13 狂気の女剣士
「ああん? ポーション作って来いって言ったろうが。まさか作って来てねぇなんて言わねぇよな?」
モーモンはそう言って俺を睨み付けてくる。
たしかに昨日の時点では受ける気だったが、事情が変わったんだ。
そんな依頼を受けているようなヒマはなくなってしまった。
俺がため息をついて彼を無視すると、モーモンはその顔を近付けて来た。
「てめぇ、せっかくこっちが依頼してやったのに――ん?」
モーモンはそう言うと、俺が持っている薬瓶に目を向ける。
そしておもむろに手を伸ばしてきた。
「なんだ作ってきてるじゃねぇか。よこせ」
「いや、これは……」
モーモンが俺の薬瓶を奪い取る。
そしてそれを光に照らして、片眉を吊り上げた。
「……なんだこりゃ?」
「何って……俺が作ったポーションだよ。☆5の……」
正確には本当に☆5なのかは鑑定してみるまではわからないのだが。
モーモンは俺の言葉を聞いて、呆けたような表情を浮かべる。
そして笑った。
「……はは、はっはっはっは! おいおい、面白い冗談じゃねぇか! ☆5? お前が? お前みたいなへっぽこ錬金術師が、切り落とした腕すら瞬時に再生するっていう☆5ポーションなんて作れるわけねえだろうが!」
モーモンはひとしきりバカ笑いした後、アゴヒゲに手を当てた。
「ははぁん? さてはてめぇ、食うに困ってポーションの偽造を始めやがったな?」
「んなわけあるか……!」
もちろんそんなことをしたらお尋ね者の賞金首である。
モーモンは俺を指差した。
「ならこれはなんだってんだよ! お前みたいなゴミ錬金術師に、偽物以外の☆5ポーションなんて作れるわけが――」
「――本物ッスよ」
そう言ったのは、それまで俺たちのやりとりを見ていたリュッカだった。
「……ああん? なんだてめぇは」
「シンくんのパーティメンバーッス」
「……へぇ、こいつの新しいパーティメンバーねぇ。ならこいつがどれだけ無能なのか知らねぇんだろ? こいつはなぁ――」
言いかけたモーモンの前で、リュッカは懐から短剣を取り出し目の前の机に突き刺した。
ダンッ、という机に短剣が刺さる音ともに、周囲に静けさが広まる。
「シンくんの目は嘘をついてないッス。――☆5のポーションは、傷に振りかければすぐにその傷が塞がるらしいッスね」
「え? あ、ああ……そうだが……」
モーモンは困惑しつつ答える。
……まさか。
「――リュッカ! やめろ!」
俺は止めようとするが、間に合わない。
鮮血が散る。
リュッカはためらいもせず、自身の腕に短剣を突き刺していた。
「――シンくんが真実を言っている方に、わたしは命を賭けます」
苦痛により顔を歪ませながら、彼女は笑う。
「――あなたは代わりに何を賭けてくれますか?」
リュッカは腕から血を流しつつ、モーモンに向けてそう言った。
――く、狂ってやがる……!
「……ひっ、ひぃっ!?」
モーモンはリュッカの腕から流れる血の赤さに、腰を抜かした。
リュッカが腕から短剣を引き抜く。
するとさらにその傷口から血が溢れ出た。
「うぐっ……!」
「な、何してんだてめぇっ! 頭イカれてんのか!?」
モーモンの言葉に、リュッカは額に汗を浮かべながらも笑みを浮かべてみせる。
「……さあ、早く賭してください。そうじゃないと死んじゃうッスよ、わたし」
「ひっ……!」
モーモンは助けを求めるように俺に目を向けた。
「お、お……俺が悪かった! 謝る! だから早く治してやってくれ!」
「……言われなくても!」
俺は青いポーションのフタを取る。
「……使うのは初めてなんだから、もし効かなくても恨まないでくれよ!」
そう言って俺はリュッカの傷口にポーションを振りかけた。
「……ぐぅっ!」
薬液が染みるのか、彼女が苦痛に声を漏らす。
同時に、振りかけた場所からキラキラと淡い魔力の光が生じた。
そしてリュッカの傷口が、みるみるうちに塞がっていく。
「……す、すげぇ……! 本当に治ってる……。マジで……☆5ポーション……?」
モーモンが呆気にとられた表情でそう言った。
リュッカは額に汗を浮かべたまま、得意げな笑みを浮かべる。
「……ね? シンくんの言う事、本当だったでしょ」
そう言って、彼女は傷を受けた手をにぎにぎと動かして見せた。
……どうやら後遺症などもまったくないらしい。
「……へへ。シンくんの初めて、奪っちゃったスね」
「誤解を招く言い方はやめろ。……☆5ポーションの初使用な」
俺は彼女のジョークにため息をつく。
「もう二度とこんな無茶はしないでくれ」
「……でもわたし、パーティメンバーが疑われてスルーできるほど気が長くないッスよ」
「……奇遇だな。俺もパーティメンバーが自傷して落ち着いてられるほど、のんきじゃないんだ」
リュッカの言葉に、俺はそう言い返すのだった。




