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 せっかくヒューイの地元までやってきたので、色々尋ねてみる事にした。


 キュピはいなくなったままだが、流石に迷子ではないと思う。


 王都の下町出身で、母親は看護師で、父親は貿易商で働いている。家には屋上があって、そこで母親が沢山の植物を育てていた。ある時プランターに「動いている野菜がいる」事に気が付いたのだと言う。


 精霊が『視える』体質なのが発覚して、個別の先生に習って、王立学院へ進学したらしい。勉強は得意なつもりだったけれど、上には上がそれこそ星の数ほどいて、割と頻繁に自分にげんなりする……ヒューイはそう締めくくった。


 好きなことを仕事にすると大変とは聞くがそれは本当の事らしい。


「最初の数年は野菜を食べることにものすごく抵抗があったんですが、慣れました」


 ヒューイはそう言ってブロッコリーをかじった。


 私も昨夜は鶏肉を食べたので、やっぱり人間というのは雑な生き物なのかもしれない。


「ミルカは……」


 自分の話をしようとして、思い出す。だって、ヒューイは私の事を知っていた。


「私は……私の事は知ってますよね」


「実は調査したわけではなく、僕は元々ミルカの事を知っていて」


 そうだったのか。全くの初対面だと思っていたのに、向こうは違ったらしい。


「……それって、目の色が関係ありますか?」


 私は格別地味なので、あまり知らない人が私の事を説明するとき「左右の目の色が違う子」と言われがちなのを知っている。どこかで見かけて、なんとなく覚えていたのだろうか。


「いえ、猫。去年猫を拾ってましたよね。その時に」

「ああ……」


 まさか、あの猫のことをヒューイが知っているとは思わなかった。


 雨の日、ずぶ濡れの子猫たちを見つけた。私と同じ瞳の色をした仔が混ざっていた。親猫は見つからなかった。


「寮はもちろん、母親が猫を触るとくしゃみが出てしまう体質なので、飼えなくて」


 引き取り手は見つかったが、最後に一番弱々しい白い子猫が残った。


「その子はエレナ様が引き取ってくださったんです」

「はい。知ってますよ。有名な方ですよね」


 ヒューイはエレナ様のファンなのだろうか? それで私のことを知っていた……のかもしれない。


 まあ、それは仕方がない。なんたって私が友人と名乗るのがおこがましいと感じるほど、エレナ様は素晴らしい方なのだから。



 食事が終わり、エラへのお土産を買うことにする。今日の服は借り物だったのなら新しい服を買わないか、とヒューイは何度も提案してきたのだがそれを固辞する。


 今日のヒューイはきっと「医者の不養生」さながらに、買い物ネズミに取り憑かれているに違いない。


 雑貨屋のあるあたりをうろちょろしていると、装飾品店のショーウィンドウが目に入った。ちらりと見る値札を見る限り、日常使いには割高だが手の届かない値段ではない……ぐらいだろうか。


 ヒューイは入りませんか、と声をかけてくる。せっかく今日はおしゃれをしているのだし、と少し気が大きくなる。


「これを買っていいですか」


 あれこれと見ていると、ヒューイは鳥があしらわれたバレッタを差し出してきた。少し仕事には派手すぎる。


「? はい」


 普通に返事をしてしまってから、これは私に買ってくれたのだ、と気がつく。今更値札を確認する事などできやしない……。


 きらきらの髪飾りは、丁重にリボンがかけられて私の手元にやってきた。


「ど、どうも……」


 恐縮してしまう。なにせ、今日はほとんどお金を払っていないのだ。なにかお礼をしなくてはいけない。とは言っても出来る事はキュピの事をもっと真剣に観察するぐらいだろうか。



 寮に戻って、ベッドに服を広げてみる。満足したので、鏡の前まで移動して新しいバレッタを留めてみる。


「うーん、なかなかいい感じ……かも」


 帰り際、私の瞳はとても綺麗だと言ってくれた。明日からメガネを外して生きていくのもいいかもしれないと思った。

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