第235話 市場に出回らないごく上品の土産
二人を残して店を出て、隣を見ると隣はエルフの店だった。
看板には『付与承ります』と書かれている。
「確か、優秀な触媒があれば簡単に付与できるようになったんだっけ?」
現在、俺がサイラスに卸しているスカーレットダイヤの宝玉とフェニックスの宝玉とクリスタルコカトリスの宝玉。
これらは触媒として優秀らしく、簡単に魔法の付与を行えるとのこと。
「お兄さん、人族の人だね? 何か記念品に魔法を付与したりしない?」
見ていると中からエルフの少女が出てきた。
「いや、今のところは別に……」
一般的な効果としてつけられるのは四属性の魔法だが、どれも家事や雑事に使える程度のレベルでしかない。
やはり観光客相手ということで、付与できる魔法を抑えてるのだろうか?
「『アポーツ』の魔法を付与できたりしないのか?」
エレオノーラさんに頼んでいるのだが駄目元で聞いてみることにする。
「無理無理! あれって、古代魔法文明の魔法を理解してないと使えないんだよ! エルフ中でも使えるのは三人だけだよ!」
「そうなのか?」
よほど高度な付与魔法なのだと知って驚く。
「そんな意地悪な質問しないで何か買ってってよ」
情報だけ引き出して立ち去るのは悪いと思ったので何か買うことにする。
「どんな物を扱ってるんだ?」
「うちはハーブとかポーションとかがメインかな」
「ポーション類は知り合いから買ってるから間に合ってるな」
タバサさん以上の錬金術師がそうそういるわけがないので、ここで買っても無駄になるのが目に見えている。
「むむむ、意外とケチだね。お兄さん」
それを買い渋ってると思ったのか、エルフの少女は眉根を寄せた。
「だったら、市場に出回らない極上品とかどう?」
他人に聞かせられないからか、彼女は顔を寄せると耳元で囁いた。
「極上品?」
「そっ、この『テンプシーハート』は知る人ぞ知る最高のアイテムなの。飲むと極上の快楽を得られるし、一度体験したら二度とこれなしじゃ勃たないって話だよ」
取り出したのは小瓶だった。桃色の液体が入っている。もしかするとこれが先程メリッサが言っていた俺には言えない土産というやつか?
「うん? スタミナ回復ポーションか何かか?」
妙な言い回しに首を傾げる。
『ふむ、スイレーンの臭いがするようじゃが?』
鼻をひくひくと動かし臭いを嗅いだダキーニが断定した。
こんなところでもスイレーンにかかわるとは奇妙な縁があったものだと感心する。
「いや、遠慮しておくよ」
「そお? 滅多に手に入らない物だからお兄さんにいいかと思ったんだけどなぁ」
そこまで勧められると断るのが申し訳なく感じるのだが、効果がよくわからないアイテムに手を出すのは気が引ける。
「兄さん、お待たせしました」
「お待たせ、クラウス」
そうこうしている間に二人が出てきた。どうやら買い物を終えたらしく二人とも紙袋を持っている。
「何々、そっちの店で何か買おうとしてたの?」
メリッサが興味を持つと、エルフの少女はサッと先程の瓶を隠した。
「ん?」
「な、何でもないですよ?」
誤魔化し笑いをする。どうやらこの二人には商品を売りつけるつもりはないようだ。
「それで、二人は結局何を買ったんだ?」
俺が質問をすると、
「まだ内緒です」
「そうね。後の楽しみにした方がいいわね」
何やら二人だけの秘密があるようで疎外感を覚えた。
「まあいいじゃない。それより次の店に行くわよ」
メリッサが強引に肩を押すので、エルフの少女を残してその場を後にするのだった。




