そして僕は眠りについた
石畳の道は麓を通って伸びていった。工事は順調に終わったようだった。
やがて、道を行き来する旅人や馬車の姿が見られるようになった。時折、兵士たちが行軍してゆく。何回か万を超える軍勢が進んでいくのも見た。
「彼」らの住む地までわざわざ山を登ってくる者はめったにいない。森の民と名乗った親子連れがたまにやってくる位だ。娘の会話もうまくなったか、僕の判る言葉をあまり使ってくれなくなったのが少し寂しい。
時はゆっくりと、そして確かに流れていく。軍勢の姿を見ることもない平穏な時代が来て、そして動乱の時代。麓を行き来する軍勢を見ることも多くなったが、かつての様に万を超えることはなくなった。時折やってくる森の民も、最近広まった一神教が人間以外の種族を否定的に見るので住みにくくなったと愚痴をこぼすようになった。
「彼」が見下ろす麓の世界も徐々に輝きを失っているように思えてきた。「彼」も見るのがつまらなくなってきているのか、見下ろすことも少なくなってきた。空を見上げてぼーっとすることも多くなった。ぼーっとしたまま、すーっと眠りにつくことも増えてきた。「彼」が眠りにつくと僕も眠くなって一緒に寝ていた。
何回目の長い眠りの後だろう。目をさました「彼」の動きが随分と鈍い。「彼」の仲間たちも皆眠りについているようだ。「彼」の目に写ったのは、人間が建てたと思われるコテージ。そして夜の闇。そういえば、昔は夜でも周りがこんなに暗くなかった気がする。ため息とともに「彼」は目を閉じ再び眠りについた。そして僕も夢の中に…
* * *
「今年分の詳細データ持ってきたよ~」
「もうそんな時期か。どうやら黒字だな」
どこともつかぬ灰色の世界に小さな光と大きな光が会話をしている。
「へー、昇格ラインの8割まで積み上げたんだ。すごいねー」
「リスクもあるがな。最近はほいほい異世界に行くのが増えたから楽になってきたがな。」
「増えると楽になるの?」
「自分で行きたがってくれると、転移のコストが下がるからな。あまり行きたがらない奴を送り込むには、抵抗を取り払わないといかんからその分パワーが必要になるし。」
「ちーと与えるのって、コストかかるんじゃないの?」
「まぁ、ただとはいわんが、転生しないで成仏する連中の能力を拾って集めれば大概なんとかなるから、それほどかからんのよ。」
「でも回収はどうするのさ。」
「まぁ、あれだな。異世界に行って成長していくと、自らを鍛えるわけだ。鍛えることで未来への伸びしろが得る事となる。鍛えることで強くなって自らの限界を越え、異世界の強者に挑んでいく。物語ではないから、倒れる者も当然入る。倒れたものは、未来への伸びしろを失うわけだ。それを回収するって訳だ。」
「ふーん、じゃ寿命で死ぬと赤字になるのかー」
「まぁ、成長していてくれれば微赤だな。自らを鍛えれくれれば、その分戻ってくるから。それに、戦いの多い時間線に放り込むと自然に鍛えられるから、普通はそこまで悪くならん。当初の予定ではもう少し積み上がってるはずなんだがなぁ。」
「あぁ~、それは死者のデータしか見てないからじゃないの?」
「全員分だと、貰うコストが増えるじゃないか。それに、異世界送っちゃたらこっちから干渉するのもコストがかかる。死んでからまとめて黒字ならいいと思ってたんだが」
「そかー、これって特例じゃなくて、うちの上司からの確認で持ってきたんだけど、まぁ見てよ」
「どれどれ、あぁん。3000年死なずに成長なし。いや、こいつ能力一つ削れてるからマイナスの成長ってことは、どうやっても黒字にならないじゃないか。」
「それだけじゃなくてね、この子1000年近く眠ってるのよ」
「幾ら岩精霊でも、それ長すぎるな。確か、送り込んだ世界は、これか。む、この世界の魔法限界だと、岩精霊は非活性化してしまうから、起きれなくなっているのか。」
「この世界ね、1500年位前から魔法を否定する一神教が広まってね。魔法限界が下がっちゃったんだよね。」
「ここまで下がると、魔法生物は生まれてこないか。素がタフな岩精霊位でないと生き延びたものももうないだろうな。」
「どうすんのこれ?」
「どうしようもないな。塩漬けにするしかないか。」
「塩漬けね、わかった報告しとく。これからも頑張ってね」
「送り込む先ももう少し慎重に選ぶことにするか」




