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第十三話 情報屋

調査記録 『女神のような少女』

彼女を知れば知るほど女神のようだと感じる。本当に人なのか疑うほどに彼女は優しい。だがそれは、自己犠牲ありきのものなのだろう。


アイシス・フランセン

性別は女で、魔法属性は水。出身はフランセン王国の王族。生前の役職は諜報長官。享年19歳。

白髪にアクアマリンのような青の瞳を持った少女だった。彼女はフランセン王国の王族特有の白髪を持って生まれたため、10歳になる頃には軍に入隊させられたそうだ。『フランセン王国の王族』。一見、国のトップのような印象を持つが、その実態は名ばかりの王族で、実際の権力は軍が握っていた。そのため、アイシスの入隊は軍への献上品としての意味もあったらしい。

彼女への軍での待遇はそれはそれは酷いものであった。訓練と称した暴力、毎夜部屋に入ってくる欲にまみれた男たち、上司からの覚えのない責任の追及など、挙げればキリがない。そんな中、彼女は自分を守るために必死で試行錯誤を繰り返した。部屋にトラップを仕掛けたり、護身術を学んだり、とにかく必死だった。アイシスが15歳の時、サルバート連邦との戦争が勃発した。そこでアイシスに総帥の暗殺任務が課された。その任務を境に、彼女はサルバート連邦に寝返り、二度と帰ってこなかった。フランセン王国は滅び、サルバート連邦のユーラリ地方となった。そしてアイシスは諜報長官の地位を手に入れ、サルバート連邦軍に入った。そこでシャマールと出会い、彼との間に双子を妊娠した。出産後1週間でアイシスは処刑された。

レイヴンが目を覚まし、時計を見ると7時を回っていた。寝た時間が8時くらいだったので、かなりの時間寝ていたことになる。隣ではレイヴィアがまだ寝息を立てていた

「姉さん、起きて。もう朝だよ」

体を揺するがいっこうに起きる気配がない。レイヴンは起こすのを諦め、部屋を出た

「あら、おはよう。よく眠れたかい?」

部屋から出てきたレイヴンを見てナタリーが声をかけた

「おはようございます。おかげさまでぐっすり眠れました」

「おや?レイヴィアはどうしたんだい?」

レイヴィアの姿がないことに気づき、ナタリーがレイヴンに問いかける

「姉さんはまだ寝ています。起こそうとしたんですが全然起きなくて、かなり疲れてるんだと思います」

「そうかい。この1週間気が休まらなかったんだろうね。ゆっくり休ませてやんな。それはそうと、レイヴン、腹は減ってるかい?」

「え?まあ、はい。すいてます」

「ちょっと待ってな」

ナタリーはそう言うとキッチンへと向かい、何かを作り始めた。少し経つとキッチンからいい匂いが漂ってくる

「はい、出来たよ。冷めないうちに食べな」

「ありがとうございます。いただきます」

そう言ってレイヴンはナタリーが作ったフレンチトーストを食べ始める。半分ほど食べた辺りでレイヴィアが起きてきた

「おはようございます。ナタリーさん」

「姉さん、おはよう。よく眠れた」

「おはよう、レイ。おいしそうなの食べてるね」

そう言うとレイヴィアのお腹が鳴った。恥ずかしそうにレイヴィアが俯いた

「はっはっは!同じものを用意しよう。少し待ってな」

ナタリーはそう言って再びキッチンへと向かい、フレンチトーストを作り始めた

「はい、お待ちどうさん」

「......」

レイヴィアはいっこうに食べようとせず、出された皿を見つめ続けている

「食べないの?おいしいよ、これ」

「......なんか入れたりしてないですよね?」

相変わらずレイヴィアはナタリーを警戒しているようだ

「ずいぶんと警戒心が強いねぇ。まあ、悪いことじゃぁないけど。心配なら、先に私が一口食べようか?」

「......いえ、大丈夫です。いただきます」

そう言ってレイヴィアは恐る恐る一口食べた

「おいしい......」

「そうだろう?何せ、アイシスが直々にあたしに教えてくれたレシピだからね」

「「え」」

2人が同時に声を漏らした。フォークを持つ手が、ほんのわずかに止まる

「そうなんですか?」

「ああ、お前たちに会う機会があれば食べさせてやりたかったんだ。こんな形ではあるが、ご馳走できてよかったよ」

そう言ってナタリーは白い歯を見せながらニヤリと笑った。ナタリーの言葉を聞いた2人が黙々とフレンチトーストを頬張っている

「「ごちそうさまでした」」

2人はほぼ同時に食べ終わり、食器を片付けようとする

「ああ、片付けはいいさ。あたしがやっておく。2人は座ってくつろいでな」

「ですが、作ってもらったのに片付けまでさせるのは......」

申し訳なさそうにレイヴンが言う

「あんたらは客人だ。客人に働かせる家主なんてどこにいる。いいから座ってな!」

「......では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

レイヴンがそう言って座り直したのを確認し、ナタリーはキッチンへと向かった

「そういえば、姉さん。昨日『十分すぎるほど集まった』って言ってたよね?どれくらい集まったの?」

「ああ、その話ね。黒幕の可能性のある人が分かったわ。あと、お母さんを貶める事に協力していた人も、ね」

「なんの話をしているんだい?」

いきなり声を掛けられ、2人は驚いて振り返るとそこにはナタリーがいた。食器の片付けを終えて、こっちに戻ってきていたようだ

「さあ2人とも、風呂を沸かしたから入っておいで」

「何から何までありがとうございます。姉さん、先入っちゃいなよ」

「いいの?じゃあ、行ってくる」

そう言ってレイヴィアが席を立つ

「風呂は寝床から2つ目の扉の先にあるよ。脱いだ服は脱衣所にある籠に入れておいてくれ。着替えも脱衣所に置いておいた」

「ありがとうございます」

そう言ってレイヴィアは風呂の方へと向かった。

1時間ほどでレイヴィアは戻ってきた。背中まである長い髪からは水が滴っている

「もう、姉さん。髪を拭いてから来てっていつもいってるでしょ?ほら、ここ座って。拭いてあげるから」

レイヴンは立ち上がり、先ほどまで座っていた椅子を指差してそう言った

「はーい」

レイヴィアはレイヴンにタオルを渡し、指定された椅子に座る。レイヴンは慣れた手つきで髪に付いた水滴をタオルで拭き取っていく

「......はい、おしまい。次お風呂入ってくるね」

「ええ、ありがとう。いってらっしゃい」

レイヴンが風呂場に向かった後、少しの間沈黙が流れる。レイヴィアが気まずくなって話題を探していると、ナタリーが口を開いた

「レイヴィア。あんた、右腕怪我してるだろう?」

「......っ!そうですが、どうして分かったんですか?」

「さっきの食事中なるべく右手を使わないようにしてただろう?それでだよ。ちょっと待ってな。今手当してやる」

そう言ってナタリーは何処かへ行き、救急箱を持って戻って来た

「お待たせ。さあ、右腕出しな」

レイヴィアは大人しく袖をまくる。レイヴィアの腕は赤く腫れあがり、少し熱を持っていた

「筋肉は大丈夫そう。関節が外れたりもしていない。骨に少しひびが入っているが、折れてはいない。それと、打撲くらいか」

そう言ってナタリーは腕に湿布を貼り、包帯を巻いた

「これで良し、しばらく安静にしていればすぐ治るさ。さあ、次は脚だしな。そっちも怪我してるだろ?」

「ばれてましたか......」

レイヴィアは大人しくズボンをまくった

「こっちは擦り傷かい。ずいぶん派手に転んだみたいだねぇ」

ナタリーは救急箱から消毒液と綿を取り出し、消毒液を綿に染み込ませた

「私消毒液で傷口触られるの嫌なんですけど......痛!!」

「我慢なさい」

ナタリーは容赦なく傷口を消毒する

「はい終了。お疲れさん」

ナタリーが片付けながら、言う

「ふー、痛かった~。それにしてもナタリーさん、手当するの手慣れてますね」

「こんなんでも、元軍医だからね」

「へー。どこの軍にいたんですか?」

「フランセン王国だよ。あんたらの母親と一緒でね」

それを聞き、レイヴィアは申し訳ない気持ちになる

「......なんかすいません。お母さんが滅ぼしちゃって」

「どうして謝るんだい?あたしはむしろ、アイシスに感謝してるんだよ。あそこは地獄のような場所だったからね」

「そう思ってくれてるなら良かったです」

レイヴィアは安堵したように微笑む

「あたしはアイシスに助けられた。だけど、あたしはその恩を返せぬまま、あいつは死んじまった。だからその恩をあんたらに返すことにするよ。話は聞いてる、アイシスの復讐をしてんだろ?なら、それに関係ありそうな情報を全て出す。これでどうだ?」

「逆にいいんですか?そんな大事なカードをタダで貰って」

「もちろん、ただしレイヴン以外に内容を言ってはいけないよ。例えリディでもね」

ナタリーの目が、鋭く細められる

「......分かりました」

それを聞き、ナタリーの表情はフッと軽くなった

「なら良し」

「さっきから思ってたんですけど、ナタリーさんって、なんだかおばあちゃんみたいですね」

レイヴィアがニコニコしながら言う。それを聞いたナタリーが目を見開き、呆れたようにため息をついてこう言った

「......まだそんな年齢じゃないんだけどねぇ」

「年齢とかそういうのじゃなくて、なんて言うのかな包容力?貫禄?がすごいんですよ」

「そうかい。褒め言葉として受け取っておくよ」

そう言葉を交わす2人の間には、来たころには想像もできなかったほどの和やかな空気が漂っていた

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