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アーク・ノヴァ――天球の音楽――  作者: 道詠
鹿砦の罠
10/19

The little Harmonia villagers βʹ

ネタバレ要素のある選択肢は数字表記、ないものは言葉で表記しています。

分岐があって、主人公の行動や言葉次第で状況が変化するような作品をプレイしてみたい。

「エー、では司会進行役のアレックスさんが優雅な食後のティータイムと参ってる間に、我々はむさ苦しい面子で苦々しげに今後のお話をいたしましょう」

「一輪の花を忘れてもらっちゃ困るよねぇ、はっちゃん?」

「ハイそこ私語は謹んでぇ!」

 アレックスが厨房で紅茶を淹れに行っている間、海松が陣頭指揮をとる事になった。オシロサマはノビノビとしている。

「まず、食事作れる人いるー?」

「冷凍パスタなら作れるよ~」

「せめて茹でてよお嬢さん!?」

「あはは、大丈夫、パスタを茹でるくらいなら」

「オレも作れるよー? 作ったげようか?」

「ハイアンタは後回しね! オシロちゃんは黙ってようね!」

 テグスはふるふると首を左右にふっている。山鳩はテーブルに伏せて居眠りしていた。

「牛になるぞ、山鳩くーん?」

 鳩羽は横でちょっかいを入れているが、山鳩はほっぺたを突かれようとすやすや夢の世界へ旅立っている。

「僕は調理実習でリンゴの皮をむく時に指を切り、ホットケーキを作る際は盛大に焦がしたほどだが」

「自炊してますから、出来るは出来ますけどぉ……大した物じゃないって言うかぁ……」

「ほほう、茶雀オニーサンは作れるワケね。オッサンも男の料理なら作れますよ。独身だからね、しょうがないねちっくしょう!」

「えー、アレックスオニーサンは作れませんとおっしゃってたので、作れる面子はこの海松さん、茶雀、山鳩、ハトちゃん、除外したいオシロサマになんのね。……少なッ!!!」

「もう全員食いたい物食えばいいじゃねーか」

「オッサンもそう思えてきたよ……っていうか、アレックスまだ? 紅茶淹れるのにどんだけマジになってんの? オジサン困るんだけどォー!」

「いい匂いしない?」

「言われてみりゃあ……だな」

「おいおい、アレックスってば紅茶どころか作ってるの? それなら言えって……いやマジで何作ってんだおまえさん」

 厨房の様子を見に行った海松は、真顔でツッコミを入れている。会話が聞こえてくるが、正確には聞き取れない。やがて、海松はガックリと肩を落として帰って来た。

「あの人……自由だわ」

「おいしそうだねぇ」

「食べたいな……」

 茶雀の目が厨房へと向かっている。暫く続きそうなので、他の者達は顔を元に戻す。

 それから話し合いは続いたが、料理を作る事の出来る人間の少なさを理由に、メニューは各々でと言う話に決まり、食事に来る時間と夜時間を決めた。

「まとめっと、朝食時間は朝8時。昼食は12時。夕食は午後8時。夜時間は午後11時。それでいいなァ!?」

 テグス1人がこくりと頷くが、他は相槌さえ打たない。海松の立ち位置が決まってしまった瞬間である。

「ハァ、最近のガキどもはコナマイキ通り越してジャイアントだわ……」

「日本語で話せよ」

「和製英語だ。オッサン疲れたんでアレックスにパスしてくるぜー」

 海松はふらふらと身体を揺らしながら、厨房の中へ入った。オシロサマは「酔いが回ってきたんだろうねぇ」とニヤニヤ笑っている。

「……ってなに食ってんだ!?」

 海松が厨房からアレックスを連れ戻しに来た時、彼は素手でパンのような物を口にしていた。

「海松、行儀が良くないよ。カルマの前では止めてくれ」

「ほへほふひへー」

「上品ってこれくらい普通だ」

 さらりと海松の発言を翻訳したアレックスは3段のワゴンをテーブルの前まで運んで行く。

 ワゴンにはティーポットとパウンドケーキが載せてあり、他にもジャムやクリームなどが置いてある。

「みんな、紅茶を飲もう」

「へー。アレックスって料理出来ないのに菓子は作れんだな」

「いや、作れないよ」

「へ?」

「紅茶を飲むためだからね、気合と根性、東洋の哲学だよ」

「いや、それは昭和論だから。ノリが友情、努力、勝利だよ」

「スゴイねぇ、紅茶パワーは! さっすがはアレックスクンだ!」

「今大事なのが何なのか分かってるでしょーか、アレックスさんェ……」

「アレックススッゲェー……」

「ボク、初めて作ったんだ。是非、食べてくれ」

 アレックスが興奮した面持ちで勧めてくるので、何故か全員で食後のティータイムに入る事となった。

「……で、食事当番はなしって決まったんだ」

「そうなのかい。山鳩のご飯が食べたくても、ダメなのかな?」

「こっち見んな。決まった事だろ」

「個人的に頼むのはどうかなー? チラッチラッ」

「オメーはサボりてぇだけだろーが!」

「りょっくん、2人作るのもみんなの分作るのも変わらないよ」

「さっきの話し合いって何だったんだよ!」

「オレの料理を食べないタメじゃなーい?」

「テメーは怪し過ぎんだよ! ヘイト稼ぎすぎだろ!」

「だってお料理キライだもーん」

「キメエ!」

「にゃははー。でね山鳩クン、みんなキミの御料理を食したい訳なんだ。いいよねぇ? ダメとは言わせないからいいよねぇ?」

「山鳩さんの御料理、とても美味しかったです」

「茶雀まで何を……はあ、わかったよ。でも、だれか手伝えよな」

「じゃあさ、作れる人が担当して、他の人が日替わりでサポートを務めるってどうかな」

「おういいぜ。茶雀とアレックスと海松とハトな」

「なんで私まで入ってるの!? パスタ茹でるだけゆうたやん! なんでやチーター!」

「俺はビーターじゃねぇ! 俺が作るならそうするに決まってるだろ」

「ボクは作れないんだけど……」

「パウンドケーキ作れたんだ。きっと作れるだろ」

「いいのかい? ボク、家では台所出禁になったクチだよ? 得意料理は白い物体Xさ!」

「よしやめよう貴重な食料がもったいない」

「黒でも紫でも赤でもなく白だと……? 私の友だちとどっちが料理ダメなんだろう……」

「オメーのダチは上回る可能性があるってのか……」

「オーブンに入れるだけの物でさえ爆発させる爆発のプロだよ」

「あぁ、クロの事か……」

 彼女の幼馴染である山鳩は思い出し笑いなどと言う平和なものではなく、引き攣った顔をしている。テグスも苦笑いだ。

「そういえば、テグス君が山鳩の幼馴染なら、クロの事は知ってるよね」

「うん……」

「昔はテグスも立派な美少女だったもんなー。あのときはまじで女だと思ってたぜ、わはは! いだっ! いてっ!」

「俺は男だ」

 低音で淡々と言うテグスはむっとした表情と非常にギャップがあった。声変わりとはかくも残酷なものである。

「て、テーブルの下で見えないからっていでええ!!」

「あははは、仲がいいんだね、善きかな善きかな」

「しょっちゅうケンカしますけどね」

 ぷくーっと頬をふくらませ、むっすりと怒るテグスはアレックスから紅茶とパウンドケーキを渡され、怒りを鎮めた。

「おいしいですぅ……」

 ぱぁあと花弁が舞い飛んでいる茶雀は、あっと言う間にパウンドケーキを平らげ、しゅんと萎む。

「お、おおおっ、おおおれっ、おなかいっぱいだから、はんぶん……たっ、たたたたべる?」

「いただきます!」

「メシさえあれば幸せそうだな、茶雀のやつ」

「見た目細いからちょっと意外だね」

「テグスって……そうだったんだね。色々とゴメン」

「アレックス? ま、まさか……」

「うん、すまないコトをしたよ。今までずっと不思議だったんだけど、そうか、だからみんな2人って言ってたんだね……」

 小声でアレックスの誤解を解いた後、鳩羽たちは和やかに談笑する。

「そういえば、あの可愛いスリッパ、履いてないんだね」

「あ、ああれは! こいつのシュミだから! 俺のシュミなんかじゃないっ!! ゴホッゴホッ……」

「ちげーし! そんな言い方するなよ! アレは妹のシュミなんだ!」

 大きな声を出して咽るテグスの背中をさすりながら、山鳩は必死で弁明している。

「あのネコスリッパは、売り場にアレしか残ってなかったんだよ。靴下2枚も履いてるのにあざ、テグスのヤツ寒いって言うし、だからソレ買ってくるしかなくて」

「こ、このパーカーだって、お前のシュミじゃんか」

 言い返しながらもまた咳き込むテグスに、鳩羽たちの方が慌ててしまう。テグスに睨み付けられた山鳩はヒューヒューと口笛を吹こうとしているが、動揺のせいで上手くいかない。

「山鳩さんキモイです」

「ちげーし! 俺着ても似合わないんだからしょうがねーだろ!」

「えっ!? ヤクザキャラが実は犬猫好きみたいなギャップ!? イヤ、キミがソレやっても気持ち悪いだけだからな!? 正気に戻れよ元野球部爽やか少年エース!」

「あははっ。ゴホッ、ゴホゴホッ。こいつ、妹さんとペアルックがしたいって言うんだ。それで似合わないからって俺に着せてくるんだよ、信じられないだろ?」

 笑っては咽るテグスだが、楽しそうに山鳩を指差して弄っている。山鳩は首まで真っ赤にしてテグスの米神をぐりぐりとし出した。

「ううー! やめろよいたいってば!」

「なるほど、謎は解けた! つまり山鳩、貴様はシスコンだ! しかも妹のペアルックツーショット写真にしたくても、自分が可愛い服着れないから友人を犠牲にするようなゲス野郎だ!」

「妹は今が一番可愛い時期なんだよ! 女子は早熟って言うし、幼稚園入ったらもう機会ねぇかもしれねーし、いいじゃねーか! なにがワリィんだよ!」

「俺に悪いよ」

「オメーなんぞどうでもいいわ! 妹の1年間のが貴重だっつの! 歩けるようになった妹はクソ可愛いからな、見とけよオメーら! 今度アルバム持って来てやっから!」

「いや無理だろ」

 テグスからの冷静なツッコミに山鳩が「俺は不可能を可能にする男だーっ!!」と暴走する。

 テグスは先程の米神フィンガーグリッカーが恐ろしかったのか、フードをすっぽり被って両手で痛む箇所を撫でている。しかし、そこはウサミミの部分なので前頭部だ。

(わー、すっごくかわいい……これが人体の神秘かあ~)

(うん、絶世の美少女だ)

「でだ、他にも妹が初めて離乳食を食べた時の記念写真に妹が初めて……」

「あははー、どうでもいいから寝るねねるねオレ」

「聞けよオシロー!」

「オレはオシロサマです! サマまで付けなさい! 名前なのよ!」

「そんな名前があるかよ! テメエはデカイ星様か! いいから妹の武勇伝を聴け!」

「どっちも遠慮させてもらおうかな。ハト、ボクの作ったパウンドケーキ、おいしくなかったかな」

「ううん、おいしいよ。でも、おなかいっぱいで……」

「そうか。テグスと言い、小食なんだね」

「ごっ、ごごごごっ!」

「うん、わかってる。気にしなくていいよ」

「あっ、は、はい……」

「おかわりいただけますか」

「茶雀はいいこだ、特大サービスしてあげるよ」

「やったー」

「……さっきからキャラもテンションも変わり過ぎてて、オジサン、時代の流れに着いてけないぜ……あと、あたしはコーヒーのほうがいいね。カフェインは社畜のオトモ」

「そうか……残念だよ、海松。仲良くなれると思ったのに……」

「まって! コーヒーか紅茶かってだけで!? オッチャンアンタだけはマトモと思ってたのに!」

「アレックスが淹れてくれた紅茶、家で飲んでるものとベツモノみたい。とってもおいしいよ」

「そうかい? うれしいな。おかわりがほしかったら、どんどん言ってくれ」

「うん。ところで、アレックス、キミは一日に何杯飲んでいるのかな……?」

 鳩羽はアレックスのおかわりハイペースぶりを見て、頬から汗を流すのだった。


「それじゃあ、早めに夕食を摂ったというコトで今日は晩御飯はなし、それで今回は解散だ」

「もう7時かー。山鳩の妹自慢で1時間潰れた気がする」

「何言ってんだ、アレックスの紅茶談義だろ」

「ヤレヤレ、困った人たちだね」

「山鳩、釣られてはいけない」

 肩を竦めるオシロサマを見て殴りたいと顔に書いてある山鳩を制止する鳩羽。その時、山鳩が小声で呟く。

「なんだか……信じられないな」

「田中さん?」

「いや……今日一日で色々あっただろう。脳がパニックを起こしそうだなと思ってな」

「明日はまだ見てない部屋の探索をしてみようよ」

「入れないから、見てないんじゃないの?」

「入れないというか、入る為には時間が必要そうな部屋だったな。僕が明日、調べに行く」

「ボクは海松とこれからの方針を話し合ってみるよ。だから、そっちのほうは頼んだからね」

「ああ。任せてくれ」

「それじゃあ、解散だ。若人は早寝早起きしろよー」

「じゃあね~」

「また明日な」

「お疲れ様でした」

「ま、また明日!」

 それぞれ気が合った者同士で固まり、廊下を渡って階段へ赴く。鳩羽は山鳩たちと一緒に部屋へ帰って行った。


 パタン。部屋の中に戻ってきた鳩羽はドアを閉めると、ベッドへ向かい、倒れ込む。

「うあー! クールに大人の余裕を見せようと思ったのにむっちゃ血気盛んにやっちゃったー! 若造のヒートにハートが点いてるしー! あそこで引き下がらなかったんじゃあ、菜種とおんなじじゃーん……はずかしーよー……!!」

 耳まで真っ赤にして枕に顔を埋め、反省会を開く鳩羽はずんと落ち込んでいる。少年はそんな羞恥心と後悔に燃え盛る彼女の姿を暖かな顔で見守っていた。

(うう、アレックスさんに申し訳ない事したぁ……! アレックスさんマジ大人だった、私ってばいけ好かないガキじゃないかー! ぎにょー! 次こそはもっと大人しくしてやるー!!)

(ふぁいとだよ! ボクも応援してる!)

 両腕と両足をバタバタさせている鳩羽は、暫くして力尽きたようにくたっと横たわって死体のように静かな眠りに就いた。


「……ふわあ。んーっ」

 ベッドから身体を起こした鳩羽は両腕を伸ばし、背伸びする。目覚まし時計を見ると午後11時を過ぎていた。

 それから制服を着たまま眠ってしまった事に気が付き、焦った様子で着替えようとして固まる。

「そうだ……ここの着替え使わないといけないから、迷って後回しにしてたら、いつのまにか眠ってたんだ……」

 鳩羽は洗面所で顔を洗い、一通りの支度を済ませると部屋を出て行く。光源となる物は防犯ブザーくらいだった。

(くらいよー! おばけでそうだよー! こわいようわーん!!)

(か、懐中電灯取って来よう。物置にはある筈だ……)

 鳩羽はへっぴり腰で壁にしがみつくようにピッタリ張り付き、おそるおそる歩き出した。


(あれ……? ライト、だよね? ど、どどうしようっ! こわいよアヤメちゃん!)

 螺旋階段の取っ手に掴まった鳩羽は、下の階で懐中電灯の光を見付ける。鳩羽はごくりと唾を呑み込んだ。

 明かりは階段の下に消えて行く。だが、暫く眺めていると、また明かりが出てきた。鳩羽は慌てて隠れられるところを探し、廊下に戻って行く。

 10分後、鳩羽はまた同じ場所に戻っていた。エントランスホールは元の静けさと暗闇を取り戻している。

 鳩羽は慎重に慎重を重ね、用心して階段を降りて行く。数分もかけて螺旋階段を降りきった鳩羽は、ガタガタ身震いしながらライトの跡を追った。

 エントランスホールの豪奢な螺旋階段の裏側には、隠されたように扉があった。内心悲鳴を上げながら試しに中へ入ってみると、同じような廊下が続いている。

 異なる点はどの扉にもプレートが無い事だろう。入ってみれば右手の1番目が用具入れ室、向かいが事務室、2番目は物置、それ以外の部屋は使用人の寝室だった。

 他と比べるとどの部屋も粗末な作りだったが、やはり誰一人としていない。寒気を覚えた鳩羽は踵を返した。


「……こんな時間に何の用?」

 食堂のドアを開けた彼女は、ドアを閉めると暖炉近くに佇む青年の背中に声をかける。


「……カードの事だ」

 振り向きざまに言い放ったその顔は紛れもなくそう、山鳩緑だ。鳩羽は息を呑み、警戒心を露わにする。

「やっぱりか。あの時見たのは、見間違えじゃねえみたいだな」

「……皆に言うつもり?」

「いいや。どうやら……同じチームらしいからな」

「それは……」

「ま、仲良くしようぜ」

 どこかほっとしたような顔で山鳩は鳩羽に歩み寄り、握手を求める。鳩羽は山鳩の握手に応じた。


(もう、あやしーから疑っちゃうところだったよ! ねー?)

 ダッシュで自室に戻ってきた鳩羽は、心臓の激しい鼓動を落ち着かせようと床にへたり込む。

「違う……恐らく山鳩は敵だ」

 よろよろとベッドまで戻ってきた鳩羽は、ベッドに腰掛けて両肘を膝に置き、手を重ねて暗闇を見据える。

(へっ? な、なんで? だって、処刑人って人殺しを掻っ捌くんだよね?)

「山鳩は同じ陣営だと言っていた。仲良くしよう、とも。私の役割を知っていたなら、そのような発言はとらないだろう。山鳩が毒発言に怒鳴ったのは、純粋な怒りだけではないだろうな。

恐らく、山鳩は未だに動揺を抑えられていない筈だ。だからこそ、性急にコンタクトを取って来た。さも私が同胞である確証を取らずに行動したのは、山鳩の性格だとも考えられるが」

(でもでも、しょけーにんって知ってたよ?)

「ベッド下の不気味な陶磁器人形に気をとられて、手紙は机の上に置きっ放しだった。

その時にカードは見られたと思うが、手紙の内容までは読めたか怪しいものだ。そこまで凝視していたなら、私に勘付かれる恐れがある。

無論、私が同陣営だと思ったなら問題ない行為だが、予想外の事態に慌てたのは向こうも同じだったのではないか、と私は考えている。どうだろうか?」

(うみゅー……アヤメちゃんもカレもあわてんぼさんだね~?)

「悪かったな、ヘタレで。私だって本意じゃないんだ」

 両腕を組んだ鳩羽はむきになって言い返すが、少年が頭に両手を置いてしゃがみ出したので、表情を砕いて少年を宥めた。

(アヤメちゃんこわいよー!)

「悪かった。だが、山鳩が役目を誤解してくれたのは不幸中の幸いだ。これで山鳩は敵陣営だと判る」

(じんえいって……どういうこと?)

「これはまだ憶測に過ぎないが、山鳩の発言から察するに私たちは少なくとも2つの陣営に分かれている。

菜種が差し出したカードはアルテミス、属性はカオスと書かれていた。和訳すると混沌だ。混沌と言う言葉から考えるに鶸柚は敵の陣営だと思われる。

そこから思考を辿れば、必然的に監視役の白き鴉が関係したもう1枚のカードは味方陣営だ」

(みかたなら、なんであの場に出なかったのかな?)

「理由は大まかに分けて2つ考えられる。1つ目は明かせないような事情があった。これは私と同じ理由だな。2つ目は本人がまだカードを見ていない可能性だ」

(じゃあ……どうして、ウソをついたんだろう?)

「正直な事を言って、後でカードを見た時に不都合な事が書かれていたらどうする? 本人の証言の裏を取る提案は、誰の口から出てもおかしくなかった。

発言するタイミングを逃す、あるいは引っ込み思案な性格の持ち主だったら、あそこは様子見していただろうから、場の不審さに気が付いた筈だ」

(てきじんえーさんもウソをついてるってこと?)

「当然だ。敢えてなのか馬鹿正直なのか分からないが、言えないと答えられた山鳩とテグスは白目だった。正直に答えられない時点で、当事者の私には目糞鼻糞だが」

(こらーっ!! おんなのこがそんなのいっちゃいけませーん!!)

「第三者の立場なら信用出来たのだがな。生憎、当事者だと物の捉え方もやはり冷静ではいられない。

処刑人のカードからして物騒な事態が起こるのは明白だ。現実に起こると考えたくないが、それは現実逃避になるのかもしれないな……」

(じゃ、じゃあ、あのとき、言い争いをしてたひとたちは……)

「事態を逸早くに把握して動転していた者達だった可能性がある。事実、私はそうだろう。菜種は彼が言うように他にも隠しているかもしれない。

オシロサマも何も知らない者の動きじゃないな。知らないであんなふうに動けるとするなら……それはそれで最悪だ」

 軽く頭を回転させて気分を落ち着かせた鳩羽は、部屋着と下着を取り出す。暖かそうな物を選んだ。

 次に彼女は薄手のグレーのトレーナーに青いパーカー、黒いチェックのスカート付レギンス、ギリシャ語文様のグレーサイハイ、モコモコ兎型スリッパに着替えた。

「……きっと、安心はできないな」

 鳩羽はふと自室の出入り口とも言うべきドアを見つめる。ドアチェーンもドアロックもかけているが、やはりこうして暗闇の中に独り取り残されると不安が湧き上がってくるものだ。

 鳩羽はつっかえ棒代わりにテーブルをドアの前に置く。バリケードと言うには心許ないが、まさか部屋を出入りするのにクローゼットのような重石を使う訳にもいかない。

(ふつうじゃない。それだけは解る。だけど、その理解に何の意味がある? 私は一体……どんな出来事に巻き込まれているんだ? これから、いったいどうなって……)

 それから、彼女が眠りに就く事はなかった。




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