第五十一話 真意
「アルジェントって、一体何なのだろうな」
滅ぶ血族であるということは変わりないんだが、なんというかこう、バラバラなんだよな。外敵が来ない限りは。
部屋に飾られている神話が描かれたタペストリーをなぞりながらため息をつく。
それは、サンクゥアーリの終末を簡略化したものだ。
「一つ、暴君による殺戮。一つ、日の消失。一つ、疑心暗鬼――」
こんな感じで9個書かれている。あながち間違ってはなさそうだ。
ただ、一つだけ文章が黒塗りにされていて何を意味した絵か謎である。
二人の人物が背中合わせで立っており、自らの首を絞めている絵だ。
そして、タペストリーの端に小さく「D.C.」と書かれている。汚い字であるが作者名だろう。
なんでメルクリオはこんな気味悪いものを飾っているんだろうな? 神話が好きとはいえ、悪趣味だよ。
……しかし、いざとなればアルジェントは全員策士だから殺し合えるんだよな。
ジャーダのパラライザーだって、威力を高めれば即死レベルだろうし、ランポなら国家を転覆できるくらいの魔術の知識はあるだろう。
フラックスは……実質財をあるがままに手に入れることができるから、魔術師を従わせるくらいできる。
「汝、全てを知る者よ、光を導き災厄を絶て(Io so tutto. Guida la luce e elimina la calamità.)」
この文章だけ我々とオーロの一部の人間にだけに通じる言語で書かれている。他は共通言語の「オムニス語」である。
それに、この言葉だけ明らかにインクの滲み方が違う。字をまねて別の人物が書いたのだろうか。
「……なんだ、ディマ。まだいたのか」
アンヴィを連れてメルクリオが戻ってきた。
アンヴィの腕には魔除けのミサンガが付けられている。術を施したのだろう。
生誕の儀の最後に、貰ったものを全て糸に変え腕に巻く習わしがある。
勿体ない気がするが、元に戻すことは可能である。赤子で死んだとき時くらいにしかやらないけどな。
「ディマー、見て! ミサンガだよ!」
色とりどりの糸が束になっていて綺麗な仕上がりになっている。
「おっ、良かったね」
「ディマはもってないの?」
「遊んでいた時に切れちゃったな」
自然に切れる分には何ら問題ない。そういうものだからな。
簡易的な魔除けがいらないくらい強くなった証拠でもあるからね。
「……で、なんでタペストリーなんて見ていたんだ? お前が芸術に興味なんてあったか?」
「いや? ただ悪趣味だな、と思ってただけ」
「そう思うか? 作者は上手く表していると思うよ」
「誰が描いたんだ?」
「……さぁ」
そこは知らないのかよ、と突っ込みたかったが、表情を見るに知ってそうである。
もしかして、メルクリオが描いたのかな? それなら真意を知りたいけど……。
「……アンヴィ、ディマに魔術の基礎でも教わってくるといいよ」
「うん! おしえてもらう!」
急にとんでもない注文を振られるが、アンヴィが喜んでいるのでまだいいか。
部屋から出て行けという意味だろうし従うしかない。
「そうだね、アンヴィでもできる魔術を教えてあげよう」
「ほんと!? たのしみ!」
アンヴィに右手をぎゅっと握られ、彼女の思うまま無邪気に部屋を飛び出す。
さて、何を教えようか……。




