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第四十九話 嫌疑

 アンヴィは箱を大事そうに抱え、俯きながらとぼとぼと歩いている。


「……メルクリオは、ちょっと不器用なだけなんだ。悪気があったわけじゃないよ」

「でも、怒ってたよ?」

「怒ってたのはアンヴィに対してじゃなくて統率者様(ドゥクトル)だ。いろいろと雑なのは……その……」

「メルクリオはきらわれちゃってるの?」


 幼子とはいえ核心を突くあたり女というものは恐ろしいものだ。

 嫌われている、と言えば確かに嫌わているが……僕の明確な理由は分からない。


「かわいそうだよ……」

「うーん、そうなんだけどね……。彼が望んでいる部分も少なからずあるというか……」

「仲直りすればいいのにね」

「そうにもいかないのが血族っていうものなのさ」


「そんなのひどいよ! みんな仲良くしようよ!!」


 少女の懇願が廊下に響き渡る。

 気持ちはよく分かる。僕も両方から煙たがられる存在だからな。


 アンヴィは考えるよりも早く行動に移していた。

 小さな体で懸命にメルクリオの部屋へと走っていたのだ。オーロのわりには情がある奴だな、とは思ったが、子どもだからこんなもんか。

 目で追えるような距離なので特段追いかけようとは思わなかった。転んでもすぐ駆け寄れるし、襲われたらすぐ殺せばいい。

 

 アンヴィがメルクリオの部屋の中へと消えたのを確認する。アイツが殺すような真似はしないからひとまず安心だ。

 早急に送らなきゃいけない書簡があるからな。それを出さないと――

 明らかに不審な挙動だ。()()を出した時点で挑戦的すぎる。

 なぜなら、あの種はオーロとデュンケルの敷地内にしかないのだから。


 部屋に戻り羊皮紙を取り出すと、走り書きで『ある人』宛てに書き出した。



 ――Find out Giada.Et latebat aliquid.(ジャーダについて調べてくれ。何か隠している。)by Dima――



 人差し指をくるくると回し水晶で鳩を作り出すと、手紙をくちばしに咥えさせて飛び立たせた。

 行先は、唯一の第三者的立場のフィークスだ――



 全く、アルジェントは歪んだ組織だな。





 とりあえずアンヴィがいるメルクリオの部屋へ行ったが、そこにメルクリオの姿はなかった。

 その代わりに、面倒な男が魔法陣によって縛られていた。アンヴィが張れるはずがないから、メルクリオが張ったんだろうけど……。


「えーっと、アンヴィ、これはどういう状況……?」

「メルクリオとお話してたらね、この人がいきなりあらわれて、まほうじんにひっかかっちゃったの。メルクリオは『取りに行ってくる』って言っていなくなっちゃった」

「はぁ……全く……」


 一週間に一度は見る()()だ。暇だからってちょっかいかけてくるシュピネの阿保(ビーネ)だ。

 真っ黒な毛で手入れのされてないボサボサの短髪である。褐色の肌であり、首筋には刺繍のような模様が描かれている。

 長身で痩せた身は指の長さをより誇張させている。本当に蜘蛛(シュピネ)のような指だ。


「ディマっ! 今日だけは君が救世主だ……。頼む、これを解いてくれ!」

「誰が解くか」

「だって、可愛い女の子がアルジェントにいるっていうからさ、気になっちゃうじゃん? ね?」

「やっぱり燃やすしかないな」

 

 パチパチと手のひらで燃え上がる火を見せつける。

 シュピネにいるやつらは、簡単に言うと虫そのものだ。普段は人の姿をしているが、虫に変化することもできる。めっぽう火には弱い。ちなみに、ビーネは蜂に変化する。


「あーー! それは勘弁してくれよ!! 同じ属性を扱う者同士さ、仲良くしようよ?」

「仲良くできないから滅べ」

「君だけには言われたくない……。今日もちゃんと用事があってきたんだよ!」

「何? 特に何も頼んでないんだが」

「デュンケルの動向だよ! 仕入れてきたんだから少しは弾んでよね? あとはアンヴィちゃんを手籠めに……」

「余計な一言さえなければ解いてやったが、より強い火力で炭にするしか……」

「分かった、分かったから何も手は出さないから解いてくれ!!」


 仕方ない野郎だな……解いてやるか。

 ため息をつきながら、気怠げに左手をかざして解除してあげた。


「さすがはディマ! 国王(レークス)に愛されているだけあって慈悲深いお方だ……」


 イラついたので間髪入れず足元に向かって水晶を突き指す。

 しかし、ビーネの姿は一瞬にして消えた。正確には、小さくなっただけだが。


「もう、怖いことしないでって」


 耳元でブンブン羽を鳴らしながら囁いてきた。

 本当、コイツの一言は毎回のようにイラっとさせる……。


「うわっ、ハチさんになっちゃった!?」

「そうだよアンヴィ! すごいでしょ?」


 そして、また一瞬で元の人間の姿に戻る。

 幻術の一種なんだろうが、仕組みは今一つ分からない。


「あっ言い忘れてたけど、ディマ生きてたんだね」

「残念ながら生きてますよ」

「俺も国王に愛されたいなぁ。あの人虫嫌いだから永遠に分かり合えないのさ」

「……そうなのか。そういえば、メルクリオも虫嫌いなんだよな」


 人の噂をしていたところ、ちょうどその人物が帰ってきた。


「……ディマも来ていたか」

「まさか、アンヴィを一人にして放置するとは思ってなかったが。毒針でも刺されたら……」

「向こうに利点がないだろう。やるはずがないと踏んだ」


 確かに、3つの血族で争ったら弱すぎて真っ先に死ぬもんな。

 納得していたところ、アンヴィから聞き捨てならない言葉が飛び込んできた。



「――メルクリオー、さっき首にまいてたロープはどうしたの?」

半年ぶりに更新しました。論文さえ書き終わればもう少し早く更新できるのですが……。

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