行くの?」


 わたしが聞くと、ブルーナは首を横に振った。


「あれは庶民のためのものよ。でも……」


 彼女が顔を赤らめてなにかを言ったが、よく聞こえなかった。


「わたし、今度行くんだけど、何を着ていったらいいかわからなくて悩んでるんだ」


 そう言うと、ブルーナはどこかしゅんとした表情になり、それから衣装棚のほうへと来てくれた。扉を開けると、彼女は驚いて勢いよくわたしの方へと顔を向けた。


「な、ーーあなた、こんな服しか持っていないの?」

「ほとんどが姉のお下がりだったの。あの人に似合うものばかりで、わたしが着ると服に着られているような感じなのよ」


 わたしが言うと、ブルーナは納得したように頷いた。


「でも、シュリー伯爵家は、割と裕福なほうでしょう? 姉妹それぞれに仕立てるといったことはしてくれなかったの?」

「……うちでは、姉のほうが可愛がられていたから」


 わたしがちょっと卑屈になって言うと、ブルーナは眉を下げた。


「ーーその気持ちはわからなくもないわ。わたくしも、姉のブリアンナばかりが贔屓されて卑屈になってばかりだったもの」

「ブリアンナってまさか……」


 わたしは顔を上げた。その名前には聞き覚えがあった。


 カールした黒髪を二つに結っていて、やや吊り目がちな美人。その目は薔薇色をしていて華やかな雰囲気があった。

 ブルーナとはほとんど似ていない。




「ーーそう。姉は青侍女よ。あなた、あの人にいじめられたのではなくて?」


 わたしはばつが悪くなって、へらりと笑った。


「気を遣わなくていいわ。わたくし、姉のことは好きじゃないの」


 ブルーナがきっぱりと言い切る。


「お姉さんなのに、嫌いなの?」

「ええ。そうよ。家族だからきらいになってはいけない、なんてことはないでしょう?」


 ブルーナはけろりとした顔で言う。


「だって、あの人ったら底意地が悪いんですもの!」

「底意地……」

「いつもわたくしの容姿をけなすのよ? そばかすがあって醜いだとか、姉妹なのに不細工だとか。

 ーーそれが事実なのが嫌になるわ。それでいて取り繕うのはうまいし、何でも出来てしまうから、周りにはいつも姉と比べられてばかり」


 ブルーナはひと息でまくし立てて、それから、視線を落とした。少しだけ開いた窓から、涼しい森の風が吹き込んでくる。


「この間までの配属先は黄侍女だったでしょう? 姉が見習いをしていたときと比べられて、いつも叱責されていたわ。

 だから、ここでも叱られるたびに思っていたの。姉と比べられているのだろうなって」


 わたしは納得した。ブルーナは、叱られることに過剰に反応しているように思えたのだ。


 でも、前の配属のときのことが、トラウマのようになっていたのだろう。





「おい、ララリアラ」


 そのときだった。窓からいつものようにジークが入ってきて、ーーそして固まった。その目はまんまるく見開かれ、ブルーナを見ていた。


「なっ! ……ね、猫が喋った……」


 ブルーナが悲鳴を上げる。ジークは窓枠からさっと飛び降り、夜の森へと消えていった。


「ジークは精霊猫だよ」


 わたしが言うと、ブルーナは怪訝な顔をする。


「精霊猫?」

「うん。本人がそう言ってた。だから話せるんだって。

 田舎暮らしだったからか、ジーク以外には会ったことはないけれど、この国には妖精がいるでしょう? その御使いとかなんじゃない?」

「妖精は王都にいれば会えるというものではないわ。ほとんどおとぎ話のようなものよね。王妃さまのような妖精の愛し子でもなければ」

「そうなの?」


 わたしが聞くと、ブルーナは呆れたように首をかしげた。


「あなたったら、本当に無知なんだから」

「えへへ」

「ーーだから、淑女らしい振る舞いをなさいと……」




 それからわたしたちは二人で報告書を仕上げた。わたしのは見せたけれど、彼女が書いたものは頑なに見せて貰えなかった。


 そして、森乙女の祭りに着ていく服を一緒に考えてくれた。もう買いに行くだけの時間はないから、ブルーナの服を貸してくれると言う。


 しかも、当日は身支度を手伝う侯爵家の侍女さんまで! いつものようにブルーナに抱きつき、そして、怒られたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ