ファースト・コンタクト?
今日も「彼」は山の斜面を見下ろしている。見つめる先には、白く長い蛇の様に見える物がある。人間たちがわらわらと、蛇のようなものを伸ばしている様に見える。あれは街道だろうか。山の麓に沿って徐々に蛇はその身体を伸ばしていく。
数日眺めていた「彼」だったが、ついにその好奇心を抑えきれなくなったのだろう。斜面を下って白く長い蛇に向かって進んでいった。
(向こうが驚くんじゃないかな。)
そう思ってびくびくしていたが、「彼」にも「彼」なりの考えがあったようだ。斜面を下っていく途中で日が暮れた。月に照らされた斜面を更に淡々と下って行き、人間たちが寝静まった頃に街道にたどり着いた。
綺麗な石畳の街道がそこにあった。滑らかな表面の石が隙間なく並べられている。これなら素足で歩いても大丈夫じゃないか。そう思えるほど美しい街道がそこにあった。片道一車線で歩道まで付いている。ずいぶんと文明レベルは高いようだ。中世ヨーロッパどころじゃない。
「彼」もいたく気に入ったようで、ためつすがめつ眺めている。そのうちに、街道の先端までいくと、そこにある作りかけの街道を見つめていた。2メートルほど掘り下げてから、土台を作り、その上に中央が盛り上がった基礎層があり、その上に石畳を敷いているようだ。「彼」は暫く見つめていたが、不意に基礎層の上に手近にあった石畳の材料を置き出した。
(単に置くだけじゃがたがたじゃないか。いたずらしたらまずくないか)
そう思っていたら、「彼」な並べた石の上に手を置いてすーっと右から左に撫でていった。「彼」の手が動いた後には、きれいに繋がって磨かれた石畳が残されていた。いや、人間が作った街道より更に綺麗な出来。
面白くなったのか「彼」は更に作業を続けていった。朝方には、作りかけの街道は全部完成した街道となっていた。
「な、なんじゃこりゃ」
背後で驚きの声が聞こえる。ご満悦の「彼」は全く気にしていないようだ。いいのか、おい。
背後でばたばたと足音が響いている。街道工事の人間たちが集まってきたようだ。わいわい騒ぐ声の中でも「彼」は平然としていた。
「わいわい騒ぐな。今日の仕事を始めるぞ。後、大将呼んできてくれ」
工事の人がよってくるのをみて「彼」は初めて気付いたようだ。物足りなさそうな様子で、人間たちから少し離れて工事の様子を見守ることにしたようだ。人間たちは土台を作るために地面を掘り下げ、基礎層を作り、石畳を敷いていく。
そうして街道を作っている人間たちを暫く見ていたが、「彼」は山へ帰途についた。斜面を登っていきながら、一度だけ振り向いた彼の目に街道を馬が人を載せて駆けてくるのが見えた。あれが大将なのだろう。どうやら面倒事にはならないですみそうだ。
あれ、僕は人間社会で過ごしたいんじゃなかったけ。ひょっとしたら失敗した?