第81話 レッドドラゴンーースカーレット
周囲がざわつく中、レッドドラゴンの背中から二人の人物が降りてくる。
一人はダグラス・デ・ボイル。ボイル伯爵家の当主で現在のレッドドラゴンの主人だ。
「久しぶりだなクラウス」
「ええ……お久しぶりです」
今回の趣旨を説明する招待状を送ってはいたのだが、まさかレッドドラゴンを連れてくるとは思わなかった。
「紹介させてもらってもいいかね?」
彼の静かな声に圧を感じると、俺はゴクリと喉を鳴らした。
「当家に棲んでいる、レッドドラゴンのスカーレットだ」
スカーレットは金色の瞳を俺に向けた。
「ご丁寧にありがとうございます」
俺の周りにいる三匹を彼らに紹介する。
「フェニックスのフェニと、レインボーバタフライのパープル、そしてプチゴーレムのロックです」
『ピピピ……』
『…………#』
『…………(怖)』
流石に目の前にレッドドラゴンがいるせいか、三匹とも普段よりも大人しい。
他の招待客も、突如現れたドラゴンの存在に沈黙している。
今回のパーティーの話題は、このレッドドラゴンがメインになってしまうのは間違いないだろう。
そんな中、ダグラスさんは隣に立つ人物の背をそっと押す。
「自己紹介宜しいでしょうか?」
「あ……ええ」
ドレスを身に着けた彼女は洗練された動きで右手を動かし胸へともっていく。そして優雅な礼をすると名前を告げた。
「ダグラスの孫のシャーロットです」
「初めまして、クラウスです」
右手を差し出し握手をする。その手の感触に俺は眉をピクリと動かした。
「初めまして、クラウス様。お会いできて光栄です」
彼女は特に気にすることなく優雅な言葉を口にする。
「孫娘はテイマーの学校に通っていてね。今は従魔を四匹従えている」
ダグラスさんがシャーロットについて説明をした。
「テイマー学校があるんですね!」
「ええ、世界中でこの国にしかなく、生徒の数もそれ程多くはいませんが、とても良い学校ですよ」
従魔を手懐けた子どもなどが在籍しているのだという。従魔に肯定的な貴族や裕福な家庭などが多いのだとか。
「それにしても、従魔が四匹いるのは凄いですね……」
基本的にモンスターを懐かせるには、生まれたばかりのころから世話をしなければならず、苦労をするのだという。
今の年齢で四匹もとなると、どれだけ大変なのだろうか?
「いえ、クラウス様のご活躍には敵いません」
ところが、シャーロットは苦労した様子などまったくみせることなく微笑んだ。
「従魔と過ごす時間はとても尊く得難いもの。クラウス様もそう思われたからこそこのパーティーを企画されたのでしょう?」
まるで心に透き通ってくるような笑みにこちらも思わず表情が緩んだ。
シャーロットはこれまで感じたことがない独特の雰囲気を漂わせているのだが……。
「確かに面白い試みをしたようだな」
ダグラスさんが機嫌よさそうな様子で話し掛けてきた。
「ええ、この国でテイマーという存在が認められつつありますが、それでもまだわだかまりは多い」
反対派閥の貴族や商人を招き、実際に従魔と触れ合わせる。今回の件はそれを狙ってのもの。
「こうして実際に従魔と同じ場所にいてもらうことで、何かが変わるのではないかと思ったんです」
実際、テイマーが連れてきた従魔に対する反応は様々だが、反テイマー派とはいえそこまで忌避した行動をとる人物はあまりいない。
「俺はあの時、君が今後何を成せるか問いかけたが、その答えがこれということかね?」
「ええ、まあ……」
ダグラスさんもシャーロットも俺も、この場にいるテイマーの全員が魔物と人との共存を願っている。
俺は目を逸らすことなくじっと彼を見ていると……。
「君の試みは評価しよう」
ダグラスさんは口元を緩めると微かにわらった。
「ありがとうございます。それにしても、まさかレッドドラゴンに乗ってこられるとは思いませんでした」
ボイル伯爵家の人間は多数の従魔を抱えているときく。その中でもレッドドラゴンは家のシンボルともなっている存在で、人前に姿を見せないことで有名だ。
従魔同伴を許可したパーティーとはいえ、他にいる従魔を連れてくると思っていたのだが……。
「スカーレットが連れていけとせがむものでな」
「言葉を話せるのですか?」
こんなところで語ってしまって良いのだろうか? 俺は彼をじっと見ると、
「心を許した者にのみ念話で話し掛けてくるのです」
シャーロットが教えてくれる。
スカーレットは俺を観察すると金色の瞳を開いた。
「どうも、スカーレットは君の従魔にも興味があるようでね」
「そうですか、なら三匹に相手をさせます」
『ピピピ?』
『…………☆ミ』
『…………(震)』
パープルがロックを吊り、三匹はスカーレットの下へと向かう。
『……ピィ?』
『…………?』
『…………(傾)』
『…………』
三匹の様子に、スカーレットは鼻息をならすと首を地面に付ける。
危害を加えることがないとわかったのか、フェニやパープルはその頭に乗っかるとクチバシで突き始めた。
「こ、こらっ!」
「構わない。本当に嫌なら触らせはしないからな」
ダグラスさんがそう告げる。
神獣と幻獣の触れ合いなど世界中でここでしか見られないと思うのだが、あまり興味はなさそうだ。
「私も久しぶりのパーティーだ、一仕事させてもらおうかね」
「一仕事?」
俺が首を傾げると、
「せっかく君が反テイマー派を有利な場所に引っ張り出してくれたのだ、この機会にこちらに取り込めないか話してみるのもよかろう」
ダグラスさんは衣装を直すと、そのままパーティー会場へと合流していく。
味方となるととても頼もしかった。
一緒に行動するのかと思っていたシャーロットだが、何故か俺の隣にとどまっている。
彼女はしばらくの間、スカーレットたち四匹の従魔を見ていたかと思うと……。
「クラウス様、少々お話させて頂いてもよろしいでしょうか? 同じテイマーとして興味がありまして……」
俺はその誘いに応じるのだった。




