第三十九話 忌み子デリット
牢獄の中には蝋燭と古びた本が置いてあった。
どうせ信仰の本だろう。死刑囚に渡されるとしたらソルーナの転生論。
要約すると、真っ当に生き死んだ者は月に転生し、残虐を尽くした者は太陽の業火に焼かれ続けるというもの。
月に転生すればいつでも現世の女性と交われるのだ。魔術師からすれば天国なのかもしれない。その現世に生きる女性は月の民に犯されると血を流す。痛々しいから止めてもらいたいけどね。
また、月には白く鮮やかに咲く花があるらしく、その一部がオーロの城に生えている。名前は『アルブスルナ』。年中咲いている珍しいものだ。
その場所を照らせるくらい明るいが、30日前後で光が失われてしまう。
この花の光り方で暦を決め、今に至っている。
この花をあまり長い間見ていてはいけない。花に引き寄せられて、食そうとするらしい。
なお、この花の根は猛毒である。食せば激しい腹痛と幻覚が襲い、自ら首を掻き切って死んでしまうとされている。
僕が信じているかって? ……転生の下り以外は、信じているよ。
死後のことなんて誰も分からないんだから知ったところで意味はない。
まぁ、時機に分かるがな。
本を目を覆うように被せて、しばらく横になっていた。
*
「夕食のお時間ですよ。今日は鹿のローストとパンにスープ」
……聞き覚えのある老婆の声だ。
「もう忘れてしまったのですか? ペルマですよ」
「あぁ……そうか。随分と豪華な食事を囚人に出すんだな」
「最期ですからね。美味しいものを食べさせてあげたくて」
牢の鍵を魔法で解くと、プレートとスープ皿を地面に置いた。
「……暇そうですね。私も暇なんですよ。独り言でも聞いてくれんかね」
「仕方ないな」
僕は立ち上がって伸びをし、ナイフを使わすそのまま肉にかじりついた。
「……なんて行儀の悪いことを」
「久々にまともな食事にありついたんだ。これくらい許せ」
ろくに噛まずに鹿肉を飲み込んでいく。あいにく味はよく分からない。
パンはスープと一緒に流し込み、わずか5分ほどで食べ終えてしまった。
「元気がいいのか悪いのか……」
「で、話に来たんじゃないのか?」
「えぇ、そうですとも。あくまでも独り言ですが」
ペルマは煙管で吹かしながらことを話し始めた。
「あれは……20年位前でしたかね。現国王になったのは。その時に、或る二人の男女が禁じられた血族同士の交配をして、赤ん坊が産み落とされた。その赤子の名は『デリット』。名前の通り罪深き子であった。もちろん両親は処刑された。赤子は呪具にするために殺され、今もへその緒を混ぜて作った香炉をオスクリタは持っている。余程悔やんだのでしょうね……」
「どこがだ。へその緒を使っている時点で何とも思ってないだろう」
「……これはA.aが作った本の話じゃ。現実は違う」
ペルマは火種を器用に取り出しながら新しいシャグを詰めている。
そして、思いもよらぬ言葉を発した。
「――赤子は殺されていないんじゃよ」




