第五十九話 死者の器
「お前も懲りないよな。ちょっかいかけなきゃいいのに」
「そんなつもりはなかったんだけどな。ただ、会話が傍聴されていたのは分かった。あの髪飾り、偽物だったっぽいし」
たまった水銀を指でなぞると、そのまま宙に浮かせて瓶詰の中に流し入れた。
床には碧色の屑石が数個落ちている。おそらく、何かしらの幻術の類であの髪留めを作っていたのだろう。
「そんなに僕って疑われるようなことしてる? ちゃんと一族の名に恥じないよう手を尽くしているんだよ」
「明らかに怪しいだろ……」
「僕は皆と仲良くしたいだけだって。後にも先にもそっちの方が面倒じゃないし」
「いや、既に面倒なことになっているんだが」
ジャーダはにゃははー、と軽く笑いながら頭に手を組んでさりげなく会話を止める。
一応、自覚はしているんだな。ちょっと安心した。
「あぁ……そういえば、多分聞いちゃいけないんだろうけど、ヴォートって何者だ?」
「ん? 僕の腹違いの兄弟だね。もう死んじゃったけど」
特に躊躇う様子もなく口に出す。
この血族、なんにせよ死に過ぎていてあまり親族の死に深い興味がないのだ。
オーロに殺されているが、アイツもそこそこアルジェントの輩を殺しているからな。何の私怨があるかは知らないが。
「なるほど。そいつとメルクリオって何かあったのか?」
「何かあったというか……色々ありすぎて語りきれないというか……」
「因縁か何か?」
「切っても切れない腐れ縁、とでも言っておこうかな。死んではいるけど、器として存在しているんだよ」
「はぁ……哲学的だね。僕には解らないや」
人としての物理的な器か? それとも精神とか、概念的な器なのか?
考えたところでキリがないからやめよう。それが自分の身のためだ。
「種は一緒だから僕もヴォートも無能っちゃ無能なのさ。君と違ってろくな魔法が使えないしね」
「はいはい。その言葉は聞き飽きたよ。言うほど僕も魔法は使えないけどね」
僕は全ての属性が使えるとはいえ、得意不得意はある。
火も水もそこそこ扱えるが、風は読めないからまともに扱えない。相反魔法(光と闇の意)は頑張ればできるくらいだ。もちろん、地属性は専門だから誰よりも扱える。
それに、あの魔法以外極力使わないようにしているし、対外的な魔法使いとしての評価は低い。
「使えるだけいいじゃん。僕はやろうと思ってもできないからね」
トントントン、とタイミング悪く扉をノックされる。
……誰だろうか。ランポが薬草でも取りに来たのか?
「あ……失礼します。間が悪かったかしら?」
そこにはフラックスとアンヴィの姿があった。
アンヴィは服を新調したようで、魔術用の黒いローブを羽織っていた。
羽織の縁に金色の刺繍が施されている。それとなくオーロの正装を織り込んでいるようだ。
「ディマー! やっとおきたんだね!」
「あ、あぁ、心配させてごめんね」
優しく髪を撫でてあげると、嬉しそうにぴょうぴょん跳ねだした。
子供は与えるものが分かりやすくていい……。
「ありがとうフラックス。迷惑かけたな」
「いいんですよ。何よりアンヴィちゃん可愛いし、ローブのデザインのし甲斐があったわ」
アンヴィはくるくると回って僕にローブを見せつけている。
本当、愛らしいな。オーロとはいえ、不思議と守りたくなるものだ。
「ねぇねぇ、まじゅつやってよー!」
「あー、そういえばそうだったな。ルリジサを……」
そういった途端、既に準備してあったのかジャーダが籠に詰められたルリジサとレモンを持ってきてくれた。ちょっと得意げである。
「ほら、君がくたばっている間に摘んでおいたから。魔術ってものを見せてあげな」
「あぁ、助かった。今度杖に使う枝と薬草でも拾ってくるよ」
大体こういう借りは裏切るんだが、今回はついでに取りに行けるからちゃんと採取してきてやるか。
「私、ジャーダに用があるから二人で楽しんでね。最近、関節痛くって……」
「そうか。お大事に……」
フラックスは昔から節々を痛めているイメージがあるが、これと言って激しい運動とかはしていないんだよな。貧弱なだけなのだろうか。
そう思いつつアンヴィと硬く手をつなぎ、薬草臭い部屋を後にした。
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