愛とは……
本日2話更新しております。こちらは2話目です。
真実の愛。
その反対、真実ではない愛とは、つまり偽りだということになる。
だが、偽りの愛ということは、そもそも愛ですらなかったということではないだろうか。
「……何だかね、真実という言葉のせいで、好きだったという感情まで全て否定されたように感じたわ」
今はもう、アルビオンに対しての好意など全く無いが、『真実の愛』という言葉により、綺麗な思い出まで全てを無かったことにされてしまった。
「あいつのその言葉は、不貞を美化するだけのものだろ?真実と付ければ、より素晴らしい愛のように聞こえるだけだ」
少しだけ不快そうに眉を寄せたサフィリアは、ルビーの顔を覗き込みながら小さく息を吐き出した。
「………ルビー、俺にとって愛は、好きを積み重ねたものだ」
「サフィ……」
「たくさんの好きを少しずつ、少しずつ重ねて……、気付けばそれが愛になっていた」
毎日毎日少しずつ気持ちを重ねた結果、好きという気持ちが愛に変わった。
「恋は落ちるもので、愛は育むものだと聞いた。ルビーへの気持ちを自覚した時、あぁこういうことなのかと思った…」
「……愛は育むもの……」
「愛着という言葉があるだろ?あれだってそういう意味じゃないかと俺は思うよ」
“好き”という気持ちが高じて行き着いた先、離れ難いモノに持つ気持ちが愛着だ。
モノに対して単純に愛が着くだけじゃない。愛が着くまでの過程に意味があるのだ。
「俺はルビーが傍に居てくれるだけで嬉しい。でも、ルビーが幸せなら身を引いてもいい。そんな愛など偽善だと言われても、ルビーの幸せを願うこの気持ちは誰に何を言われても俺の中の真実だ。けど、それが真実かどうかなんて俺以外には誰も分からない。だから、真実の愛なんてモノはこの世に存在しないと俺は思う。……いや、違うな。愛は、全てが真実であり偽りだ。それを真実にするか偽りにするかは、その心を持った本人だけにしか分からない。それを他人に語ろうとするから、面倒なことになるんじゃないかな?」
人に伝えようとするから、真実だと口にする。
けれど、それを口にした瞬間から、真実ではない愛、偽りが生まれてしまうのだ。
「……ルビーにとっての真実の愛ってなに?」
「私の…?」
「うん」
「………何だろ、ずっと考えてたけど、まだ答えは出ないわ。………でも……」
サフィリアが言ったように、本当の気持ちなんて本人にしか分からない。
じゃあ、ルビーは?
ルビーにとって、愛とは一体なんだ?
………別れるまで、確かにルビーはアルビオンを愛していた。
その気持ちに一切の偽りはない。
そうだ。
別れてもなお、あの時の気持ちが偽りだったなんて思ったことは一度もない。
「私にとって愛とは、全てが真実よ。人を好きだと思う気持ちも、愛おしいと思う気持ちも、私にとってはそれは全てが本物。ただ、それだけよ」
自分の気持ちを偽ったら、それはもう愛じゃない。
ルビーが分かっているのはただそれだけだ。
「私は決して偽りの愛は口にしないわ…」
「……それはつまり、俺を好きだと言ってくれた気持ちが偽りじゃないってことだよね?」
「何よ、サフィ。もしかして疑ってたの?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
言い辛そうに言葉を濁したサフィリアは、そっとルビーの頬へと指を添える。
そして、長い指が慈しむように何度もルビーの頬を撫でた。
「今ならアルビオンは独りだし、ルビーが望むなら……と考えていた」
「望まないわよ!もうアルビオンに対して愛情なんて欠片も残ってないわ」
「うん、分かってた。けど、やっぱり少し不安だったみたい。ゴメン…」
「サフィ……」
こんなにもサフィリアを不安にさせたのは、多分ルビーが待たせ過ぎたからだ。
幾らでも待つと言った彼に甘えていたせいで、こんなセリフを言わせてしまった。
「サフィリア…、愛してるわ」
「ルビー……」
「どうやら私の気持ちも、やっとサフィに追いついてきたみたい。待たせてごめんね」
言い終わると同時に優しく腰を引かれ、サフィリアの腕の中に閉じ込められた。
包み込まれるような温かい温もりに、ほっと全身の力が抜ける。
やっぱりサフィリアの傍は安心する。
「………俺も愛してる、ルビー」
それ以上の言葉は必要ないというように、サフィリアの唇がゆっくりとルビーへと重ねられる。
そっと触れるだけの優しい口付け。
離れていく唇を少し寂しく思いながら、ルビーはサフィリアの胸に顔を埋めた。
多分、ルビーは今真っ赤な顔をしていると思う。
「うふふ、王城でこんなことするなんて、まるでお姫様になったみたいね」
赤くなった顔を誤魔化すようにそう言えば、サフィリアも冗談めかして後に続く。
「じゃあ俺は騎士になってルビー姫を守ることにしよう。………と言いたいけど、父さんや兄さんにバレたら殺されるよね?」
「……大丈夫、多分…」
「そこは断言して欲しいよ、ルビー……」
婚約を決めてから、婚前交渉は禁止とばかりに目を光らせ始めた父を思い出し、二人は小さく微笑んだ。
こういう時、何でも筒抜けの家族というのも考えものだが、その分、こうして二人きりで居られる瞬間を大切に出来る。
「サフィ…、ずっと傍に居てくれてありがとう」
好きを積み重ねることがサフィリアの愛。
ならば、その愛がずっと続くように彼の傍に居たいとルビーは思った。
これにてこのお話は完結となります。
最後までお読み頂きありがとうございました。
特に誤字が多く、沢山のご指定ありがとうございました。
また、多くの感想やレビューも頂き、本当にありがとうございましたm(_ _)m