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12 夢の続き

前回からの回想の続きです。

「こ、この青色は……まさか☆5ポーション……?」


 俺はすぐに顔を近付けて確認する。

 これまで俺が見たことあるのは、☆4ポーションまでだ。

 ☆4のポーションは透き通った青色をしているが、今目の前にあるポーションはそれよりももっと深く濃い青色をしていた。


 驚愕(きょうがく)してそれを見つめる俺の横で、エルンが口を開く。


「自分が追放され過ぎたせいで、フジュンブツを追放するのが上手くなったんだな。追放職人(マイスター)じゃん」

()められてるのか(けな)されてるのかわかんねーな?」

「ボクがお前を(けな)したことなんて今まで一度でもあったか?」

「お前、その口の悪さでずっと褒めてるつもりだったのかよ……!?」


 俺はエルンにツッコミを入れつつも、目の前の現象に心を奪われていた。

 俺はフラスコを手に取って、中の青色ポーションを軽く回してみる。


「マジかよ……。物質の無条件(むじょうけん)単離(たんり)だと……? そんなことが特別な装置も使わずに、本当にできるのか……?」


 口元に手を当ててつぶやく。

 そんな俺の横で、エルンは「ふわぁ」とあくびをした。


「……じゃあボクそろそろ寝るけど」

「いやしかしそれができたとしたら――っと、ああ、わかった……おやすみ、エルン……」


 俺は自分でも動揺(どうよう)しているのがわかるほどの(なま)返事(へんじ)をしながら、彼女を送り出す。

 彼女はそのまま外に出て、帰路(きろ)へ着く。


 俺はふと我に返り、ボロ小屋から出てすぐ彼女の背中に向かって声をかけた。


「――エルン!」

「んむ?」


 彼女が振り返る。


「……今日は助かった! ありがとう! お前のおかげだ!」


 俺の言葉に、彼女は一瞬目を見開いた。

 そしてすぐにその表情を崩す。


「……えへ。よくわからんけど、それなら良かった」


 彼女は笑みを浮かべると、(ふところ)から仮面を取り出して(かぶ)ってこちらに手を振った。


 俺は彼女の背中を見送った後、小屋の中へと戻る。


「……さっきと同じ手法で不純物の『追放』ができるなら、どこにでもある素材で☆5ポーションが作れるはずだ」


 俺は早速ポーションの精製へと取りかかる。

 ――眠る時間も惜しかった。



 * * *



「……そうだ、思い出したぞ。俺はそうして朝方(あさがた)近くまでポーションの精製をしていて……」


 頭痛がする。

 見れば机の上には、他に二本の☆5ポーションが転がっていた。

 俺は持っている材料全てを使いきってポーションを作り、そして寝てしまったらしい。


「あまりに出来すぎた話だったから、夢かと思ってしまった……」


 もしこれが夢で、これから目を覚ましたとしても「やっぱりな」と思うぐらいには都合が良い話だった。

 だが現実だ。

 俺は合計三本のポーションを持って、それを鑑定してもらうべくギルドへと向かった。




 * * *



「……あっ! シンくんじゃないッスか」


 声をかけられ振り返ると、そこには笑顔のリュッカがいた。


「お、おう……」

「元気ないっスね。どうかしたんスか? はっはぁ、さてはこんな美人な女の子と話すのに慣れてなくて緊張してるんスね?」

「……いや? 違うが?」


 べつにそんなことはないが?

 生まれてこのかた女の子と恋愛した事がないとか、そんなことは全然ないが……!?

 俺はただ単純に、昨日出会ったばかりのリュッカとの距離感を測りかねていただけである。

 それ以上でもそれ以下でもないんだが!?


 俺が毅然(きぜん)とした態度で彼女を見据(みす)えていると、リュッカは目を薄く開けて笑みを浮かべた。


「シンくん、やっぱ図星ッスよね? ……ならお姉さんが女の子との会話の練習してあげよっか?」

「……お、お姉さんて、お前いくつだよ……!」

「わたしは十九ッス」

「たった一歳違いじゃねーか! そ、そんなんで年上ぶるんじゃない……!」

「えー? いろんなこと教えてあげようかと思ったんスけどね~」

「……い、いろんなこと……!?」


 俺はゴクリとツバを呑み込む。

 すると彼女はどこか妖艶(ようえん)な笑みを浮かべた。


「たとえば……」


 リュッカは俺の手を取って握りしめる。

 そしてそれを自身の胸元に持っていった。


「こうやって……」


 ぐいっと腕が引っ張られた。


「……(むな)ぐらを(つか)まれたときの、カッコイイ関節の()め方とか」

「痛い痛い痛い痛い! いきなり俺の腕で実践するな!!」

「こういうの、男の子って好きなんスよね……?」

「たしかに護身術(ごしんじゅつ)とかに(あこが)れはあるけど!」


 俺の本気の痛がり具合に、リュッカは腕を放してくれる。


「言ってくれれば、わたしがいくらでも教えてあげるッスよ!」

「いえけっこうです……」


 俺は肩で息をしながら彼女から離れた。

 俺はポーションの鑑定に来ただけだっていうのに……!


 ため息をついていると、そんな俺たちに声をかける者がいた。


「お、いたいた。シン、てめぇ約束のポーションは用意できたんだろうな」

「……べつに約束した記憶はないが」


 聞き覚えのある声の主に振り返る。

 そこにいたのは、昨日ポーション制作の依頼を押し付けてきたモーモンだった。

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