第二十五話 事実
「まぁ、それはともかく、少し用事があってここに来たんだが」
「なんだい? 君の願いなら何なりと」
ううっ、明らかに嫌な予感しかしない。僕の直感がそういってる。
悪い人ではないと分かってるよ? 分かっているけど……。
「さっき、グランディがアンヴィにかかっている魔術の類を調べてくれたんだ。そうしたら、彼女は意図的に魔術回路が切断されていると……」
「へぇ、なんでだろうね。君、魔法を使ったことはあるかい?」
「わたし? わたしは……ないよ」
「本当に? 口止めされてないかい?」
アンヴィの顔が一瞬にして強張る。
そして、僕の顔を見るなり抱きついてきた。
泣いている感じではない。だからといい、照れている感じでもない。困っているのかな。
「どうしたのアンヴィ?」
「……いったこと、ひみつにしてくれる?」
「えっ、も、もちろん秘密にしておくよ」
あれだけ魔法が使えないと言っていたのに、ランポが聞いた途端心が折れた……?
僕と何が違うんだ? 同じことを聞いたはずなのに――
「……あのね、朝おきたときにまっしろなドラゴンさんがいたの」
『ドラゴン!?』
三人は顔を見合わせた。
あぁ、間違いない。それは魔法でドラゴンを創造している……!
白ということは、光に偏っているのだろうか。
しかし、なんという魔力供給量なんだ。魔法使いといえど、ここまで凄いのは稀である。
なら、魔術師としても適正もあるはずだ。そんな子をなぜ封じ込める?
「それでね、ママにおこられたの。もうつかっちゃいけないって。だからまほうがつかえないの」
「……うん。意地でもこの魔術を解かないといけない。ディマ、母親を殺せ」
「そんな易々と人を殺せるか。他の術を考えてくれ」
「えー、今更言うことかよ。父親まで殺してるんだからいけるっしょ!」
こんなことアンヴィの前で話すものではない。二人とも感覚が麻痺している。
魔術をかけた本人が死亡すれば、確かに解くことは出来る。今考えられる中では一番手っ取り早い。
まぁ、殺すのは手慣れたものだ。それに、既に死刑は決まっているようなもの。
ここでまた一人殺そうが量刑は変わらない。とはいえ……
「……ころすってなぁに?」
両親を殺したうえ、アンヴィをアルジェントで育てるなんてことは可能だろうか?
彼女が死の概念を理解した時、殺されるのは我々ではないのだろうか?
……それは父親を殺した時点で一緒だが。
「消すんだよ。この世から」
ジャーダが無慈悲にそう述べた。
合ってはいるが、今教えるようなことではない。
「ママ、きえちゃうの? ……やだ」
「でも、ママが消えれば最強の魔術師にはなれるだろうね。おまけに、魔法使いとしても名を馳せることになるね」
「うーん……」
4歳には難しすぎる問題である。
まず、問題を正しく理解しているとは到底思えない。このまま承諾を得ても、僕としては腑に落ちない。
「それでも、いや……。ママがきえるのはいやだ……」
欲に溺れた大人たちは考えた。どうにかしてあの魔力を利用したいと。
「――別のアプローチ方法がないわけではない」