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第二部 ー操り王子と囚われ姫の邂逅ー

 しばらくお休みしてました

 背後にドアの閉まる音を聞きつつ、真刃は廊下に出る。溜息ではないが、緊張からの解放のせいか軽く息が漏れる。ふぅ。直接魔女と会って、私は今珍しく後悔している。感情欠如なのに、後悔なんてするのか? 私は、する。後で悔いる事は、そもそも感情とは関係ない所で起きる症状だからだ。嫌な気持ちになる、不快な思いをする、というのは正直よく分からない。(日本語として知っているレベルである)しかし、なんか変な感じだったなぁ程度の認識はある。この感覚だけで、悔いるのには十分な判断材料である。この感じを味わって、ロクな結果に繋がった例が無い。感情があった時も、無くなってからも。だからまだ続いているこの違和感は、魔女から逃れてもまだ災難から逃れられない私の不運を物語る。

「やぁ、君がマサハさん、かい? 当然ボクをご存じだとは思うけれど、初めまして。ボクはB組のかなめだ」

 すぐ隣の階段を降りてきた男子生徒はそう名乗った。見事にブリーチさせた髪に、淡い微笑み。まぁイケメンの部類に入ると思われる。よく分からないけど。感情以上に、分からないけど。

「ん? どうしたマサハさん。まさか君は一か月前に転校してきた、雲類鷲真刃さんではないのかい?」

 枢のセリフは昨日貴矢と出会った時と全く同じ流れなのだが、真刃にそれを知る余地はない。よく知らないけど、この学校のセキュリティ甘々じゃない? 何で誰も知らないはずの苗字を知っている奴に、二人も会わなくちゃいけないのよ。怒りは存在しないにしろ、少々不思議ではあった。とはいえ魔女曰く何でも知ってるらしいので、疑問が生じるのは目の前の男のみなのだが。

「多分答えてくれないと思いつつ尋ねるけど、私の苗字どこで知ったの?」

 期待せずに一応聞く。薄ら笑いを崩さず壁に寄りかかっている彼に、真実を聞きだせるとは到底思っていない。それより。この男、何かが違う。魔女とも違うけど、なにか……ニンゲンらしく、ない。そのなにか、とは……? 真刃が結論に辿りつく前に枢が返答する。

「んん。何故? どうしてボクが『答えてくれない』んだい? レディの質問にはちゃんと応えるさ。しかもそのレディが、ボク好みなのだからね」

「……で? 言葉を修飾しまくって本質から回避しているB組の枢。答えられるものなら答えなさいよ」

面倒くさい奴との絡みから早く解放されたくて敵対意識を全面に出す。ところが当の本人は意に介していないのか、笑顔を絶やさない。まるで、さっきの魔女のようだ。終始笑っていて、それでいて周りも巻き込んで笑顔にさせる顔でない。周囲に悪影響というか、不快という印象を抱かせる笑み。無礼を承知で云えば。気色悪い。の一言に尽きる。そんな表情。

「んんー。そこまで言われては、さすがのボクも話す気が失せてしまったよ。それより、今日はキミに聞きたい事があるんだ」

 結局答えを保留したまま、次なる話題に入る枢。答えたくなくなったのか、答えられなかったのか。真刃は彼ではないから、真相は定かではない。

「王覇の欠片……ってしってるかい?」

「……」

 人間誰しも同じドッキリを二回やられては驚くより、呆れる。この時の真刃もまさにその状況であり、魔女が王を知っていた事実の驚愕は、枢が王覇の欠片を知っている驚きに上書きされなかった。故に眉一つ動かす事なく、平然と黙する。

「あれ、知らない? タカヤくんは知ってたのに」

「……?」

 このタイミングで何故貴矢の名前が? いや、今はその先。『貴矢は知っていた』。つまり貴矢と此奴は知人という事になる。しかも、王覇の欠片について語るほど親しい相手。いやいやいや、そんな馬鹿な。貴矢の友達は少ない……じゃなくて、貴矢はこんなにもそりが合わなさそうな奴を、友達とは呼ばない。貴矢の友達条件は相当に厳しい。だから友達がいないのだが……

「あなた……貴矢とどんな関係なの?」

 私の顔が思いの外こわばっていたのかだろうか。それを見て枢は爆笑した。

「んん! あはっはは! そんな怖い顔しないでよ、マサハさん。大丈夫。キミのカレシを取ったりしないって!」

「……っ」

 私はこの手の冗談が死ぬ程嫌いである。なのでまだ笑っている彼を残し踵を返す。

「……んん? ちょっと待ってよ、マサハさん」

 慌てて追いかけてくる枢。このまま無視しても良かったのだが、私を引き留めるために肩とか触られたら、本気で死ぬ程気味が悪い。しかたなく立ち止まり、振り向きざま言い放つ。

「余計な雑談をいれない約束なら、話をしてやってもいいわ」

「……んんん。どっかの委員長みたいな事言うんだねぇ」

 ニタニタ笑いを崩さないこの男は、爽やかにしかし粘着質に髪を搔き上げる。……ああ、本当に。胸が、ざわつく。枢の声、枢から発せられるすべての音が不快だ。でも具体的にどこが、と聞かれると答えに窮する。声の何がここまで私に影響を及ぼすのか。声のトーン? 喋り方? 何なのだ? 

「んんー。まぁ、了解したよ。話を戻すけど、ボクは王覇の欠片についてタカヤくんから直接聞いた訳ではないよ。食堂でA組の委員長、タケルくんと話をしてたのを偶然聴いたんだ」

「……猛……ね」

 あの俺様委員長か。あの人に貴矢は伝えたのか。王が統べるこの学校の事情を。貴矢といつも仲良くしてるし、王の話を言いふらしたりしない人だとは思う。けど、一言くらい私に相談してくれても、良かったのに……

「そう。それで、タケルくんに王捜しを手伝ってもらうようだよ。なんかタカヤくん、タケルくんを仲間にしようと必死だったよ? 自分が王覇の欠片を使って感情が無くなった、とかいってたし」

「———!? ……え、それって……」

 貴矢が失った感情は彼自身と私しか知らない。これはある種の絆の様なモノだと思っている。失う前の自分を知っているのはお互いだけ。誰にも言わない約束を交わしたわけではないけれど、なんとなく話てはいけない気がした。二人だけの秘密だと、そう思っていた。……のは私だけだったのか。いやしかし、貴矢が猛相手だとしてもそう簡単にペラペラ喋るだろうか。しかも食堂で? まさか、この男。私に嘘を信じ込ませて、貴矢との関係を悪化させるつもりなの? そんな無駄なこと……

「んん、そうだよ。何っけ、喜怒哀楽の……そう。『怒』だ」

「———っ!」

 え? 貴矢は本当にそこまで猛に話たの!? 枢がホラを吹いている、と信じたい。そして貴矢を信用したい。けれど何故貴矢は私に一言も……

「んんー。タカヤくんも事件解決に向け必至なんだよ。マサハさんなんて構っていられない程に、ね」

 軽く腕を組みつつ、涼やかな笑顔を浮かべている枢。此奴に知った風な口振りをされる筋合いなんてない……いつもなら、毒舌で返す所だが。私はガラにもなく、動揺している。自分で分かっているのだが、抑えようとすると余計に不安定になる。なけなしの、ココロが。痛む。なぜ? 貴矢は……私を…… 地面に足がついていない、無重力のような感覚。思考が、空回りする。

「ん。そーいえば、タカヤくんは? まだ保健室の魔女とのご歓談かい。マサハさんは追い出されちゃった訳だ。かわいそうに。そんなにタカヤくんに、信頼されてないのかい?」

「あ、あなたには……関係ないでしょ!」

 枢の言葉が、私のココロの奥底にヒビをいれる。貴矢に、信頼されてない。前の学校で王を二人で追い詰めた時も。ついこの間貴矢の部屋で会話した時も。さっき魔女と会っていた時も。そして、今なお。貴矢は、私を信用していない……?

「んん。まぁ魔女も『怒』を亡くしてるからね。以外と気が合うのかも。はは、案外あの二人、手を組んだりして。王覇の力を使える者同士、いいコンビだとは思うけどね。どっかの」

 枢は真刃が呆然としているのを気に留めていない。彼は決して他人に同情する人間ではないし、今の彼に意志はない。ピクリとも動かない真刃の肩に手を置き、耳元で囁く。

「王覇の力どころか感情が全てない、使い物にならないアナタとは違って、ね」

 顔を離すと、真刃の顔はもう完全に真っ白、いや空白だった。信じていた者に裏切られた、深い深い心底のブランク。

「じゃ、ね。マサハさん」

 上履きの音を響かせながら去っていく彼の姿を、もう真刃は見つめる事しか出来ない。得意の毒舌を奮うことさえ出来ない。……私は……今まで…… もう、思考を続けたくない。何も、感じないはずじゃなかったのか。なんだ、この胸のあたりの吹き抜けは。

「……何なのよ……」

 何故か泣きそうな声が漏れた。

 それから私はどうやって寮の自分の部屋に帰ったか定かではない。知らない内にベットで寝ていて、朝が来ていた。枕元が少し濡れている感じがしたが、何故なのか理由は分からない。

 

 姫は心に癒えないキズを負ってしまった。このキズがこれから主人公との溝を深めていくのだが…… これにて第二部、幕落ち。次は休憩時間を設けてからの再開となります。

 ……なんて、ね。ここまで、すべてわたしの読み通り……

 

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